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叛逆の魔術師〜属性が無いと蔑視されたので開き直って金持ちになることにした〜  作者: シロナガスクジラ
第1章 駆け出し冒険者編
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5.嘘つきにご用心



「よう、レイト……。随分とまぁルラキと仲良くなったようじゃねぇかよ?」


首筋に当てられた剣が鈍く光り、バルディのイラついた表情を鏡のように映し出す。

俺は全身から噴き出してくる冷や汗を拭いながら、必死に弁解を試みる。


「ぁ、あのな……バルディ、これは違うんだ。別にお前が思っているようなことではない……と思う、多分……」

「へぇー、ほぉー、ふーん……そうかそうか。俺の早とちりって奴かよ。……じゃあよ、どこをどういう風に俺が勘違いしているのかを教えてくれよ?……な?」


少しでも怪しい所があったら即座に首を叩っ斬る、と言わんばかりのバルディの剣幕に、俺は内心で思わずため息をつく。


「ははっ、はははっ……も、もちろん、俺はホントに事実無根だ……」


……面倒なことになったもんだ。

俺は苦笑いをしながら、こういう状況になった経緯を思い出す。


ーーー全くもって最悪なタイミングだ。





一緒に昼食をとろう、とルラキから誘われた俺は、特に断る理由もなく、また丁度昼時ということで多少腹が減っていたので、ルラキの誘いに乗ることにした。

場所は、ルラキがとっておきの所を知っているというので、彼女にお任せだ。


「……そう言えば、結局レイトさんのジョブについて聞かせてもらっていませんでしたわね?同じパーティーになるんですし、詳しくお聞かせ願えないかしら?」

「……」


道中、王都『リノン』の大通り、商人達の“表”通りを通った。

この通りは、王国『レーグナム』の中でも最も栄えている通りだという話で、閑散としていた俺の村と比べると、盛り上がりに天と地ほどの差がある。

有り体に言えば、ここは物凄く五月蝿い、ということだ。

だから、聞き逃したフリでもしてみるか、と思った矢先、ルラキは更に大きな声で俺に問いかける。


「レイトさんの!ジョブって!何ですの!?」


……はぁ。

ここまでしてくるとはなぁ。

さすがにこんな大声で聞かれたら、俺も答えないわけにはいかない。

じゃないと、無視されているとかでも思われて俺への心象が悪くなるのは頂けない。

……仕方がない、か。

それに、ルラキの言い分にも一理ある。

仮にも臨時とはいえ、俺たちはパーティーを組むことになっているのだ。

お互いに、自分たちがどういったジョブであるかは把握しておいた方が、調査もしやすいだろうし……。

メリットとデメリットを天秤に掛け、総合的に考えてメリットの方が大きいと考えた俺は、自分のジョブについて話そうとして、周りがあまりにも五月蝿いことに気付く。


「俺のジョブについて!話すのは良いんだが!少し静かなところで話さないか!?」

「そうですわね!」


ルラキもこんな騒がしいところで話すことではない、と思っていたのか、アッサリと承諾し、昼食を食べる処へと急ぎ始めた。

それにしても……。


「ーーーッ。す、すいません」

「いえ、こちらこそ……」


……人が多い。

さっきから人混みに揉まれるようにして歩いているお陰で、俺は結構な回数歩行者とぶつかっていた。

今のところは、ヤ○ザな人には会っていないので、謝るだけで済むが、このままだと……。

しかも、意外なことにルラキはこういった人混みを抜けることが得意なようだ。

まるで周りには誰も人がいないかのように、スイスイと歩いて行ってしまう。

……おいおい、俺じゃあとてもじゃないが追いつけないぞ。

ルラキと俺との間の距離がどんどん離れていっていることに危惧を覚えた俺は、どうしようかなぁ、と悩んでいると、不意に誰かに手を掴まれた。


「……へっ?」

「大丈夫ですの、レイトさん?ココは少しばかり人が多いようですので、わたくしの手に掴まっていた方が良いと思いますわ」


いきなり手を掴まれたが故に、驚いて手を引こうとした俺の手を、俺の引く力よりも更に強く握り、安心させるように耳元で話しかけてきたのは……ルラキだった。

この騒がしい大通りだ、煩くて声が聞こえないだろう、とルラキは考えたのだろう。

俺の耳元に直接響いたルラキの声は、鈴の音のように心地の良い音で……。

俺の耳元までルラキの口を近付けているということは、当然ルラキの顔と俺の顔が超至近距離ということであって……。

藍色という印象が暗く感じさせる色の髪をしている所為か、ルラキの顔付きは少し冷めた印象を覚える。

しかし、パッチリと開いた少し大きめの眼と、薄く赤らんだ頬は彼女に情があることをしっかりと証拠付けている。


「……さ、さあ!行きますわよ!」


不意に、自分が大分大胆なことをしていると悟ったのか、ルラキは林檎のように顔を真っ赤にして俺の手を引こうとする。

俺もルラキの動きに少しでもついて行かなくては、と思い彼女の手を強く握りしめーーー


「……あっ、ルラキと……レイトだよな?」


そこには、屋台で購入したであろう焼き串を握ったまま硬直しているバルディと、バルディを追いかけて走ってくるカルテの姿が会った。





「ーーーという訳なんだ」

「……なるほどなぁ〜」


と、今までの俺の経緯を説明した所で、バルディは顎の髭を摩りながら俺を睨みつける。

バルディの立場からしてみたら、俺とルラキは仲良く手を繋いでお買い物に勤しんでいる、と感じてしまうだろう。

実際、俺とルラキは手を繋いでいた訳だし……。

しかも、ルラキ(片方)は赤面していたし……。

どう見ても、というかどう考えても逢瀬にしか思えないだろう。

しかし、ここでバルディに自分のハーレム計画を害しに来ている輩だと思われてみろ、俺は即刻パーティーから除外され、またあの日銭稼ぎのDランクとして生活を強いられるのだ。

……それだけは御免だった。

ここは如何にかして自分の無罪を証明しなければならない。

まずはバルディが俺に対して疑念を抱いている部分を聞くべきだろう。


「……バルディ。俺はちゃんと正直に訳を話した。なのに、どうしてそんな疑ってかかるんだ?」

「いや、俺だってせっかく見つけた同志(ハーレム肯定派)なんだ。出来ることなら疑いたくはねぇよ……。けどよぉ〜?」


なんかバルディが言う同志という言葉のイントネーションが微妙におかしかった気もするが、本題はそこではない。

ふむ……しかし、彼も一応俺のような存在が居なくなる事に対して、少しばかりの寂しさを感じているようだ。

……なるほど、これならば俺が理路整然と訳を話せば、納得してくれるかもしれないな。


「……わかった。なら、今からバルディが聞くことには全て正直に話す。それで、もしバルディが妙に思うところが少しでもあった、って言うんだったら、それは仕方がない……。大人しくこのパーティーから去る。……それでどうだ?」

「そうかよ……」


少し不満気な表情をするものの、バルディは質問をしてくる。


「じゃあ、一つ目。なんでルラキと飯食いに行くことになったんだよ?お前ら、初対面だよな?」


バルディはそう言って、少し離れた所で食事を摂っているルラキを見る。

俺はその問いに正直に答える。


「ああ、俺とルラキは初対面だ。これは間違いない。それと、ルラキと俺が食事をする流れになった理由はなーーー」


そこから俺は話した……何もかも。

ルラキは何処かのお嬢様のようで、普段あまり依頼に向けての準備をしたことがないこと。

そして、それが理由で今回の王都の湿地帯『ウェトラン』に行くための準備に何を持っていけば良いのかわからないため、俺に聞きに来たことなど……。

俺がひとしきり話し終えると、バルディは癖なのか、顎の髭を少し摩ると、少し目を細めて二つ目の質問をしてきた。


「へぇー、じゃあ質問二つ目。なんでルラキはお前に質問したんだよ?……パーティーリーダーの俺ではなく、な」


……実を言うと、この質問は最初から予期されていたものだ。

俺がルラキの事情を嘘偽りなく言ったとしても、今度は新たな疑問が生まれる。

そう、『何故俺に質問したのか?』である。

実際、バルディがそう疑問に思うのは当然と言えよう。

今回のこの指名依頼。

そもそもの話、この指名依頼に選ばれたのはバルディとカルテのタッグであり、一応二人だけだと少し不安だ、ということで人数の増強を促したのだ。

ならば、今回の依頼について一番詳しいのは当然、バルディとカルテということになるだろう。

そして、今回のパーティーリーダーはバルディだ。

だったら、今回の依頼での必需品もバルディに聞いた方が確実だと思うのは当たり前だ。

しかし、ルラキは俺に質問をしてきた。

バルディは、そこに疑念を感じたのだ。

この質問の答えについては、俺もルラキに聞いているので、知ってはいる。

ルラキは確か……。


『いえ、あの方は……何というか、下心のようなものを感じましたわ』


……や、ヤベェ。

この理由は今、一番バルディが聞きたくない答えだ。

機嫌を悪くするどころか、最悪俺はそのままパーティーからお別れする羽目に……。

何か……何かもう少しマシな理由はーーー


『それに……あんな風に何人かで固まられると、少し聞き辛いと申しますか……。少し、聞くのが恥ずかしいですわ』


ーーーあっ。

そう言えば、なんかこんなこと言ってたなぁ……。

この言い訳が一番バルディには最適だろう、と感じた俺は、ルラキそのままの口調で説明する。


「ーーー、って、言ってたぞ。だから、案外バルディみたいに誰かと一緒に固まられていると、聞き辛かったんじゃないか?」

「な、なるほど……」

「……俺からもバルディを頼るように言っておくからさ。……な?」

「そうか……疑って悪かったな」

「いやいや、このくらい……」


すっかりと反省したような顔付きをしたバルディは、俺の肩をポンポンと叩くと、頭を下げてルラキのいる席へと向かった。


「ふぅ〜……」


……危機は脱した。

ちゃんと正直に話したのが良かったのか、やけにあっさりと解放してくれたバルディに、感謝の念を抱きつつ、俺は注文を頼む。

ここはルラキが勧めてくれた食事処だ。

俄然、期待が高まる。


「お待たせしました〜」

「ありがとうございます」


程なくしてウェイトレスさんがピザのような食べ物を乗せた皿を持ってきた。

俺はウェイトレスさんにお礼を言うと、食べようとして俺を注視してくる人がいることに気付いた。

……カルテだ。


「あのー、何かご用でも有るんですか?」

「……さっきまで何の話をしてたの?」


どうやら俺とバルディが何の会話をしていたのかを聞きに来たようだ。

この人はバルディのハーレムメンバーの一人のようだし……。

彼のハーレム計画については聞かせない方が良さそうだな。

そう感じた俺は、ハーレム計画の事はぼかしつつ説明した。


「ーーー、って感じだが?」

「ふぅーん、そっかぁ……バルディ、まだ諦めてなかったのね」

「……何を?」

「ハーレム計画よ」

「ーーーッ!?」


俺はその言葉を聞いた瞬間にむせそうになった。

……どういうことだ!?

俺は自分の説明に何か不備があったのか、と思い返してみる。

多分、ないと思うのだが……。

しかし、ここですかさずカルテからフォローが入る。


「別にアンタが悪い訳じゃないわ。だって、わたし知ってるもん、ハーレム計画(それ)

「そ、そっかぁ……」


俺は自分がミスをおかしていないことに安堵する。

その間にも、カルテは何か昔話みたいなことを続ける。


「以前は、バルディもあんなじゃなかったんだけどね……。“あの事件”から変わっちゃって……」


うわぁ、地雷の予感……。

……なるべく関わらないようにしよう。

俺がそう決意している間も、しばらく昔話をした後、最後に警告をしてきた。


「あ、後ね。バルディに嘘はつかない方がイイわ。……なんか嘘を見破る魔法道具があるらしいから」


カルテは、そう言って立ち去った。

俺は、心底説明の時に嘘を交えなくて良かったぁ、と本日二度目の安堵を覚えた。






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