8.超危険生命体、その名はマ族!
8.超危険生命体、その名はマ族!
「で?話って、何だよ?」
フィロに「……話が、ある」と言われた後、雰囲気的に相当重要なお話をするようだったので、今まで夜番をして寝惚けた頭をどうにか覚醒させるために、気付け薬の素になっている薬草を混ぜたお湯を鍋で沸かして飲んでみた。
お味は最悪、と言った感じで二度と味わいたくないものではあったものの、さっきまでのクルクルパーな俺とは比べ物にならないほど感覚が尖ってきたので、結果オーライってやつだろう。
さて、意識もはっきりしてきたところで、話って何だ?と聞くと、その前にフィロが質問してきた。
「……その前に。……バルディは?」
「バルディ……?」
……何でここでバルディの名が?
「……人に聞かれたく、ない」
「なるほど」
つまり、バルディがいるかどうかを確認したいんだな。
っていうか、こいつ本当にコミュ障だな。
普段どうやって人とコミュニケーションをとっているんだろう?
「バルディなら、寝てるよ。……どうも、お疲れのご様子で……な?」
「……わかった」
相変わらず、何が「……わかった」のか要領の得ない返答をしてくるフィロ。
えぇ〜、俺大丈夫か?
今から、フィロに話してもらうんだよな?
こんな口下手で、ちゃんと話の内容が理解できるのかよ。
俺が若干の不安を持ちながらも、フィロに話の先を促すと、フィロは話し始めた。
「……フィロ、エルフ」
「……ああ」
そんなことは知ってる、っーの!
「……レイト、エルフ……知ってる?」
……これはアレか?
エルフという種族をどのくらい知っているのか?ということなのか?
「えぇ〜と……それって、エルフっていう種族をどのくらい知っているのか?っていう質問なのか?」
「……(コクン)」
俺の問いに首を縦に振って肯定を示すフィロ。
ふむ……エルフか。
俺、別に種族マニアでも博士でも何でもないからそんな詳しくないんだけど……。
とりあえず、自分が知ってることを適当に言えばいいか。
俺は、エルフが森の民と俗称されるぐらい感覚が鋭敏で俊敏であること、人間よりも遥かに長寿であること、魔力量が人間よりも多いことなどを話した。
「って、感じか?あ!……ぁあ、後一つあげるんだったら、大抵のエルフはイケメン美人さん、って聞くけど……?」
「……び、美人さん」
ポッ、と頬を赤らめて足をもじもじさせるフィロ。
……何ですか、どいつもこいつも褒められなれてなさすぎ、というかお世辞っていう言葉を知らないのかよ。
俺が白い目でジッー、と睨んでいると、フィロはコホンッ、と咳払いをして話の本題へと入った。
「……それだけ、知ってれば……上出来」
「ふぅーん……それで?別にエルフの特徴クイズがしたい訳じゃあないんだろう?本題は?」
「……この依頼、少し危険」
「……?どういうこと?」
「……フィロの勘が……そう言っている」
ん?マジでコイツ、何言ってるんだ?
思わず、どういうことだってばよ!?と叫びたくなりそうだが、ここは冷静に考えるべきだ。
フィロはこの言葉数だけで通じると思っているのか、満足気に腕を組んでいる。
と言うことは、少なくともこの少ない言葉の中で何か伝わる根拠が備わっているということか?……しかし、何処に!?
まず、第一にコイツの言いたいことがわからない。
「……この依頼、少し危険」って、そりゃそうだろう。
指名依頼には強力な魔素溜まりが見つかったと言った旨の話が書いてあった。
と言うことは、当然その湿地帯はダンジョン化している可能性が高い。
ダンジョン化した場所の魔物は、大きな魔核を所有するようになり、力も一段階以上高くなる可能性が高い。
そのため、ダンジョン化した場所には、通常挑むのはCランクから。
だが、俺たちは身の程知らずにもDランクの分際でこの依頼に臨もうと言うのだ。
危険が生じるのは当然と言えるだろう。
だとしたら、何だ……?
危険なのは分かっているのに、自分がエルフであるということを強く印象付けた上で発したフィロの危険とは……?
……いや、さっぱりわからんし。
ここは素直に聞くべきか。
「いや、結局何が言いたいのかがさっぱりわからんのだが……?」
「……むぅ」
……フィロは機嫌を悪くした。
いやいやっ!おかしいだろう!
何が「……むぅ」だよッ!?むぅ、って言いたいのは俺の方だよッ!!!
もうちょっと分かりやすく話してくれないものか……。
俺のそんな鬱々とした内心が伝わったのか、フィロはもう少し具体的に語ってくれた。
「……多分、ダンジョン化してない」
「え?ダンジョン化していないのか?でも、依頼には強力な魔素溜まりがあるって……」
「……ダンジョン化、なくても……魔素溜まり、起こる」
「も、もしかしてーーー」
「……魔族の気配、する」
「……」
魔族。
この世界には人類は全部で大まかに七種族あると言われている。
エルフ、ドワーフ、人間、獣人、魚人、巨人……そして、魔族。
語尾が統一されてないと思うかもしれないが、正確には、エルフ『族』と表記されるので、すべての種族には一応共通点がある、と言えよう。
その他の種族の特徴については後回しにさせてもらうが、問題はこの魔族である。
魔族は、非常に傲慢な種族として知られていて、自分たちの人種がこの世で一番優れていると思っている。
そのため、この種族はやたらと他の種族を支配したがる。
主な性質としては、人間よりも優れた身体能力の高さと、エルフよりも高い魔力量である。
そして、人間よりも遥かに長生きであることも挙げられる。
「魔族、か……」
もし、本当に今回の依頼の先にそんな奴が居るんだとしたら、是が非でも撤退した方が良い。
通常、魔族の戦闘力は人間の五、六人分と言ったところと言われている。
……Bランク冒険者で、の話だが。
ランクは最低でも準Aランク、下手したらSに届くという話だ。
「それ、本当か……?」
「……うん。……あくまで、勘……だけど」
「ーーーチッ!!!」
くそっ、どうする!?
折角の俺のCランクへのランクアップがッ!
このままじゃ水の泡になりかねない。
魔族なんて言ったら相当の怪物だという話だ。
そんな奴相手に、一般人に近い俺が話になる筈がない。
良くて一分、悪ければ瞬殺されるところだ。
しかし、俺としては出来ればこの依頼を放棄したくはない。
……いや、兎にも角にもとりあえずは情報の伝達が優先だ。
「フィロ……それは、魔族がいるかもしれない、っていう話は他の奴らにはしたのか?」
「……あまり。……それに……したら、依頼が……」
……なるほど。
気持ちは分からないでもない。
俺としても今回の依頼を放置するのは、精神的にも財布的にもしたくないところではあるが……。
だが、命あっての物種、だ。
俺は、断腸の思いでフィロに忠告する。
「こ、今回の依頼は、中止だ、フィロ。……相手が魔族とあっては、俺たちじゃあ手も足も出ない……。悔しいが、仕方がない」
「……ダメ」
「へ?」
……何が駄目なんだ?
「……ちょっと前……バルディには、話した。……けど、信じなかった。……カルテも」
「なっ……!?」
あんのぉッ!脳みそお花畑コンビがッ!
何だよ、フィロが言ってんだよ!?
何で素直にその忠告を受け取らないのか。
もう、頭がいてぇ……。
俺が頭を抱えて蹲っていると、フィロから思わぬ提案が出る。
「……だから、提案。……もし、問題起こったら……リーマ、イエーリ、連れて逃げる。……協力して?」
な、なるほど……。
この嬢ちゃん中々に過激な発想をしておられるようだ。
これはアレですよね、『お前らが忠告を無視したのが悪いんだよ、バァーカ!』って事ですよね……。
うぉおお、結構恐ろしいですね……。
しかし、まぁ……その提案、乗った!!!
と、その前に、一つ。
「……ルラキが抜けてるぞ?」
「……あっ」
速報、フィロの頭からルラキの存在が消えてしまっていた件について。
「……まぁ、良いや。協力するよ。よろしく」
「……んっ♪」
俺とフィロは、上り始めた朝日をバックに握手をした。