13.ある日〜、森の中〜、マ族さんに〜、出逢ったっ♪
そろそろ一章が終わる予定です。
俺が今何をすれば生存率が一番高いのか?
魔族に遭遇してまず一番に考えたのが、それだった。
俺が取れる手段としては三つ。
一つは一目散にこの場から逃げ出す手。
フィロは勿論の事、パーティーメンバー全員を裏切る事になり、更に言えばもしパーティーメンバーの中から一人でも生き残ってしまえば俺の世間体は地に堕ちるも同然だろう。
世間体の失墜という意味でも取りたくない手段だが、取らない理由として一番大きい要因はフィロである。
今のフィロの状態は、ただ膝をガクガクと震わせるだけの見た目通りの幼な子のようなものだ。(実年齢はこのパーティーの中で一番高い四十三歳と、フィロから聞いている)
こんな奴を残して逃げ出そうとしたところで、魔族の身体能力では一瞬のうちにフィロを制圧して俺を捕らえることができるだろう。
ある意味一番リスキーな手段だ。
二つ目はフィロと共闘することだが……。
これも先ほどの理由から賢い手とは言えないだろう。
とすると……。
「フィロ!俺が魔族を抑えてみるからお前ははやくパーティーメンバーのところに行って、王都に逃げろぉぉおおおッッ!!!」
「……ッ!」
三つ目の手段。
『俺を置いてお前は先に行け!』作戦である。
これならば今のフィロでも何とかなる、というよりもむしろ一刻も早くここから逃げ出したいフィロとしては渡りに船であり、逃げ足も速くなるはずだ。
……普通ならテンプレよろしく『貴方を置いてなんて行けないわッ』なんてグジグジするヒロインがいたりもするが、フィロと俺の親密度なんて大したことはないので、フィロは脇目も振らず馬車の方へとダッシュしていった。
と言うかあまりの速さに俺と魔族はおいてけぼりになった感がなくはないが……。
「へ〜……オマエ、結構骨があるヤツナンダなぁ?仲間を逃してジブンだけ残るなんてヨォ?」
魔族は何を勘違いしたのか、俺に向けて感心したかのような口振りで話しかける。
はっ!バカかってのッ!?
俺が何も考えずにこの場に残ったと思うのか?
勝算があるに決まってんだろうがッ!
魔族はさっき確かにこう言っていた。
『オイオイ、コイツは困るゼェ?オレはここの生態がどんなモンかを調べるヨォ、『魔王様』から言い使ってるんだからヨォ?』
『ダンマリかよ……。それともアレかぁ?少しは痛めつけてヤリャあーーー』
『ーーーちょっとはナンか喋ってくれんのカヨォ?』
これらのセリフ。
一見凶悪な魔族そのものの口振りに聞こえなくもないが、実は魔族には一応の知性感じていた。
魔族は『魔王様』の使いで来ているのだ。
コイツが一番欲しているのは人間を惨殺することではなく、湿地帯『ウェトラン』の生態である。
となれば、コイツの言う通りに『ウェトラン』の情報を素直に提供すれば案外大人しく帰ってくれるんじゃないか?
勿論この推測は大分、いやかなりの希望的観測ではあるものの今はこの可能性に縋るしか方法がたい。
ならば俺がすべき事はコイツの足止め兼性格の情報収集を込めた雑談をすること……のはずだ。
「なぁ?お前ってさ……湿地帯『ウェトラン』の調査に来たんだよな?」
「ン?アア、そうダゼ?それがどうかしたノカぁ?」
「いや、何でこんなところを調べる必要があるのかな〜……と思ってさ。だってここ、別に魔素が特別濃いわけじゃないし、さ……。とても魔族が好むような場所には見えないんだけど?」
「へ〜……オマエ、妙にオレらについて詳しいナァ?」
それもそうだろう。
魔族が何を好んでいるかなんて人間至上主義国家では調べようとも思わないだろう。
ここの人間はほとんどが他種族をバカにして暮らしている脳みそスッカスッカな連中なのだ。
傲慢すぎて上を見上げるばかりのバカどもにそんなことを考える暇などないだろう。
しかし、俺はそんな凡夫どものような脳内お花畑ではいられない。
だってどう考えても人間よりも他種族の方が優れているのだ……身体的にも、知能的にも。
普通考えたら焦るというものだ。
人間は弱いんだから、他種族の弱点を探ろうと考えるのは当然の摂理というものだ。
その中でも特にトップクラスでヤバイと称される魔族なのだ。
もう苦手や弱点どころか得手、好みまでしっかりと調べ尽くした。
その中に一つ、魔族は魔素が濃い所を好むということがあったので聞いてみたのだ。
魔族は俺の質問に感心半分警戒半分の表情を見せる。
……できれば感心するだけが良いんだけど。
「じゃあ、オマエはどうやって魔族がデキルか……知ってルカ?」
「?いや、知らないけど……?」
「そうカァ……」
なんだその質問……?
まがどうやって『デキル』だと?
普通なら産まれるだろうが……。
まるでーーー
俺が何かを考えようとする前に魔族が口を開く。
「ナるほド……。大体のコトはわかったゼェ?オマエが聞きたいコトは理解したガ……ワルイなぁ?オレもその質問には答えなれナイナァ」
「……」
「理由カァ?理由はカンタン。……オレが知らねェからヨォ」
確かに簡単だった。
そうか……。
末端の魔族には教えられないほど重要な何かがここにはあるということか。
そうなると俺も王都を出て早々に何処か他の国へと撤退するべきだろうな……。
俺が沈黙している間に律儀にも魔族の方は俺を待ち続ける。
……ん?これって他に何か質問はあるかってことか?
「ありがとう、質問は以上だ」
「そうカァ……」
やっぱりそうだったみたいだ。
しかしコイツ見た目が魔族だからヤバイ奴だ、と思いはしたものの実際はそんなに悪い奴じゃないかもしれない。
……今だってこうやって待っていたし。
「じゃあ、コンドはオレの番だナァ?ここの生態について、知ってるダケでイイ。……教えてクレナイかぁ?」
「ん?あ、あぁ良いけどさ……」
ちょっとというかかなり律儀な魔族に、俺は若干の戸惑いを覚えながらも湿地帯『ウェトラン』の話しをする。
「ーーーという感じなんだ。……いや、まぁ俺もここの専門家ってわけじゃあないからそこまで詳しくはないけど。知りたいことは知れたか?」
「ア?アァ、十分だァ。助かったゼ、ありがとうヨォ?」
「あぁ。どういたしまして……」
なんかちょっとやり辛いなと思うものの、魔族のお礼を受け取る。
……良かった。
この魔族は大分温和な性格のようだ。
これなら何事もなく済みそうだ。
そんな俺の思惑はーーー
「ーーーじゃア、死んでクレよぉ?」
魔族のそんな一言でバッサリと切り捨てられる。
「……はぁ?」
「オォット、言葉足らずだったナァ?オレ、『魔王様』からヨォ?『そこで我々が調査していることが人間に気取られたならば、殺しておきなさい』と言われテテよぉ。……ワリィな、折角教えてモラッタってのに」
「ーーーくっ」
結局こうなるのかよ!
俺は袖に仕舞っていた鉄串を投擲しようとしてーーーーーー
ーーーーーーブシャァアアアアッッ!!!
俺の左腕がクルクルと宙を舞っていた。
「……なっ!?」
「ホント、ワリィな?」
ーーーグシャッ!
地面は俺の鮮血で真っ赤に染まっていた。
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