25.第一回、家庭教師特別審査!開・催!
目標の五十話の折り返し地点に到着しました。
これからも叛逆の魔術師をお願いします。
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「あぁ、“結局そのことが何に繋がると言うんだ?”……君はそう言いたげな目をしているね?」
……。
ムスクの言い方は見透かされている様で少し癪に触るものの、事実ではあるので肯定の意を示す。
「ふむ……少し言い方が悪かった様だね。しかし、レイト君。君たち……いや私たち一般市民からすれば確かに盟約なんてものはさほど重要ではないのかも知れないが……。さっきも言った通り、」
「あくまで貴族の方々からすれば、命よりも重い契約……でしたっけ?」
「ふむ、その通りだ」
ムスクは満足げに少しだけ生やしている白い髭を撫でる。
しばらくの間、カエルラのお茶を入れる音だけが響く。
「さて、と。そろそろレイト君、君をここに呼んだ本題といこうか?私たちの主人『ウィリディス』家は先ほども言った通り、王国の剣となり盾となると盟約を誓った一族だ。そのため『ウィリディス』家にはそれ相応の武力が望まれる」
「……」
へぇー。
ただ一人の先祖が立てた盟約で自分たちの生き様まで固定されるとは……。
中々可哀想な境遇だなぁ。
俺が同情的な視線をムスクに向けると苦笑してフォローに入る。
「いやいや……確かにある程度の武力を培わないといけないのは大変だが……。その分彼らは一般貴族とは比べ物にならない程の税金を頂いているからね。……別にデメリットだけって訳じゃないんだよ?」
なるほど……。
強くある代わりに金は欲しいまま……と。
確かに理にかなってはいるな。
話の筋は通る言えよう。
……ところで、これは全く関係ない話なんだが。
一般貴族って凄い表現だな。
貴族が一般だったら俺みたいな下々の人間は一体どういう扱いになるんだ?
ゴミムシか?
「まぁ、そんな訳で元は取れてはいるんだけど……。やはりこう何年もこの家が続くとその内、この王国の求める力には届かない……所謂落ちこぼれの様な世代が出てきてしまう訳だ」
「なるほど……それで、今年もそんな感じで落ちこぼれの世代、と」
「あぁ、話がはやくて助かるよ……」
「いえ……」
まぁ、ここまでお膳立てされてたらバカでもわかるというもんだ。
それにしても……なるほどねー。
やっとルラキが俺をここに連れてきた理由がわかった。
多分だが、今年の『ウィリディス』家の長子はどうも落ちこぼれで、その上その落ちこぼれ方が“特殊”なんだろう。
普通なら肩書きがしっかりした有力貴族とかに頼む所を、俺の様なぽっと出Cランク冒険者に依頼した理由は、そのルベル・マリス・ウィリディスという奴が普通の人間では教えられない様な落ちこぼれだからだろう。
一体どんな理由で落ちこぼれになっているのかは知らないが……これは少々厄介ごとの匂いがしてきたな。
一瞬、依頼なんか放ったらかしてちゃっちゃと逃げるか?とも考えたものの、やはりルラキの手にしている情報が漏れることは相当の損害であるし、依頼の報酬を見逃すのも気持ち的には耐え難い……。
やはりここは無難にやり過ごすのが吉だろう。
俺の脳内会議での結論を叩き出すと、依頼を受ける旨をムスクに伝える。
「……わかりました。何やら複雑な事情がルベルお嬢様にある様ですが……俺のできる範囲で家庭教師の役目を果たしてみせます」
「そうか……。君がそう言ってくれて私は嬉しいよ。では!」
「はい!」
……ん?
なんでここでカエルラが返事を?
「「第一回、家庭教師特別審査!開・催!」」
「……へ?」
ドンドンパフパフ〜〜〜〜!!!
と、どこから取り出したのか?
ムスクとカエルラは二人で器用に楽器を使って音を鳴らす。
突然のことに目を白黒させていると、ムスクは満足げに髭を撫でると俺の腕をムキムキの筋肉でロックすると、何処かへと連れて行こうとする。
「へ?コレ、何スカ?」
「ん?だから言っただろう?私たちは優秀な人材を育てる家庭教師が欲しい、と」
「あぁ、それはさっき聞いた。……それで?何で俺は別室に強制移動させられている?と言うかどこに連れて行こうとしているんだ!?」
「これは失礼。少々言葉足らずでしたな。……私たちは先ほども言った通り優秀な人材を育てて欲しいんです」
「うんうん」
「ならばその優秀な人材を育てる家庭教師もまた優秀でなければならないと!そう思ったが故にレイト君を連れて行こうとしています」
「ふーん……何処へ?」
「修練場です」
にっこりと微笑むムスク。
しかし、その背後ではカエルラが悪魔の様な笑みを浮かべていた。
修練場……。
この言葉だけならばそこまで危機感を覚えることはなかっただろう。
しかしあのカエルラが……俺を情熱的なまでに嫌っているあのカエルラが、ここまで悪魔的な笑みを浮かべているのだ。
と言うことは、何か良からざる物(者)が修練場にあるに違いない……。
俺はそのことを直感的に悟ると、額から膨大な量の冷や汗が出てきていた。




