三十六撃目
私は急いで一緒に降下した自衛官にパラシュートを脱がしてもらうと建物の中にダッシュする。
上からドラゴン…タルッタに踏み潰されでもしたらたまったものではない。
走ると背中がズキリと痛んだ。
銃で撃たれたところはコッコアルットに完全に治してもらったんだが、どうやら今の着地で失敗したかららしい。
今朝といい今といい今日は、背中ばかり痛い。
結構痛みがあるが我慢ギリギリの範囲なのでヒールはかけない。
自身にヒールをかけられないほど今はもう魔力を少しでも温存しておきたい。
私は、ポケットに手を突っ込み一匹だけミニゴーレムを確認する。
よし、壊れていない。
今朝小林に、渡したゴーレムは投げつければ発動する仕様であったが、今回は私自身で利用するのでそんな仕様にはしていない。
そんな仕様にはしていないが、強化されているとはいえしょせん元は泥団子壊れやすいのだ。
構えているとバサリと音を立てタルッタが舞い降りた。
ヘリコプターからの攻撃でおったハズの傷はない。
すでに癒しをかけたのだろうか。
元いた世界でもほとんどドラゴンに出会えることはない。
私自身一度かなり遠く…上空を飛んでいる姿をみかけただけである。
元の世界でドラゴンは割と神聖的な扱いをされていたので、舞い降りたその姿は神々しくさて、思える。
だが、今目の前のドラゴン…タルッタは、対峙しなければならない存在なのである。
グッと気を引き締める。
「今朝は話の途中で逃げ出されてしまったからな、もう一度話し合いをしようじゃないか」
「逃げ出したとは言いがかりだな人間よ。我は話す必要など無い」
「それはすまない。
ところでドラゴン…なぜ、ここに来たがらなかった?」
軽く煽ってみる。
本音を聞き出したいからだ。
話合いで解決…それができたら一度いい。
何より…忘れていたが掲示板で安価を集めたのだ、せっかくならそうしたい。
「別に来たがらなかったわけではない。
お前ら人間にとって人気の少ないところを戦場に選んでやろうと思っただけだ」
「それはそれは、ありがと存じます。
タルッタ殿」
タルッタの表情はドラゴンの姿なので分からないがわずかに表情を険しくしたような気がする。
「コッコアルットから名前を聞いたのか」
「ええ、彼女は我々に友好的ですからね」
「ぷっ…フハハハハハハ」
そういい終えるやいなやタルッタは殊の外可笑しかったようで身体をくねらせて笑っている。
…笑いのツボがわからない。
「ひーひーはーぁ、面白い事を言うのだな人間よ」
「何がそんなに楽しいんだ?」
「お前には奴がメスに見えるのか?
そうか、なるほどなコッコアルットは、お前らに対し友好的では無いな。
むしろ、無関心ではないか」
痛いところを突かれた。
「メス…女性ではないのか?
人間に化けていた時は女の格好だったし、声色だって話し方だって、女性的だったぞ」
「我らは何の動物にも化けられるからな」
お…この流れ知っているぞ。
この世界で読んだ童話にあったな。
確か、大きな野獣に変えさせたあと、ネズミにしてそのまま食ってしまうのだ。
ハンバーガーが生き物だったら良かったのに。
まぁ、踏み潰せばいい。
「へー、なんにでも?ならこの世界のライオンに化けることも出来るのか?」
「それは、ライオンという生き物を知らぬから出来ぬ」
あれ?流れ切った…。
いやいや、まだだ。
「では、ネズミは?元の世界にも居たであろう」
「簡単だな」
「ばけてみせてよ、あれ?もしかして化けられない?」
「お主のために化ける必要はない。まぁ、ネズミに化けてお主の目の前に行きそのままドラゴンに戻り押しつぶしても良いがな」
あぁ、所詮は童話なのだ。
そう上手くはいかない。
にしても…コッコアルットはオスだったのか…ドラゴンはわからないな。
こいつもオスだと思っていたがメスなのかな?
まぁ、聞いたところで答えでやる義理はないとか言われそうだ。
「ところで、タルッタ殿、そろそろここの人間達を殺そうとするのやめてくれはしないか?」
「やめぬ、止める必要など無い」
「なぜだ?」
「不要だからだ…そうだな…コッコアルットはお前らに友好的では無いのだ、ならばわざわざお前の話に付き合う必要もなかろう」
ドラゴンが上を向いた。
「やめろ!」
そう叫ぶととも右手がドラゴンなら向かって勝手に伸びた。
伸ばすだけで何も出来ないのに反射的に。
魔法陣を発動するつもりなのはすぐわかっていた。
そう思った瞬間今まで確かにタルッタの位置情報を把握していた魔力が消えた。
私が書き込みした魔法陣を、乱す魔法の繋がりも消えた。
一瞬だった…。
魔法陣は、消えたのだ。
いや、消えたのでは無い発動したのだ。
タルッタは、こちらを見据える。
「人間が、大勢死んだぞ。
お前が間抜けなせいでな」
よろしくお願いします




