一撃目
ここは…どこだ?
私は、今混乱している。
今まで見たことのない程の大勢の多種多様な人々…
乱戦極まる戦場でも無ければこのような多くの人々を見たことが無い。
人々の容姿についてもまた不可思議だ。
まず様々な見たことの無い衣装。
中には我国の物に似ている衣装を着ている者もいるが…パッと見どの人々も貴族かと思う程清潔な服を着ている。
もちろん、平民街のような臭いも無いので服だけでなくどの人間も湯浴みをしている可能性が考えられる。
顔は、どこかの民族なのか見た事も無い異国情緒溢れる…細かく言うと鼻の低く目の小さい…成人していると思われる体格の者でもどことなく、幼い顔付き。
髪は、皆ほぼ似たような黒髪か軽い茶色。
中には赤、青、金色などもいるがほぼ黒といって過言ではない。
黒髪は、我国では珍しい…いや、私の知る限り黒髪の人間は他国を見てもここまで多くは居ない。
多くは無いはずなのに…コレは黒髪の人間ばかりを集めた祭りか何かなのだろうか?
そして、、、目を疑う事に高貴な産まれでしかあり得ない紫色の髪の者もいる…が、なぜ共も付けず単独で平民(?)の中にいるのだろうか?
…いや、待て。
そもそも平民街のような臭いも無く、清潔な服、異国情緒溢れる顔、護衛も付けない紫色の髪のお方、希少な黒髪、、、おまけに筋肉のついて無さそうな身体、綺麗な手…とくれば彼等は皆貴族なのではないだろうか?
それなら、色々合点が行く。
そもそも、私が立っているこの床だって見た事も無いくらい正確に引き詰められた石、なおかつ艶々で手入れが行き届いている。
天井だって驚く程高く温室かと思われる程の沢山のガラスがはめられている。
しかも、これでもかと言うくらい透明で曇りのないものだ。
ここは、、、アレだ、そうきっと王宮なのだ。
私のような一兵士は入った事が無いから私は知らないだけなのであり王宮には、沢山の黒髪の貴族がいるのだ。
はて?では私は、どうやってここの場所に迷い込んでしまったのだろうか?
朝いつものように城門へ出勤しようと歩いて居ただけだったのに?
…まぁ、そんな事どうでも良い。
貴族らに粗相を働く前にさっさとこの場から立ち去らなければならない。
そもそもこんな場所に居るだけで粗相なのだから。
何か言われる前に立ち去るに限る。
ほら、何やら黒髪貴族らが、そわそわこちらを伺ってるでなくはないか。
私は、周りを見渡しいくつか出口と思われる開けた扉を確認する。
その中でひときわ沢山の扉が開放された状態で人の出入りの多い所に向かって足を進める事にした。
なるだけ、貴族らにぶつからないようにと気を付けながら。
しかし、なぜだろう貴族らは私が歩こうとすると道を開けてくれる。
…今朝だってランニングの後水浴びをしたし、服だって今日は門番なので洗いたてだ。
アーマーだって剣だって門番の前日はピカピカに磨いている。
貴族や富裕層、王族だって城門を通るのだそのくらい当たり前と言ったら当たり前なのだが…。
そうか、どんなに綺麗にしていても貴族らからしたら私は汚物なのだ。
そもそも私のようなものがここに居ていいはずなないのだから避けられても当然であろう。
むしろ、避けてくれて相手にぶつからくて幸運なのだ。
ここは王宮なのである。
貴族にぶつかったりでもしたらその場で首が飛ぶかもしれない。
…とは言え余りに露骨に人にさけられるとちょっぴり悲しくなる。
しかし、私は女であるがその前に兵士なのだここでコソコソと下を向いて歩くべきではない!
避けられているなら足を早め出て行けば良いだけの事である。
私は、心が折れそうになるのをぐっと我慢し出口と思われる扉に向かって足を早めた。
が…それがいけなかった。
若い女性ばかりの集団が小走りで前を急に横切ってきたのである。
あ、、、と思った時には1人少女にぶつかってしまった。
少女は、『ギャッ!』と言いながら私に吹き飛ばされた。
普段から鍛えている私とぶつかったのだ。
少女は、凄い勢いで転倒してしまった…。
「すまない!」
私が駆け寄り少女にひざまづき手を取った。
「本当にすまない。ケガはないか?立てるか?」
黒髪の少女は、つぶらな瞳をパチパチさせ驚いた顔をみせ口をパクパクとさせている。
当たり前だ…貴族ばかりのこの場に兵士が紛れ込んでいるのだから。
「痛みはないか?」
もう一度安否の確認をするが、少女は口をパクパクさせるだけで何も言わない。
自分の顔からスーッと血の気が引くのがわかった。
貴族の娘に怪我でもさせたら大事である。
「ちょ!大丈夫?何なのあんた!足首赤くなってるじゃない!」
何も言葉を発しない少女に代わり、少女と一緒に居た別の少女が私の後ろから怒鳴ってきた。
私は、ひざまついたまま怒鳴ってきた少女に振り返り
「本当に申し訳ない事をした。私は、兵士だが軽いヒーリングならかけられる。彼女が希望するなら癒しをかけて良いだろうか?」
そう答えると怒鳴ってきた少女も目をパチパチさせた。
目をパチパチさせるのは黒髪貴族の挨拶なのか?
私は、ぶつかってしまった少女の足首を確認した。
なるほど、彼女の足首は赤くなっている。
このくらいなら私の魔力でも十分癒せる。
「ヒールをかけてもよろしいだろうか?」
ぶつかった少女に癒しをかける了承を得なければならない。
何せ貴族、何をするにも確認をしてからでないと後で何を言われるかわからない。
少女は未だ口をパクパクさせていた。
…少女は声が聞けないのだろうか?
試しにもう一度伺うと今度は口をパクパクさせたままコクコクと頷いた。
どうやら兵士となど会話をしたくなかっただけらしい。
私は、ホッと一息吐き少女の足首に手をかけ心の中で呪文を唱える。
手のひらから淡い光が放ちたちまち足首の赤みながとれた。
「え?ええ?アレ?」
少女は、自身の足首をペシペシたたく。
痛みは引いたようだ。
「本当に申し訳ない事をしました。どうかこの癒しでお許しください」
そう言って座ったままの少女の手を取り抱き起こした。
少女は、顔を真っ赤にさせて潤んだ瞳をこちらに向けてきて…
「あ…あの!一緒に写真お願いします!SNSにはあげませんから!」
…何やら面妖な事を言ってきた。
貴族用語なのだろう。
何かをお願いされている…何だろうか?しかし、貴族のお願いを断るわけにはいなない。
ましてや、この少女は私がぶつかってしまったのだから尚更だ。
「私に務まるかわかりませんが、出来る限る努力します!」
私は、少女にかしずいた。
「おおおおおお、俺写真撮りたいです」
「わ、私も!」
「何コスですか?」
「自作キャラ?見た事ない!」
「外人さんコス映えるわー!」
あっという間に囲まれいっせいに光が放たれる。
私は、身構える事も出来ずただただ翻弄された。
何これ貴族怖い。
よろしくお願いします




