17.死亡フラグなんてそんなモン
すいません。
次の話で一章が完結します。
◇
「じゃあゴブリン討伐の成功を祝ってーーー」
「「「「「「カンパーイッ!!!」」」」」」
湿地帯『ウェトラン』での出来事から一週間が経過していた。
バルディ達、パーティーメンバーは何とか無事に魔族から逃げることに成功。
その後すぐに重傷のバルディと腕を骨折しているであろうイエーリを王都の病院に送り、残りのメンバーで冒険者ギルドへと報告を行った。
『ーーーということで、ウェトランの魔素溜まりはダンジョンではなく、その魔族によるものと考えられます。早急にAランク以上の冒険者の要請をお願いします』
『うむ、報告ご苦労だった。今からAランク冒険者の編成をこちらで整えておく。今日中に出来るとは言えないが……できるだけはやく派遣するようにしておこう』
『ありがとうございます』
とのことで、報告から二日でAランク冒険者のパーティーが編成され、『ウェトラン』へと向かった。
しかし、彼らAランク冒険者が言うにはもう何も残ってはいなかったそうだ。
ただ激しい魔族による戦闘痕と火属性の魔術によって生まれたであろう木々の焼け跡があるだけ。
三日かけて生存者もしくは魔族の反応がないかの調査をしたが、魔族やレイトのような人間の反応どころか、湿地帯『ウェトラン』に存在しているはずの生物ほぼ全てが確認できなかった。
さすがに『ウェトラン』の状況がおかしいと感じたAランク冒険者のパーティーは、さらに調査を三日延長し、ここで何が起きたのかを探索。
そして、魔族とレイトたちが交戦してから一週間後……即ち、今日Aランク冒険者のパーティーが帰ってきたのだが……。
「『何か強大な闇属性魔術が展開したのであろう跡を見つけた』……ですか」
「ん?どうしたのっ?もしかして、レイトくんのこと?」
「……イエーリですか。……まぁそんなところですね」
「そうだね〜っ。レイトくん、ホントどこにいったんだろうねっ?」
今日はただの飲み会ということでいつもの鎧姿から私服着替えているピンク髪の巨乳少女、イエーリが不思議そうに呟く。
「全くです……」
そんなイエーリにいつもの丁寧口調で答えているのは、金髪ボブカットの女性、リーマである。
いつもなら柔和な表情に丁寧な口調と、人に安心感を与える物腰をしている彼女だが、今の彼女からは少し剣呑な空気が漂っている。
というのも、リーマの大切な友人である無口なエルフ少女、フィロがいつまで経っても気分が落ち込んだままだからである。
「……………………(ボォーーー)」
フィロは手にグラスを持ちながらも一口も食べ物には手をつけず、ただただ虚空を見つめるばかりであった。
リーマとしても気持ちは分からないでもない。
たった一回とはいえパーティーを組んだのだ。
そんなレイトが自分たちの為に殿を務め、もしかしたら死んでしまったのかもしれないのだ。
自分を責めてしまうのも仕方がないといえばそうかもしれない。
ちなみに、一週間も経っているのに未だにレイトの死が確定していないのは、『ウェトラン』には本当に何もなく、レイトの死体すら見つかっていないからだ。
Aランク冒険者たちの説としては、展開した跡が見られるあの闇属性魔術で体が跡形もなく消し飛んだのではないか?との事だったが、さすがにここまでショックを受けているフィロに、そのようなことは言えるはずもない。
「それに……」
落ち込んでいるのはフィロばかりではない。
リーマが目を向けてみれば、そこには少なからずショックを受けているであろうパーティーメンバーの姿が目に映る。
バルディは……特に問題ないが。
カルテは、一見バルディと楽しげに酒を飲みあっているように見えるものの、たまに表情に影が見える。
フィロは言うまでもなく、イエーリも表向きは気にしない体を装ってはいるが、しきりにレイトの行方を気にしている。
ルラキに至っては最近冒険者ギルドに顔を出していない。
斯く言うリーマ自身も出来ればレイトの生存報告が聞ける方が望ましいとは思っている身であるのだ。
そうして少し後ろ向きな思考をしていると、バルディから声がかかる。
「よっしゃぁああっ!じゃあ、この調子でどんどん依頼を達成しようぜ?リーマ!何か新しいの取ってきてくんねぇか?」
「……わかりました」
何で私がそんなことをしなければならないのか?
普段よりも幾分か機嫌の悪いリーマは、いつもなら気にしないような些細なことで気分が少し悪くなるものの、自分以外の人でまともに依頼を探せる人間が能力的にも精神的にもいなかったので、仕方なく席を立つ。
冒険者ギルドの依頼ボードは、リーマたちが飲み会をしていた酒屋のスペースから割とすぐ近くだ。
そのため、ちゃっちゃと行って戻って来れば良いだろう、と。
そんなことを考えながら歩いていると、依頼ボードの横に隣接している冒険者ギルドの受付スペースから騒がしい声が聞こえてきた。
「ーーーだから!何度言ったら分かるんだよッ!俺だよ!俺!この『ウェトラン』の調査依頼を受けてた七人目のメンバーは、俺なの!」
「しかし、規則上パーティーリーダーに設定されているバルディ様から認証がありませんとーーー」
「ーーーだぁあああッッツ!!!本当にもう!何でそんなに融通が利かんのかねッ!?定時に閉まるお役所仕事かよっ!」
「規則は規則ですから……」
一瞬、我が耳を疑った。
その声は、確かに一週間前一緒に受けたことがあるレイトという人物の声だったような気がしたからだ。
ーーー空耳でしょうか?
そう思いリーマは受付スペースで怒鳴っている男の姿を見る。
灰色の髪に灰色の眠たげな目。
服装は何処にでも売ってありそうな安物の市販品で固められており、手には馴染み深い焼き鳥用の鉄串がクルクルと回されている。
「えっ!?……えっ!?」
二、三度……いや、五回以上は目を擦るが、目の前の光景は変わることはない。
リーマが狐につつまれたかのように呆然と突っ立っていると、レイトがリーマが自分のことを注視していることに気付いた。
「ん?何だよ、これは見世物じゃあ……って、お前リーマじゃんか!?」
「えっ……と、はい」
「良かったぁあ〜。ここの受付の人がさぁ……パーティーリーダーの承認がないとダメだって煩くてさ……。リーマ、お前今バルディが何処に居るから知ってるか?」
「……はい、知ってます。……と言うよりも、あそこの酒屋のスペースで酒を飲んでいますけど」
「おお!そうか!そりゃ話がはやくて助かるわ!教えてくれてサンキュー、な!」
「え!……あぁ、はい」
「じゃあな!」
そう言ってレイトは左手を上げて走り去っていく。
リーマは今でも夢を見ているのではないか?と思ったが、突如として聞こえてくる酒屋のスペースからの大声を耳にして、今のが夢ではないのだと悟った。
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