18.魔族って色黒のイメージがあるけど、普通に白人もいるんだぜ
これで一章は完結です。
次章は学院劣等生の家庭教師編です。
良かったらこれからも読んでいただけると幸いです。
◇
所変わって魔国。
部屋の窓のカーテンを完全に締め切り、少し鬱々とした雰囲気が漂っている場……即ち魔国の玉座の間にて足を組んでいる角付きの女性が一人、ボロボロになって帰ってきた魔族の報告を受けていた。
「して?その方は何故そのような姿に?誰かにヤられたのか?」
「ハァハァ………ハァ……ゴボッ……」
「あぁ、良い良い。無理に跪く必要はない。誰か!此奴に治療を!」
身体中をボロボロにして血を吐き出す魔族の姿を見て、女性は報告の前に治療をした方が良いと考え、治癒術師を呼び出す。
「ゲホッ……スマないですネェ。どうもこのようナ体たらくデェ……」
「別に。妾をそのようなことで怒ったりはせん。……して?その傷はどうしたのだ?妾はその方に王国の首都近くの湿地帯の調査を任せていたはずだが?竜にでも会うたか?」
「イエ……人間、です。魔王様、人間にこの傷をつけラレましタ……」
「人間……?」
女性……魔王は自身の耳を疑った。
それも無理はないだろう。
今でこそ適切な処置を施したが故に塞ぎかかっている男の魔族の傷だが、ここに帰ってきた当時は左肩から右脇へとバッサリと切られた、切り傷を負っていたのだから……。
骨、内臓はほとんど剥き出し。
そして夥しいほどの量の出血の跡。
どう考えても獣の所業としか思えなかった。
しかもその傷が一線だけならばまだしも、何かの化け物の鉤爪が如く三線。
少なくとも人間にこんなことができるとは思えない。
魔王は再度問う。
「妾は冗談というのをあまり好んではおらん。だからこそ正直に妾の問いに答えよ!汝、その傷は誰に付けられたものだ?」
「人間ノ……男冒険者、レイト。灰色の髪ト目をしてイテ、人間トハ思えない程ノ魔力を持ってイタ……」
「……ふむ、そうか。わかった、下がって良いぞ」
「ハッ……」
魔王は自分の目に自信がある。
何か邪なことでも考えたのならば瞬時に自分の目が反応し、バッサリと切り捨てていた所だが……。
男の魔族に嘘をついた様子は見受けられない。
という事は、人間側にも我ら魔族を単独で害せるレベルの者が多少なりとも居ることがわかる。
「チッ……そうなると妾の計画にも支障が……ッ」
ダンッ、と八つ当たり気味に机を叩き壊し、側近の者たちを驚かせてしまう。
(いかんいかん、冷静にならなければ……)
さて、ここから如何すべきか?
まずはレイトという冒険者を潰すのが先決か?
しかしレイトという者はおそらく王都にいるだろう。
そうなると外部からの排除は困難だ。
そう考えていると、不意に声を掛けられる。
「お母様、今宜しいでしょうか?」
「……ふむ」
丁度考えが煮詰まっていた所だ。
下手な考え休むに似たり、とも言うし娘との会話も大事だろう。
そう判断して魔王は入室を許可する。
「入れ」
「はい、失礼します」
「……して?何ようだ?」
「お母様がレイトという冒険者ことで頭を悩ませている、と小耳に挟んだものですから……」
「ふう……」(あの男の魔族から話を聞いたか……)
口が軽い男の魔族に少し辟易としつつも話の続きを促す。
「して?」
「わたしが王都に潜入します」
「……何?」
「わたしが、レイトという冒険者に近付き、そして処理する……という事です」
「……」
魔王は少しの間沈黙する。
娘は丁度今年で二十歳。
魔族としては成人の年齢であり、この年ならば人間国への潜入などもこなす時期だろう。
しかし……。
魔王は暫しの間愛娘の綺麗な顔を覗き込む。
真っ白な肌に女性らしい凹凸のはっきりした身体。
頭に角がある事を除けば、人間の男からすればヨダレもののプロポーションだろう。
そんな妾の可愛い可愛い一人娘を人間国に送り込むだなんて……。
……端的に言って魔王は親バカだった。
娘が人間の男に襲われたらどうしよう、とかレイトという冒険者に傷でもつけられたらどうしようとか……。
そんな事をウンウンと考え込んでいるうちに、魔王の娘は魔王に頼み込む。
「お願いします。……わたし、お母様の迷惑にはならないようにしますから」
「……くっ。わかった、くれぐれも気をつけるのだぞ?」
「はい、お母様!」
真摯な娘の願い……。
その押しに弱かった魔王は、一人娘を王都へと潜入させることを決意した。




