23.ドジなメイドっていつ頃から流行り始めたのだろうか?
今回も短めです
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「では、わたくしは失礼しますわね」
「「はい、気を付けてお帰りください、ルラキお嬢様」」
「えぇ」
そう言ってルラキはこの家を後にした。
ルラキが『では』と言った以上は、状況は順調に進んでいるということだが……。
「ふむ……ルラキお嬢様もお帰りになられた所ですし……。レイトさんと家庭教師の今後の仕事の内容について打ち合わせでも行いますか……。カエルラ、屋敷の応接室にレイトさんを案内して頂けますか?」
「チッ……了解しました」
「はい、お願いしますよ。レイトさん、彼女がここの屋敷の応接室に案内するので、ちゃんとついて来てくださいね?屋敷の中は広いので、迷子になられると探すのに苦労しますので……」
「はぁ……わかりました」
そう言ってムスクはこの場を後にする。
いやいや、どう考えてもこの場に俺とカエルラを残すのはマズイだろう……。
「チッ……チッ!……ついて来てください」
「……」
ほらね。
しきりに舌打ちしてきて彼女の不機嫌メーターが振り切れてますよ。
と言うか、怖いなその眼光!
メンタルが弱いおっちゃんぐらいなら軽く殺せるぐらい強いね!?その眼光!
こんな奴にはついて行きたくない……。
心底そう思ったものの、ここで挫折してしまえば夢の一日千アルムのダラダラ家庭教師ライフが終わりを告げてしまうので、渋々ついていく。
扉はよくわからない蛇のような物が象られた文様が刻まれており、その蛇の口に鍵を差し込むことで扉を開けているようだ。
「中は大変貴重な彫刻物などが展示されているので、靴の汚れなどを丁寧に落としてからお入りください」
「……わかりました」
顔には『入ってくんなよヘンタイ!!!』と書いてあるが、あくまで口は入れと言っている以上俺も入らないわけにはいかない。
カエルラがしたのと同じように靴の汚れを綺麗に落とすと慎重に中に入る。
「応接室は玄関から入って右手側の通路を通って一番目の扉の所です」
「わかりました」
カエルラは、隙あらば刺す!という鋭い眼光のまま右側の廊下へと進んでいく。
廊下にはよくわからない形の彫刻品が多量に置いてあり、落としたら割れそうな壺とかが展示されていた。
うわぁ〜……漫画だとこういうのを落とすドジっ子なメイドが居たりするんだよなー。
ーーーパリンッ!
「へ?」
「……すいませんすいません!また割ってしまいました!」
「テメェ、また割ったのかゴラァアアッ!?」
「ひぃいいいっ!す、すいませんんんんッ!」
……。
「あの……」
「レイトさんは気になさらないでください。……日常茶飯事ですので」
「そうっすか」
俺の後方ではまだ十歳を過ぎたばかりに見える小さなメイド姿の女の子が、白い壺を割って怒られていた。
漫画みたいな子って本当に居るんだ!?という驚きが確かにあるにはあるが……。
それよりもそのドジっ子メイドちゃんを叱りつけているマッスルクリチャーみたいなメイドの方に目がいって仕方がない。
口紅をしているし胸も僅かながらに膨らんでいるので女性だとは思うものの、アレを俺の目の前を歩いているカエルラと同種だとは思いたくなかった。
……中に入っても変な奴ばかりだな。
俺がボンヤリとそんな事を考えていると、一つの扉の前でカエルラが立ち止まる。
「ここが応接室です。中でムスクさんが待っていると思いますので……どうぞ」
「あ、あぁ……」
なんと言うか……。
とても威圧感のある扉だな、と思った。
応接室の扉は全体的には濃い茶色の色彩で塗られているが、ある一点だけは紫色で塗られている。
……ムカデの装飾部分である。
ここってお客様を出迎える場所だよな?
なんでこんなに毒々しい扉なんだ?
扉の中央には人ほどの大きさのムカデがデカデカと描かれており、見る者を不快にさせる。
なまじ精巧に描かれている分、不快指数の度合いは高い。
なんでこの扉で大丈夫だと思ったんだ?
俺はこの屋敷を設計した人間にそこはかとない疑問を抱きつつも、応接室の扉を開けて中に入った。




