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叛逆の魔術師〜属性が無いと蔑視されたので開き直って金持ちになることにした〜  作者: シロナガスクジラ
第1章 駆け出し冒険者編
12/38

12.君が悪い!



「やっ……やった!やりましたわッ!わたくしたち、生き残りましたわっ」


ミノタウルスたちが串刺しになっている光景をしばらくの間、呆然とした表情で眺めていたパーティーメンバーであったが、ルラキの喜びの声をきっかけに他のメンバーも喜色の声を上げる。

……特にミノタウルスの足止めを任されていたリーマ、フィロ、イエーリの三人娘はその声の声量が高かったように思える。

それだけ自分の死を身近に感じたということなのだろう。

しかしそんな中、相変わらず沈んだ表情をしている者がいる。

……カルテだ。


「ぅ、ううッ!……もう、ダメかもしれないッ」


カルテはミノタウルスにやられたバルディの傷を必死に治そうとしているが、いかんせんバルディの傷が大きすぎた。

人体の中でも弱い部分である脇腹をミノタウルス(仮)の強靭な腕力によって、凄まじい勢いで殴りつけられていたのだ。

直撃していないはずの肋骨もボロボロの状態の中、直撃した脇腹に至っては内臓が何個か破壊されていることが遠目から見ても明らかなほど、深く陥没していた。

木に叩きつけられた衝撃で口に溜まっていた血が吐き出され、バルディの体の周りには多量の血が撒き散らされている。

……大分凄惨な光景だな。

カルテは何とか必死に下級の魔術で治癒しようとしているが、魔術が専門じゃない俺からしても無謀であることがわかる。

おそらくこのまま何もしなければ、『リノン』に帰る前に死ぬだろう……。

さて、ここで俺は二つの選択肢がある。

一つはバルディを助けない。

バルディは結局のところ自分が女性にもてたいが為に、(他人)の風評を穢すクズだ。

こんな奴は助ける必要性なんて皆無なのではなかろうか、というのが俺のバルディを助けない理由である。

まぁ所詮は俺の内面的なものであり、あまりクレバーな考えとは言えないが……。

俺の心情的には大歓迎である。

二つ目はバルディを助ける。

バルディは性格的にはクズではあるものの、実は実力的には大分Dランクでも上位に食い込んでいる方だと思われる。

どうしてそう思うのか?

それはバルディが使った魔技というものが判断の基準になっている。

魔技。

自身の持っている魔力と武器による攻撃のタイミングをぴったりと合わせ、無詠唱での属性攻撃を可能にする技のことである。

バルディのパーティーメンバーはポンポン魔技を使っていたのであまり難易度は高くないように思えるが、少なくともDランク冒険者で魔技を使える人間はそんなにはいない。

Cランク中位ぐらいからだろう。

……自分の魔技を一個か二個持ち始めるのなんて。

そう考えるとバルディは一応は、結構有力な人材と言っていいだろう。

ならばここでバルディの命を救うことによって、恩を売っておけば何かしらの形で俺にプラスの要因になってくれるのではなかろうか?ということである。

いや、でもバルディ(こいつ)ちゃんと貸した恩を返す男だろうか……?

とてもそんな誠実なタイプには見えないんだけどなぁ〜。

それに問題はもう一個ある。

それは俺が今からすることになるだろう、特殊な魔術をパーティーメンバー(他人)に見られる、ということである。

俺は何度も言うがこの国では少し特殊な人種だ。

……できれば人種(それ)の露見は避けたい。

と言うかたった一人の、それも性格クズのただのDランク冒険者の為にそこまでのリスクを払う必要性がない気がする……。

どう考えてもリスクとリターンが釣り合っていない。

だったらやはりバルディ(こいつ)は見捨てるべきか?


「ぅっ……うぅっ……うぇええんッ!」


……。

よくよく考えてみれば俺の魔術なんて先ほど披露したばっかだったな……。

ならもうリスクなんてないようなものなのかもな。

俺は自分の中で無理やりに納得できる言い訳を作り終えると、カルテの肩をポンポンと叩く。


「……グスッ。な、なによぉ……あんた、バルディを笑いにきたのッ!」

「いや、別にそういうつもりじゃないんだけど……」


……なんか目元真っ赤で怒鳴られても全然怖くないんですけど。

これは早くバルディを治してやらないとな……。


「……だったら、なにッ?」

「……カルテさ。お前、バルディの生命維持ができるくらいの治癒術式って、知ってんのか?」

「知ってはいるけど……。でも、魔力が全然足りないわッ。……それにイエーリの傷の手当もしないといけないし」


チラ、とイエーリの方に目を向ければ、イエーリもバルディほどとは言えないがまあまあ酷い傷を負っていた。

大楯で受け、更に防御の魔技を使ったおかげで大楯を持っていた手、右手の骨折だけで済んではいるものの、グニャグニャに折れ曲がっているその風体を目にすれば決して軽傷とは言えないだろう。

ちなみにそんなイエーリの体を身を挺して守ってくれた大楯の方は、役目を終えたとばかりに鉄のゴミ屑となって辺りに散らばっていた。

早い話が木っ端微塵ということだ。

……ミノタウルス(仮)どんだけ腕力があったんだよ?

まあ今はあのミノタウルス(仮)のことはどうでも良いとして、傷の話だ。

カルテは案外律儀なことに、パーティーメンバーである以上はイエーリの傷も治さないとマズイという精神観念があるようだ。

……仕方がない、か。

俺はカルテのその誠実さを買って、今回ばかりは手助けすることにした。


「カルテ、魔力があれば問題ないんだな?」

「ッ!……だ、だからッそう言ってんでしょッ!?ホンットにッ!アンタッて脳みそまで腐ってんのねッ!……さっきは仲間おいて逃げ出そうとしてたしッ!」


うっ……ヤッベェ、バレてますなぁ。

俺は意外に鋭いカルテに戦々恐々としつつも、これ以上の墓穴を掘らないようにさっさと詠唱を開始する。


「……まぁまぁ、落ち着けって、な?“色無き子には祝福を!水無き子には御恵みを!”『魔力供給(マナ・シェアリング)』……」

「アンタ、何やって……ってエッ!?ウソッ!!!魔力量が増えてるッ!?」

「はいはい、『なんでッ?』とか『どうして!?』は置いといてさ……。とりあえずはバルディとイエーリの治療を優先する。……オーケー?」

「そ、そうねッ……まずはそれが先決だわッ」


フィロとルラキからは驚愕の表情、そしてリーマ、イエーリはなにをしているのかよくわからないような顔でその光景を眺めていた。

俺の魔術を実感したルラキとカルテは当然として、感覚が鋭敏であるエルフ族であるフィロも俺が使っている魔術がおかしいことに気付いたか……。

これは最悪この国を出ることも視野に入れておかないとな。

脳内で国外逃亡のシミュレートをしてみる。

……うわぁ、なんか予想以上に鬱になるな。

如何にかして煙にまけないかな?

俺がそんなことを考えているうちに、カルテは術式を構築し終わりバルディとイエーリの治療に入っていた。


「……『水の治癒(ウォーター・キュア)』!」


まずは重症であるバルディの治療から。

水属性中級治療魔術、『水の治癒(ウォーター・キュア)

バルディの体の傷の中でも特に酷い陥没した脇腹を中心的に青色の魔力が覆っていく。

俺とカルテの魔力量ならば上級魔術でもいけると思っていたが、ここがまだ『ウェトラン』の中であり、強力な魔術はそれだけ強力な魔物を誘きやすいというのを考慮して、一応の生命維持ができる中級クラスの魔術を選択したのだろう。

自分の好きな人が死にかけているというのにこの冷静さ……。

やはりカルテには治癒術師としての精神(才能)が備わっているようだ。

そうこう考えているうちにバルディの応急処置は終わり、陥没していた彼の脇腹は元の形に近い状態になり、腫れや彼の表情なども大分改善されたようだ。

後は『リノン』の医者にでも見せればなんとかなるだろう。

……金銭的には高く付くだろうけども。


「……『水の癒し(ウォーター・ヒール)』!」


バルディの応急処置が済み、今度はイエーリの傷の治療へと入る。

水属性下級治癒魔術、『水の癒し(ウォーター・ヒール)

中級クラスの魔術を使えばイエーリの骨折した腕も元通りに治せるだろうが、この場合はカルテの判断は正しいと思う。

イエーリはあのミノタウルス(仮)によって腕がグニャグニャに粉砕されているのだ。

カルテが人体に詳しい医者ならばまだしも、彼女はあくまで治癒術師であって医者ではない。

下手に素人が完全に治癒させて誤った形に腕を復元してしまったら、最悪の場合腕が一生動かせなくなる可能性がある。

ならばこんなところで急拵えな治癒を施すよりも、『リノン』でのしっかりとした施設での治癒を待った方がイエーリの今後の冒険者人生的には良い結果になるだろう。

多分、カルテはそれを見越して腕の多少の矯正と痛み止めに努めたのだろう。

……本当にこのパーティーはDランク冒険者の集まりとは思えないくらいに優秀な人材ばかりが揃っているなぁ。

いや、それともこういった優秀な人材を揃えることにバルディが長けている、とか?

あり得なくはない話だな。

このパーティー自体バルディ自らが誘って作り出したものだと(バルディから)聞いているし、もしかしたら本当にバルディにはそんな才能があるかもしれない。

……だとしても、俺には関係ない話か。







カルテによるバルディとイエーリ(二人)の応急処置が終わったところで、俺とフィロはミノタウルス二体の剥ぎ取りにかかっていた。

剥ぎ取りと言ってもミノタウルスの使える部位など高が知れているし、そもそも今回は調査依頼に来ているのであって討伐依頼に来ていたわけではないので、魔物用の袋なんかも用意してないしで、そこまで大量の剥ぎ取りは困難である。

と言うか取っても邪魔なだけだ。

ならば一番買取の値段が高い部位であるミノタウルスの角と、その魔石だけ取っておけば良いだろう、という事になった。

……俺とフィロの独断で、だが。


「それにしても黒いミノタウルスの魔石って何だかドス黒いんだな……」

「……気持ち悪い……色」

「そうだなぁ……。そっちのミノタウルスの方は……?」

「……普通。……赤」

「そっかぁ」


やっぱり変なのはミノタウルス(仮)(コイツ)だけかぁ。

まぁ確かに既存のミノタウルスとは色々おかしいもんな。

魔力黒いし体毛黒いし目も黒いし、っーか全部が黒い!

おかげで気味が悪いだの何だのでフィロが触りたがらないので、ミノタウルス(仮)の剝ぎ取りは俺が一人でしないといけなくなっている。

俺から言わせて貰えば、そんな理由でミノタウルス(仮)の剝ぎ取りを全部俺に押し付けているフィロの方が、(フィロ)が悪い!と叫んでやりたいところなんだがな……。

まぁこればっかりは仕方がない。

愚痴を言っても剝ぎ取り(仕事)の量が減るわけでもないので、俺は黙々と作業に取り組む。



約三十分後。



返り血を浴びないようにしたり、魔石に傷をつけないようにしたりと色々気を使ったおかげで少し時間がかかったものの、無事に剝ぎ取りは終了〜〜。

俺はフィロが予備で持ってきていた袋にミノタウルス(仮)の魔石と角を入れると、パーティーメンバーが待っているであろう湿地帯の出口にある馬車を目指そうとして、不意にフィロに腕を掴まれる。


「……?どうした、フィロ?」

「…………遅かった」

「……へ?」


遅かったって、何ぞや?


「…………来る……来る!」


何が『遅かった』のか、そして何が『来る』のか?

そう問い返してみたが、フィロは体を震わせるばかりで何も答えてくれない。


「なぁ?一体何がーーーッ!?」


俺は何を聞こうとしたのか?

それすらもわからなくなるくらい、空気が凍てつくのを感じた。


「何が起こってーーー!?」


俺がそう問うよりも早く、『ヤツ』は現れた。


「ァ、アアン?ナンダ、こりゃ?オレの手下共が死んじまってんじゃねぇカァ?」


『手下』とか何か気になることを言っていたような気がするが、今の俺にはそんなことは気にならない。否、気にする余裕がないと言った方が正しいか?

『ヤツ』は、人間()がいることも気にせずにベラベラと話を続ける。


「オイオイ、コイツは困るゼェ?オレはここの生態がどんなモンかを調べるヨォ、『魔王様』から言い使ってるんだからヨォ?」

「「……」」

「ダンマリかよ……。それともアレかぁ?少しは痛めつけてヤリャあーーー」



「ーーーちょっとはナンか喋ってくれんのカヨォ?」


『ヤツ』はーーー、いや、魔族はそう言って口が裂けるほどの大きさで口角を吊り上げた。






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