24.昔々の話……
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「ふむ……よく来たね、レイトくん」
「え?……あ、はい」
「ふむ、とりあえずそこにある椅子に座りたまえ」
「あ、わかりました」
屋敷の外で会った時の雰囲気と一変したムスクの様子に戸惑いつつも、とりあえずは部屋の真ん中にポツンと置いてある木製の椅子に腰を下ろす。
背後でカエルラがガチャリと扉の鍵を閉めたのが聞こえた。
……なんか緊張するな。
「では、レイトくんの家庭教師の仕事について打ち合わせをしていきたいと思うが……。時にレイトくん?君は『アルブム』学院については知っているかね?」
「え?まぁ、それなりには……と言うか、ここに来るまでの間にルラキからある程度のことは聞いたと思いますけど……?」
「ふむ……ルラキお嬢様なら問題ないか。では、『アルブム』学院についてはある程度知っている体で話させてもらうが……。私たちは今、空前絶後の大ピンチの状態にある!」
ガタッと椅子から立ち上がり、興奮した様子で話しかける筋肉ダルマ……じゃなかったムスク。
そんな執事の様子に若干しつつもその大ピンチの話を聞く。
「大ピンチ……とは?俺はあくまでルベル・マリス・ウィリディスという貴族令嬢の勉学の手伝いをしろ……とだけ言われて来たものですからね。あまりよくここの家の事情について詳しくないのですが……。何か問題でもあったんですか?」
「ふむ……レイトくん。君は『ウィリディス』家という存在をどのくらい知っている?」
「……すいません。俺は何かと一般市民の域を出ない者ですから……あまり上級貴族の家系は疎いんですけど……。何か有名な家系なんですか?」
「まぁ、レイトくんが知らないのも無理はないか。では、質問を変えよう。レイトくん、君はこの国の成り立ちについて何か知っていることがあるか……?」
「それならまぁ……少しは……」
王国、『レーグナム』
実を言うとこの国の歴史はそこまで古くはない。
この国が成立してからまだ五百年程度しか経っていない……所謂新興国家というやつだ。
日本生まれの俺からすれば五百年なんてもう大分古い国家な気もするが、この世界『コロル』では建国千年や二千年なんてザラなので、案外五百年というのは大分短い。
そしてそんな新興国家のこの国は、主に戦争によって建国したと云われている。
王国『レーグナム』のこの土地は元々、帝国『フロン』の炭鉱地だった。
ここは鉄や鉄鉱石と言った資源の宝庫であり、よく帝国で用いられている奴隷によって発掘をさせていた。
言うなれば、ここは帝国『フロン』のお財布みたいな所だったのだ。
しかし、そんな資源の宝庫の様な場所があれば当然他所の国も欲しくなる。
やがて他国と戦争を起こす様になり、何千人の奴隷がその炭鉱地で殺され略奪されていた。
帝国『フロン』は焦った。
このままでは自分の資源が全て他所の国に盗られてしまう、と。
そこで当時弱小だった王国と手を結び、一緒にこの炭鉱地を守り抜く契約を果たした。
その王国こそが後の王国『レーグナム』である。
『レーグナム』は、帝国『フロン』を要請を受け、最初は律儀に他国からの侵略を防いでいた。
しかし、段々と余裕が出てき始めると、帝国『フロン』は炭鉱地を守っている王国『レーグナム』を邪魔に思う様になったのだ。
そこからは他国との戦争よりも同盟国同士の戦争の方が激化していた。
あまりの激しさに他国が逃げ出すほど……。
まぁその戦争の結果としては現状を見れば、火を見るよりも明らかってやつなんだろうけども……。
歴史は勝者のものであり、敗者の真実が記されることはない。
案外『レーグナム』が勝手に『フロン』に戦争を仕掛けて無理矢理奪い取ったのかもしれないし、元々王国は『レーグナム』という名前だったかも知れない。
結局の所過去の史実なんていうものは、幾らでも改変できるのだ。
そう思って俺は話半分程度にしか聞いていなかったのだが……。
「ふむ、大体のところはそんな感じだな。だからこそこの国は武力を大事にし、貴族にも武力を求める」
まぁ、その気持ちは分からないでもない。
武力があったおかげでこの炭鉱地を手に入れたわけだし、小国という弱者からも脱したのだ。
武力を重んじるのは当然と言えるだろう。
「しかし、その話にはもう少し詳しい史実があってな……。その時の戦争で王国側の王は、十二人の配下を連れて敵国に奇襲。……そして、国を勝ち取った……と。この話は聞いたことがあるか?」
「いえ、ないですね……」
「そうか……。まぁとりあえずはその十二人の配下……今では貴族になっているんだがな?その十二人はこの国でも特に強くならなければならない」
「何でですか?」
「それは……その十二人が王の盾となり剣となる、と誓ったからだ」
「……」
ふーん……。
俺からすると、だから?と言いたい所だが、貴族からすれば盟約というのはどんな事においても優先すべき命よりも重いものだ、と師匠から聞いていたので、そういうものなんだな、と無理やりに納得しておく。
「そうですか……。それで?何で今その話をしたんですか?俺が家庭教師をすることと何か関係があるんですか?」
「あぁ……大いに関係がある」
ムスクは一拍おき、重々しく口を開く。
「その十二人の貴族の中にはこの家、『ウィリディス』家も含まれているからだ」
そう宣った。




