34.次から回想に入ります
ただの前座回
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「それで?何ですか俺に話って……」
所変わって応接室。
相変わらず悪趣味な装飾をした扉を開けて、ムスクとその場に着いた俺は、開口一番にそう尋ねた。
ムスクの表情はいつもの優しげな笑みに戻っており、好々爺とした風体を表しているものの、先ほどの邪悪な笑みが頭から離れずに、俺はついつい刺々しい口調で話してしまう。
しかしムスクはそんな俺の失礼な態度には目を瞑り、いつもの丁寧な口調で話し始める。
「いや、悪いね……レイト君。私としてもそれだけルベルお嬢様の件について焦っているんだ。その解決の糸口が見えたとあって、少し興奮してしまったようだ」
ルベルお嬢様……ね?
一体、どういう弊害を抱えているというのだろうか?
先ほどのカエルラとの模擬戦を見て俺が役に立つ、と言うということは、そのルベルお嬢様は少なくとも俺の無属性魔術が必要になるくらい面倒な状態ということだよな?
まぁ、とりあえずは家庭教師の件が合格したかどうかだけでも聞いておくか。
「ああ、別に興奮するのは構わないけどさ……その前に一つだけ。俺は家庭教師役に受かったのか?」
「ん?あぁ、そう言えばそういう名目で模擬戦をさせていたね。うん、何の問題もないよ。……いや、君の魔術を見たら君ではないとこの家庭教師役を務まりそうにないと思ったくらいだ。むしろ私の方からお願いしたいくらいさ」
「そうですか」
そん頭を下げられても俺には何の対応も出来ないんですが……?
とりあえずは頭を上げさせて話を戻す。
「あぁ、話しが脱線してしまっていたね。話を戻そう。……それで私から聞きたいことがある」
聞きたいこと、ね……。
あの魔術を見て何が聞きたいのいうのか?
「それは、ね。君の無属性魔術について、いや正確にはいきなり魔力量が増大した『魔力充填』という魔術について、ね……。アレは……いや、アレらは一体どんな原理で行使しているんだい?私が見ていて思ったことだが……どの魔術の形式にも君の魔術は沿ってないような気がするんだ」
「…………」
おし黙る俺に再度頼み込むかのように、「アレらは一体何なんだい?」とムスクは問いかける。
……本当は、話したくない。
無属性魔術は俺にとっては師匠との思い出であり、絆であり……たった一つの形見であるのだから。
しかし……。
俺は頭をずっと下げ続けるムスクを見る。
多分、それと同じくらいムスクもルベルお嬢様の件で相当苦労しているのだろう。
俺からすれば、魔術が出来ないだの魔技が出来ないだのとほざく奴は大抵ただの怠け者だった……。
ルベル・マリス・ウィリディスは貴族だ。
もしかしたら俺の思った通り、本当にくだらない理由で成績が悪いのかもしれない。
しかし、もしそれが何らかの障害だったら?
無属性なんてこの国じゃ障害者も同然だ。
皆俺のことを痛ましい奴でも見るかのような視線で見て、阻害する。
出来ない奴ではなく、ただの体質で判断される。
そんな理不尽な国。
日本の方がよっぽどマシだった。
あそこは勉強だったり運動だったりとしなければならないことはこの世界の何倍もあったし、何倍も複雑な世の中だった。
だが、だからと言ってこんな生まれ持った属性一つで蔑視されるような理不尽な世界でもなかった。
俺は今でも夢に見る。
惨めだった……あの頃を。
「無属性の話をするんだったら、少し長くなるけど……それでも良いか?」
「あぁ、構わない」
さぁ始めよう、俺の昔話を。




