三十三撃目
バスに戻った我々は、早速総理に連絡。
SPが何やら電話で話をしてる。
その間田中は、パソコンを借りて画像をアップしていた。
「いいのか？小林の個人情報やら編集せずに流して後でコッコアルット殿に殺されるやもしれんぞ」
「怖いこといわないでくださいよ。
今は、緊急事態だしこの方がリアリティ増しますし」
SPの方をチラ見すると居心地が悪そうにもぞもぞしている。
彼らもアップされては色々困るのだろう。
うーん…田中たまに大胆だなと思う。
その間私は、昨日の朝立ち上げた掲示板をスラスラと田中のスマホで流し見していた。
結構スレが伸びている。
皆んなどうなったか気になるようだった。
ん？その中に興味があるコメントがひとつ…
「おぃ、田中殿！掲示板を見ていた者の中にテレビ局のディレクターがいるみたいだぞ！
今朝のニュースで取り上げるとコメントがある！」
「な！」
私の呼びかけに、田中だけでなくSPも声をあげた。
「動画も上げたいそうだ…今なら間に合うのか？とりあえず許可を出しておくぞ。
それから掲示板に簡単に今のところの事の顛末を載せておく」
「おう！頼みます！」
さささっとスマホを操作する。
パソコンよりも操作が簡単と言うが、文章を打つのは面倒だと思うので、だいぶ簡略化した内容を報告する。
「すみません、やはりダメでした…」
総理に電話をかけていたSPがしょんぼりしながら戻ってきた。
「日本の政治家は、本当に腰が重いな…」
色んな意味で脱帽である。
そんなSPに、声をかけてやる。
「だが、安心しろ、テレビ局の朝のニュースで取り上げてくれるそうだ」
「え！？」
「ニュースで取り上げられれば世論が動く。
総理も、釣りあげられそうだ。
今は…もう6時間か…テレビは、この車に無いのか？」
「あります！」
さすが、総理官邸で借りたバスである。
何でもそろってるではないか。
私達は、朝のニュースに食い入るように見はじめた。
まだかまだか…もしかするともう終わってしまったのではないかとさえ考えてしまう。
真面目なニュースが終わり、芸能人やらコメンテーターが雑談や今日の占いについて話し始める。
ディレクター…頑張れなかったのか…と内心がっかりした…
…が！
『ではお次のトピックス！今ネットで話題の女騎士さんについてです』
！！！！
ワァッとバスの中で歓声が沸き起こる。
『昨日から女騎士さんの動画がバンバンアップされていて、内容がとってもファンタジック！
だけど、なーんとここ最近ニュースで取り上げられられない日がない連続殺人と繋がっているというのです！
では、早速ダイジェストに、まとめた映像をご覧ください！』
若い芸能人が、ハキハキとした口調で話を進める。
緊張感の無い明るい声がこだまする。
続いて田中が撮った映像が上手い事編集されて流れていく。
総理官邸に行くまでの道中やら、SPの存在、血まみれの私、小林とコッコアルットの関係などは上手いことカットされていたが内容が十分伝わる。
さすが本職である。
画像が切り替わると、元の芸能人がアップで出てきた。
『マジスか！コレがほんとなら相当ヤバイですね！
江戸川橋半径4.5キロの方にーげぇーてぇー！』
オーバーリアクションで茶化しているが、そこは茶化さないで欲しい。
あっという間に他のトピックスに移って行く。
…何というか、茶化されてはいるが真実を十分に伝える内容であった。
「コレを見た人が…どれだけ本気に受け取ってくれるかが勝負だな」
「ディレクターさんめっちゃ頑張ったと思いますよ！感動しました！普通ならコレだけの、内容流したら首が飛びますよ」
それからつらつらと田中が必死にディレクターを褒め称える。
あぁ、いつもの話を聞かない田中だと思い…何だか嬉しくなってしまった。
テレビは、付けっ放しにしたまま今後についてSP含め12人で話をしていると突然総理からテレビ電話がかかってきた。
「なんて事をしてくれたんだ！」
だいぶご立腹である。
生暖かい目でSPが対応している。
どうやらニュースの影響で大変な事になっているらしいが…正直ざまぁみろと思う。
重い腰を上げなくてはいけなくなった総理が今更対応に追われて四苦八苦状態だそうだ。
昨夜の時点で動いていればもっと円滑に進められただろうに。
ニュースでは茶化されていたが、連続殺人やこの場所での朝からの爆発音と煙でだいぶ信じた人達が居たようだ。
『ここで、新しいニュースです。
連続殺人の現場である小学校から爆発音と、煙の後、先ほどの女騎士で流した映像と同じドラゴンらしき姿が目撃されました。
視聴者からの映像が、こちらです』
先ほどとは全く違うアングルから撮られた映像が流れる。
学校からドラゴンが空高く登って行く。
『先ほどとは違う方からの映像提供です。
とても、CGだとは思えない映像です。
他の視聴者からも、同様の情報が入っております。
これがもし本当であるならば大変な事です』
今度はきちんとニュースキャスターがニュースを読み上げている。
世論が動く…とは正にこの事なのだろう。
インターネット社会である日本であるがまだまだテレビの力はこんなにも偉大なのだ。
よろしくお願いします
