11.お前!そんな形して第二形態なんてしたら、ぶっ殺すかんなっ(涙声)
ちょっと短めです
先ほどバルディたちがタコ殴りに出来ていたミノタウルスとは何かが決定的に違う、とこの場にいた全員が思い知らされた。
……バルディの無惨な姿によって。
「グルウォェエエエッッツ!!!」
意気消沈。
そんな四字熟語な今の場にはピッタリだな、と思うくらい通夜同然の空気を出していた俺たちのパーティーの空気を変えてくれたのは、皮肉なことに目の前のミノタウルス(仮)の雄叫びだった。
「ーーーッ!?」
これは、マズイ。
マジでマズイ、ってぇええッ!
何が悪いってまずはこのパーティーの雰囲気。
良くも悪くもパーティーの中心人物に近かった存在がいなくなってしまったことで、このパーティーの戦意がガタ落ちしている。
一番バルディと仲が良かったカルテは、商売道具であるはずの杖を取り落としているし、このパーティーの中では一番冷静沈着なはずのフィロでさえ、少し膝が震えている。
俺は、バルディの立て直しが必要だと実感した。
決して他人の為なんかじゃなく、俺の生存率を上げるためにもッ……!
俺は声を張り上げて指示を出す。
「何をしているッ!?カルテ!お前は治癒術師だろうが!?さっさとバルディを治療しろッ!」
「えっ……うんッ!」
「イエーリィイイイッ!!!頼むッ!黒いミノタウルスの攻撃を凌いでくれッ!」
「う、うんっ」
「フィロとリーマは、少しの間だけ負傷した方のミノタウルスを頼むッ!」
「「わかりましたッ!(……了解)」」
「そして、ルラキ!お前、ちょっとこっち来い!」
「わかりましたわっ!」
俺の指示出しに、ようやくパーティーが機能し始める。
カルテはバルディの治癒、イエーリはミノタウルス(仮)の足止め、フィロとリーマにはもう一体のミノタウルスの方の動きを封じさせる。
その間に、俺はルラキを呼び寄せ質問をする。
「ルラキ!お前が使える魔術の中で最も強力且つ迅速に撃てるやつは何だ!?」
「速度は刻印術式を用いているので、然程変わりませんわ。……ただ、強力なものとなると……今は魔力の都合上で『氷球』ぐらいしか……」
「魔力量はどうでも良いッ!それよりもッ!一番、強力なやつは何だッ!?」
「そ、それでしたら……わたくしの魔力量が満タンでも使えるかどうか怪しい代物ですけど……一つだけ。『氷の惨殺場』ですわ」
「よし、わかった!早くそいつを打つ準備をしてくれッ!」
「エッ!?……えっ!?わ、わたくしの話、聞いていませんでしたの?……だから、コレは」
「ーーー時間がないんだッ!頼むッ!!!」
俺とルラキが呑気にお話をしている間にも、刻一刻とタイムリミットは迫ってきている。
「ブモォオオオッ!!!」
「ーーー『紫電三連突き』!」
「……んっ」
フィロとリーマは元々からして実力者だったのか、Bランク級の魔人を相手にしているというのに、そこまで負傷してはいない。
まだまだ、戦える感じがする。
しかし……。
「うんっ!?くうぅおおおおっ!!!」
「グルウォォォァアアアアアッッツ!!!」
イエーリの方が余裕がない。
盾職ということもあり、防御は得意なのだろうが……それにしても今回は相手が悪すぎる。
何とかしてミノタウルス(仮)の剛腕を大楯で防いでいるものも、アレでは精々もって後一分が限界なはずだ。
そして、今の戦局がよろしくないことはルラキもわかっているはずだ……。
「ーーーわ、わかりましたわッ!しますわッ、『氷の惨殺場』を起動しますわッ!……失敗しても知りませんわよッ!」
ルラキは覚悟を決め、術式の構築を始める。
それとほぼ同時に、ミノタウルス(仮)が雄たけびを上げる。
「グルウォォォァアアアアアッォオオオオオッッツ!!!」
な、何だ……?
いきなり黒い蒸気のようなものを吹き出し、右腕がドンドン黒ずんでいく。
もしかしてアレ、魔技なのか……?
「えっ……?」
あまりの出来事に、イエーリも茫然自失の状態だ。
いや、マズイッ!
アレは何か不吉な気がするッ!!!
「イエーリッッ!!!構えろぉぉおおおッ!!!」
「て、『鉄壁』ッ!」
「グルウォォォァアアアアアッッツ!」
土属性魔技、『鉄壁』
自身の耐久力を鋼の如き硬さにする、盾職鉄板の魔技。
しかし、そんなイエーリの魔技はミノタウルス(仮)の腕の一振りで沈黙する。
ーーードガシャァアアアンッ!!!
トラックが店に突っ込んだかのような音が鳴り響き、イエーリは数瞬前のバルディのような状態になった。
「「イエーリさんッ!(……イエーリ!)」」
その惨状にイエーリの昔馴染みである二人が、ミノタウルスを置いてイエーリへと駆け寄る。
それと同時に、ルラキの魔術の構築式が完成する。
「できましたわっ!」
「よっしゃああああッ!後はぶちかますだけッ!あのミノタウルス二体に向かって撃てぇッ!」
「で、ですが……ッ!」
「大丈夫、大丈夫!魔力量の問題は俺がどうにかするからッ!早く、撃てぇッ!!!」
「は、はいですわ。ーーー『氷の惨殺場』!」
ルラキがキーワードを叫ぶと同時に、彼女の手のひらから幾何学的な文様が浮かび上がる。
このルラキの魔術を正しく理解しているかはわからないが、危険なものではあるとは思ったらしく、ミノタウルス二体は仲良くルラキの方へと突っ込んできた。
ははっ、ざまぁねぇなッ!そんなのは、ただの良い的じゃあねぇかッ!
ルラキの生み出した文様が明滅し始める。
おっと、そろそろか……。
俺はルラキの魔力が完全に無くなる前に、呪文を唱える。
「“輪廻をもってこの地は廻る。色とりどりの世界の輪廻が無色を満たす”ッ!『魔力充填』!……ほんでもういっちょッ!“色無き子には祝福を!水無き子には御恵みを!”『魔力供給』!」
「な、何ですの!コレは……ッ!?」
先ほどまで消えかかっていたルラキの魔術がしっかりと文様の様を取り戻し、幾何学的な文様の全ての文字に魔力が満たされる。
そしてーーー
ーーーパキンッッッ!!!
ミノタウルスたちは、数千本の氷の針によって串刺しにされていた。




