4.最後に自分の身を守ってくれる物は……
冒険者にとって必要なものとは、一体何だろうか?
いや、これさえあれば大丈夫なんて万能な物を探そうとしているわけではなく、ただ依頼を受注する上で、必要最低限度の装備とは一体如何いったものなのか?ということを考えているのである。
装備の必要最低限なんてその人の力量によって変わるし、俺からすれば道具は多ければ多いほど良いのだから、そもそもの話自分には関係のない話なのかもしれないが……。
とは言ってもな……。
「流石に予備の武器は必要だと思うんだが?」
「……そうかしら?わたくしには必要のないものにしか見えないわ」
所変わって、というか冒険者ギルドでの買い物を粗方終えた俺たちは、次に向かうべきは武器屋だと思い、出来るだけ高額にならない武器屋へとルラキを連れ出していた。
その武器屋の名は『屑鉄屋』
名前はもう少し如何にかならないものだろうか?と思うものの、店長が言うには、
「あんまり立派な名前にすると、貴族が入店してきたりして、ウチの店の品揃えに文句を言ってくるものがいてよ。それにはウチもほとほと困ってるわけでさ……。トラブル防止だと思って見逃してくれよ」
とのこと。
まぁ、確かにこの名前だったら貴族は寄ってこないだろうけども……。
逆にゴロツキが寄ってきそうで怖いな、とは流石に俺も言えなかった。
さて、そんな『屑鉄屋』という武器屋に来た訳だが、実を言うと名前ほど変な武器は売っていない。
あくまで常識的な範囲の武器の性能で、スゴイ良い性能の武器も売っていない代わりに、そんなに悪い武器も売ってはいない。
さらに、『屑鉄屋』は物流の激しい王都『リノン』に居を構えているお陰で、武器の入手が非常に容易にでき、その分仕入れ値が安く済んでいる。
ローコストノーマル性能ってやつだな。
もちろん、安いというのは俺を含め、Dランク以下冒険者からすれば大変有り難いシステムであるため、ここの武器屋は案外儲かっている。
閑話休題
こうして、武器屋にやって来たは良いが、何を思ったのかルラキは店内に入ろうとしない。
……やっぱ店名が悪かったか?
「如何したんだ?ルラキ……もしかして、ここの店が嫌なのか?」
「いえ、そういう訳ではありませんわ」
「だったら……」
何故?と俺が問う前に、ルラキ自身が答えを言ってくれる。
「だって、わたくしには必要のない物ですもの」
……マジか。
俺は頭を抱えたくなる思いだった。
……偶にこういう奴はいる。
自分の魔術(もしくは魔法)を過信し、自分には武器や防具などは不要だと宣う大馬鹿者が存在する。
確かに、魔術は素晴らしいものだ。
個々人の魔力量や魔力を操る感覚的なものにも多少左右されるものの、きちんと発動さえできるようになれば、下級の魔術でも一般市民が魔物を退治できるぐらいに……。
しかし、そう簡単には物事は進まない。
いくら魔術を行使できると言っても、やはり無限に打てる代物ではない。
一応の保険として魔力回復薬も用意させているものの、アレは魔力の回復を促進させるものであって、即時回復とはいかないのだ。
そうなると如何しても己の魔術には頼れない場面というのが出てきてしまうものだ。
その場合、自分を守るのはパーティーメンバーではなく、今自分が腰に下げている武器だけだと俺は思っている。
もちろん、世の中には適材適所というのが存在しているし、圧倒的な後衛である魔術師がナイフなんか持ってても何の役にも立たないのかもしれない。
しかし、あるとないとでは精神的な余裕が全く違う、と思う。
と、まぁここまでの持論を懇々と説明し、無理にでも武器を持たせる方が良いんだろうが、生憎と俺はルラキの教育係でもパートナーでもない、赤の他人であるので、ここまでのお節介をするのも如何なものだろうか?
ウザいで済めば良いが、最悪の場合パーティーを組む上での精神的な弊害になり兼ねない。
そんな状態で依頼受注中に問題でも起こしてみろ。
ルラキは美人な女の子だから許されるかもしれないが、俺はただの人数集めだ。
バルディの気に障ってパーティーを追い出される訳にはいかない。
一応の忠告だけはしておいて、後は好きにさせておこう。
俺は少しの善意を持って軽めに忠告をした後、ルラキを置いて武器屋に入る。
なお、ルラキは店の前で所在無さげに立ち尽くしていた。
……あんまり待たせるのは得策とは言えないな。
ルラキの機嫌が悪くなるのを避けたかった俺は、店内に置いてある武器には見向きもせずにいつもの注文だけをする。
「おっちゃん、いつもの鉄串五十本と投げナイフ十本!」
「はいよ、っていうか、坊主はいつもそれだね……。いや、まぁ在庫の処理ができるからいいけど」
白髪混じりの好好爺っぽい、爺さんが受付で返事をする。
受付の上にはバラバラッと乱雑に並べられた鉄串と、所々が錆びつき始めている投げナイフが置かれた。
「はいよ、鉄串は一本一アルムで、七十本だから七十アルム。それと投げナイフはもうボロボロであんまり使い物にならないから、まけて一本五十アルムで、十本で五百アルムだよ」
「おお!いつもありがとうございます!」
「いや、別に問題はないんだけどね。……ソレ、いつも使い物になってるのかい?」
「はい、使い物になってますよ」
「なら、良いけど……っと、はい五百七十アルム丁度ね。また、今回も冒険に行くんだろう?気をつけて行くんだよ?」
「はい、行ってきます!」
ここの爺さんは何かと駆け出しの冒険者に優しいと評判だ。
武器が安くで売られているのも理由の一つではあるだろうが、ここの店が繁盛しているのは案外この爺さんの性格に起因するものが大きいのかもしれない、と店を出ながら俺はそう思った。
◆
「案外、早く済みましたわね……武器の購入が」
「ん?あぁ、俺あんまり買い物には時間かけたくないからな」
「そうですの……」
「ほら、よく言うじゃん。時は金なり、ってさ」
「ふふっ、確かに……。レイトさんは随分と殊勝な心構えをしているんですのね」
「まぁな……」
そりゃ、あんな如何にも早く出てこい、と言わんばかりの顔をして店の前を突っ立っていたら、誰だって急ぐというものだろう。
こいつ、絶対人の買い物に付き合うの下手くそなタイプだよ、とは思ったものの、口には出さない。
……出して、藪蛇だったら大事だしな。
「他に何か必要な物とかはあるのかしら?」
「ん?まあ、後は防具ぐらいだろけど……」
どうせルラキのことだ、わたくしには必要のないものですわ、とか言うんだろう。
「あら?それはわたくしには必要のないものですわね」
ほらな!
「レイトさんは如何しますの?」
「俺か?俺はまあ、防具に関しては特に何も買うものもないんで……」
「じゃあ、もう暇なんですの?」
「まぁ、そうだけど……」
「なら、丁度お昼時ですし一緒にランチでも如何でしょうか?」
「良いんじゃないか?まだ、集合の時間には余裕があるし……」
「じゃあ、早く行きましょう!」
「はやくはやく!」と急かしてくるルラキに対して、俺も苦笑いを浮かべながら追随する。
二人は一見仲よさげに、王都の道をかけて行ったとさ。