26.地獄の入口へようこそ!
◆
「それで?……ここは?」
「修練場で御座います」
「……ここが?」
「はい」
外観は高校で使っていた体育館ほどの広さ。
それに対しては些か、いやそれ以上の室内の広さを感じさせる。
……どう考えても外観に釣りあった広さじゃない。
しかし俺が一番驚いたことはそこではない。
その室内に設置されている運動器具……みたいなものである。
そう、あくまで運動器具みたいな物。
断定ではない……決して。
室内は主に赤色で彩られており、器具は基本的に全部真っ赤っか。
しかし所々に器具らしい鋼色をした塗装があり、赤色の塗装が剥げているみたいだ。
器具の中には針山の様な剣が刃の部分を天に向けて刺さっている剣山や、何を煮込んだのか?と疑問に思うぐらいドロドロになっているマグマの様な色合いをしたプールがあったり……と。
某千葉県にある夢の国と比べても遜色がないくらい素晴らしいアトラクションが多量に点在していた。
「へぇー……ここがご子息が使っているトレーニングルームですか」
「いえ、“修練場”です」
「へ?」
「だから、ここは“修練場”で御座います」
「……」
へ、へぇ〜〜……。
俺からしたらトレーニングルームも修練場も意味合い的に一緒な気がするんだけども……。
どうもムスク“さん”はここを修練場と言わせたい様なので、俺も今度からは修練場と呼ぶことにしよう。
「そ、そうですか……。それで、あの……アレは?」
ここのトレーニングルーム、もとい修練場に来てから一番ショッキングな光景だったものを指差す。
そこには、俺が剣山と称した運動器具に手足をもがれ、口を閉じられながらもジタバタと必死に逃げ出そうとする囚人の様な者が剣にブッ刺さっていた。
と言うか背中から腹へと貫通してる様に見えるんだが……俺の気のせいか?
もしかしたら俺の気のせいかもしれない。
そう思ってムスクの返事を待つも……。
「はて……?そんな者は私には見えませんなぁ」
と、目を細めて首を傾げるだけだ。
えぇ……アレって俺の幻覚?
いやでもなぁ……めっちゃはっきり見えるんですけど……?
俺の訝しげな視線にも気にせずにドンドン修練場の奥へと向かうムスク。
そしてムスクに続くカエルラ。
「ちょっ、待てよっ」
流石にこんな所に置いてかれては堪らない。
俺も急いで二人の後を追った。
◆
「着きましたぞ」
ムスクが着いたと言った場所は、遠目からあからさまに目立っていたマグマの様な色合いをしたプールだった。
ここで何をするんだ……?
俺がそう疑問に思っていると、いきなりカエルラが俺の服を脱がしにかかった。
「んっ!?何すんだテメェ!」
「いえ、今から体力テストを行うので服を着替えてもらおうと……」
え?体力テスト!?
「そうですぞ。決してカエルラは若きリビドーが抑えきれなくなったわけではありませんぞ」
と、ムスクからフォローが入る。
いや別にこんな場所で痴漢にあったとか思ってないから。
むしろカエルラの奴がスゲェ無表情だから、身包みでも剥がしてこの血の池プールにでも叩き落そうとしているのかな、と思ったぐらいだよ。
「先ほど私から家庭教師としての適性テストをするとは言いましたが……。正確に何をするのかを言ってませんでしたね。これからレイト君に行ってもらうのは、この血の池地獄を魔法無しで泳いであそこの岸まで渡ってもらうことです」
へぇ〜〜なるほどね〜……。
体力テストって聞いたら普通はグラウンドを走らされるのかと思ったけど……。
水泳のテストなんて言うのもあるんだな。
……ところで、さ。
このプールのこと、『血の池地獄』って言った?
「はい、言いましたが?」
それが何か?と言わんばかりの表情でこちらを見てくるムスク。
ふぅ〜〜……。
なるほどなぁ……つまりはそういうことか。
ここってさ、
「マジモンの地獄じゃねぇえかァアアアアアッッ!!!」




