五十一撃目
ふわっとしたかと思うと。
見慣れた景色が広がった。
私が一ヶ月と二週間前に出勤の為歩いていた道だ。
酷く懐かしく感じる。
どうやら、この世界の神とは直接会えなかったようだ。
さっきまで隣に居たドラゴン達は居ない。
呼び出された同じ場所に彼らも戻ったのかもしれない。
そうなると、タルッタとタルトは離れ離れなのか、それともコッコアルットは同じ場所なのか…わからないがもし離れてても彼らのことだ何とかするだろう。
さて、一ヶ月半もたったのだ…仕事は、どうなっているだろう?
そんな事を真っ先に考えてしまい田中を社畜と呼ばないなと1人笑いをしてしまう。
荷物も沢山あるのだ。
とりあえず一度家に帰らなくては…。
てくてくと家路に急ぐ。
爽やかな風が吹く。
あぁ、こっちの世界は暑くなく過ごしやすい。
私の格好が目立つのか周りの人々は、時折こちらを不思議そうに、見てきた。
日本ではさほど珍しく無いがジーンズにワイシャツスニーカー。
首からはポラロイドカメラと田中に貰ったネックレス。
耐水アラーム付きの腕時計10個に偏光板のサングラス。
荷物がパンパンに詰まったバックパックにLサイズのスーツケース。
そして、コンビニのレジ袋。
本当は、もっと色々持って来たかったが仕方ない。
商人に見えなくも無いが不審者極まりないかもしれない。
部屋は二階だったが、何とか一気にスーツケースも持って上がる。
鍵はいつも花壇の下だ。
コレは以前田中に話したら怒られたので今後は他に置こうと思う。
一ヶ月半居なかった割には部屋は綺麗だった。
ふと、今まで掃除した記憶がないことに気がついた。
今更だが、ここに引っ越して以来いつも帰宅すると綺麗に片付けられていた。
元々貴族の暮らしをしていたから気にならなかったが、田中と暮らして汚せば汚れたままの事に気がついた。
もしかすると誰かが掃除してくれているのかもしれないと今更ながら思う。
…たぶん、絶縁したはずの親の仕業なのだらう。
甘いな…。
私は、荷物を投げ出すと窓を開ける。
部屋がいくら綺麗でも換気はしておきたい。
ドンドンドン!
ドアが激しく叩かれる。
ノックのつもりなのだろうか?
腕時計をいくつも外しながらドアを開けた。
「なっ!ラファ!」
「よぉ!タタルタ!ルルカも一緒か?見回りの最中か?」
扉を開けると同僚2人がたたずんでいた。
「お前!今までどこにいたんだ!心配したんだぞ!それにその格好…通報されたから来てみたらお前の部屋に入っていくと聞いたんだ…まさか本人とは…」
「あぁ、すまんな。色々あって」
「心配したんですよ!ラファ!
2年も帰ってこないから死んだんだと思ってました!」
「いやいや、本当に色々あってだな。
…え?2年!?」
「そうだぞ!班長なんか、もうすでに昇格して今やラールゥが二班の班長になってるぞ」
「へ?ラールゥが班長!?
ってか、2年ってどういう事だ!私は、一ヶ月半しか地球に行っていないぞ!」
「チキュウ?一ヶ月半だと?本当どこに行ってたんだ?
門を出た記録も無ければ、帰って来た記録も無いぞ!」
頭がクラクラする。
神々の時間の感覚が、適当なのか、それとも時間の流れが同じでは無いのか…とにかく気分は浦島太郎である。
まぁ、彼ほどひどくは無いが…。
そう言えば、神隠しやら天狗に攫われた人間が時間をかけてそのままの姿で戻ってくるという、話は地球でも、この世界でも沢山あった…もしかすると異世界転移は昔からあったのかもしれない。
よろしくお願いします




