16.鈍感系主人公
次話ぐらいで一章は完結する予定です。
◇
「グボッ……ゲホッ……。ァ、アアア゛!ウ゛ン。……テメェ、生きてたのカァ?」
「見りゃわかんだろうがダボがッ。っーか、俺の左腕!」
「……左腕、なら……ここに」
展開が早すぎてついていけなくなってしまったフィロだったが、とりあえずはレイトに左腕が転がっている場所を教えることにした。
「おぉー!ありがとな、フィロ!」
状況がわかっているのかいないのか、レイトは呑気な声でお礼を言いニカッと笑みを作る。
魔族に殴られて人が変わったのでは?と思うほど先ほどと顔付きが違う。
フィロと別れる前くらいは死んだ魚の様な目をした冴えない男だったが、今は全身から魔力を放出させ若干赤みがかった鋭い目つきをしている。
「……ぇ、うん…………」(……何……コレ?)
俗に言うギャップ萌えというやつだろうか?
フィロはさっきの情けないレイトが自分を助け、カッコいい笑みを浮かべた姿に頬を赤く染めてしまう。
もしかしたら魔族が襲ってきたという生命の危機から救い出されたことによる、吊り橋効果的なものも関わっているのかもしれない。
まぁどちらにせよフィロが茹で蛸の様に顔を染めていることに変わりはないのだが……。
「如何した、フィロ?お前なんか顔が赤くないか?」
「……なっ、なんでも…………ない」
「そうか?なら良いけど……」
「………………ぅん」
『心配してくれてありがとう』
本当ならばこのくらい気の利いたセリフが口から出るのが望ましいと思うフィロだったが、残念ながらフィロでは小さく肯定することが限界であった。
レイトはそんなフィロの様子に少し不自然さを感じたものの、今は魔族の方が最優先だと思い、先に馬車でフィロたちを逃すことにした。
「フィロ……お前ら先に馬車で王都に行っててくれ。俺も後から戻るから」
「……ぇ…………うん、でも……」
「でも?」
「……フィロは、無理。……足が…………」
フィロの言う通りレイトがフィロの足に目を向けると、そこには氷によってカチコチに固められたフィロの下半身が目に映った。
(……これは、魔術……なのか?如何も俺が知っている魔術とは毛色が違うような……?)
魔術ならばさっさとその術式を破壊してやればいい。
レイトならばそれができるのだから。
そう思ったレイトはフィロの足の状態を触診してみるが、どうもレイトが知っている魔術ではないように思える。
しかしまぁ幸いなことにこの魔族の攻撃は、氷属性に近いものである。
ならば火属性の魔石を使って温めてやればいい。
そう考えたレイトは、火属性上級魔術によってしばらくの行動が不能になっている魔族をちらり、と見てから火属性の治癒術式を行使する。
「火よ、紅蓮の温もりを以って、目標を癒せ!『火の治癒』!」
「……ふぁ」(…………あったかい)
レイトが術を行使すると今まで凍り付いていたフィロの下半身は、一瞬で液化しフィロの足を自由にした。
「…………ぁりがとう」
「ふっ、気にすんなよ。俺たち、仲間だろ?」
「…………ぅん」
「じゃあ、はやく馬車に乗れって」
「……うん」
レイトはフィロの方を少しだけ見ると、優しげな顔を作り馬車に乗るよう促す。
フィロはレイトが魔族と戦うつもりなのだと考え、少し不安に思うものの、レイトの邪魔をしないようにすぐさま馬車へと乗り込んだ。
「〜〜っ!良かったよっ、フィロ!このまま死んじゃうんじゃないかって、心配したよっ」
「もう、あの様な無茶はしないでくださいね?」
「……うん」
馬車に乗り込むとイエーリとリーマがフィロに抱きつき、心配したとフィロに交互に話しかける。
そんな二人の様子に漸く自分が生きて帰ってきたのだと実感したが、まだ目の前の脅威が去っていないことを思い出し、すぐに馬車を出す様に言う。
「……馬車!はやく!……出して!」
「……そうですね。全員揃いましたし、そろそろ出発しますか?」
「うんっ、それが良いと思うよっ」
リーマとイエーリがフィロの言葉に賛成を示す。
カルテはまたしてもレイトを置き去りにしてしまうことに罪悪感を感じて顔を顰めるものの、所詮しがない治癒術師でしかない自分ではこの場に残っても足手まといにしかならないと思い、三人の判断に何も口出しはしなかった。
……ちなみにルラキはまだショックから立ち直っていない。
兎にも角にもここから離れなければ!
四人はそう考えて馬車を出そうとして魔族が待ったをかける。
「オイオイ、それは困るゼェ?……オレは魔王様からオレの姿を見た者全員、殺す様に言われてイルンだからヨォ?」
「「「「ーーーーーーッ!?」」」」
突然の魔族の殺気に怯む四人。
しかし、そこでレイトがフォローを入れる。
「ちょっと待てよ、魔族様!てめぇの相手は俺だぜ!ーーー、『火の弾丸』!」
ーーードガンッ!
決して小さくはない爆発が魔族の体を襲う。
先ほどレイトが放った『火の砲弾』と比べると今放った『火の弾丸』の威力はそこまで高くない。
先ほどの魔術が魔族の体全体を覆うのに対して、今の魔術は胴体程度の大きさしかないのである。
しかし、速攻で打てるというのがこの魔術の利点である。
『火の砲弾』は火属性の上級魔術ということでその分詠唱が長い。
それに対して『火の弾丸』は火属性の中級魔術。
しかもレイトは魔石に『火の弾丸』の術式を刻印しているため、実質的な時間は術式の展開だけ。
時間で言えばたったの二秒。
さすがの魔族も反応しきれずにもろにレイトの魔術を喰らってしまう。
「……グッ、ゴホッ。……て、テメェ、何しやガーーー」
「ーーーはい、言わせませーん!『火の弾丸』!」
「ーーーグオッ!?」
そこからはずっとレイトのターンだった。
レイトは「『火の弾丸』!『火の弾丸』!『火の弾丸』!『火の弾丸』!『火の弾丸』!『火の弾丸』!ーーーーーーッ!!!」を連発。
魔族も最初は「グオッ!」とか「ゲェッ!?」とか言っていたが、段々と口数が減っていき今では物言わぬ人形の様になってしまっている。
あまりの圧倒的さに唖然とする四人。
しかし……。
「何してる!?俺が引きつけている間にはやく行けって、言ってんだろ!?」
「「「「は、はいッ!(……はいッ)」」」」
レイトの掛け声によって我に帰り、馬車を出発させる。
と言っても、ここまで相手を圧倒しているのだ。
魔族もレイトの手によってすぐに討伐されるのでは?
そう思ったフィロはレイトの方へと目を向ける。
しかし、何十発と放っているレイトの『火の弾丸』を喰らい続けてもなお、魔族はしっかりと二本の足で立っているのだった。




