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叛逆の魔術師〜属性が無いと蔑視されたので開き直って金持ちになることにした〜  作者: シロナガスクジラ
第1章 駆け出し冒険者編
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10.必殺!バルディとカルテは囮だよ作戦!



そもそもの話、魔物とは一体何なのだろうか?

ある日俺が師匠と共に(無理やり)修行をしている中で、俺は魔物の正体を知りたくなった。

ということで、思い切って聞いてみた。


『師匠!魔物って何なんですか?』

『ううむ……師匠もさっぱりわからんな!……レイト!師匠も魔物の正体が気になるからちょっと調べておいくれ!』


しかし、師匠は俺に魔物の正体を教えるどころか、むしろ自分が知りたくなったので、弟子の俺に調べておいてくれ、と言われた。

当時の俺は、まさか逆に聞き返されるとは思いもしなかったものの、その実普段からお世話になっている師匠に恩返しができるかもしれない、と思い張り切って魔物の正体を研究し始めた。

研究期間はおよそ三年。

師匠といた期間は二年ぐらいしかなかったため、残念ながら師匠にこの研究結果を伝えることはできなかったが、それでも俺の中ではかなり有益な研究だったと思う。

日本での生活から得た異世界の知識と、『(レイト)』という特殊な存在のお陰で、俺はこの世界の人間の誰もが知りえなかった真実に辿り着いた。


ーーー魔物とは、生物である。


何を当たり前のことを言っているんだ?と思うだろうが、極論はこんな感じ。

正確に言うと、魔素を取り込みすぎた生物である。

この世界では魔物と生物は厳密には違う。

生物は人類に積極的に害を与えることが少なく、魔核を持たない生き物のこと。

そして、魔物とは人類に積極的に害をもたらし、魔核を持つ生き物のことである。

ついでに言うと、人類が使う魔法に近いことも魔物はすることができる。

さて、ここまでの流れは理解できただろうか?

俺は、十六の冬ぐらいにこの結論に至ったのだが……。

そこでまた、新たな疑問を抱いてしまう。

魔物よりも強いとされる魔人とは、一体何処から生まれてきたのだろうか?

この世界『コロル』では、まだまだ解明されていないことが山ほどある。(地球でも似たようなものだったけど……)

その中の一つが、魔人の正体である。

一見、魔人は魔物と比べても四足歩行の生き物が二足歩行に変わっただけに見える。

しかし、その性能は桁違いと言っていい。

まず、魔物の時にははっきりとは発言していなかった魔法が、魔人の時になると、魔力量がそこまで多くはないだろう人間にも感じ取れるくらいに強力な状態で発言される。

言語も(何語かはわからないことが多い)話すようになり、呪文詠唱をしてくる魔人がいることもあるのだ。

例で挙げるとするなら、ゴブリンマジシャンとか。

ちなみに、俺が道中で倒したノーマルなゴブリンは魔人ではなく、魔物のカテゴリーに入っている。

ゴブリンは二足歩行をしているのにも関わらず、何故魔人から除外されているのか?

それについても学者の間で謎になっているが、今はそれは放置するとして……。

問題は魔人の存在である。

魔人はどれもが屈強で、魔族ほどではないにしろ厄介である。

ランクで言うとしたら、準Bランク〜Aランクと言った感じ。

今対峙しているミノタウルスは、魔人の中でも有名な部類に入っており、確かランクはBだったような……?

……おっと、またしても脱線してしまった。

話は元に戻すが……。

では、そんな魔人の正体とは何なのか?

実はこれも単純明快……魔物が魔素を取り込みすぎた物である。

魔素とは、元々人類が魔法を使うために必要な燃料のようなものである。

空気中の魔素濃度が高ければ高いほど魔法の威力は上がり、逆に魔素濃度が低ければ魔法の威力も下がってしまう。

なら、魔物……いや、人類以外の生物にはどんな影響を及ぼすのか?

生物には、魔素の取り込む量に応じて急激な進化を遂げさせる。

その結果、ダンジョン化した魔物には魔素を多量に取り込んだが故に、普通の魔物よりも強靭な存在となることが多いのである。

そして、魔人の出生率も増える……というわけだ。

あぁ、長々と語っておいて結局何が言いたいのかと言うとだな……。


ーーーこの湿地帯の何処かに、魔素を異常に発生させた何かが潜んでいる、ということである。







ミノタウルスの姿を目撃した俺は、今回の依頼を受けたことが改めて悪手だったことを実感した。

魔人ミノタウルスは、あくまで急激に増加した魔素を多量に取り込んだだけ。

本当の黒幕はこのミノタウルスよりも数倍ヤバイ奴に違いない。

ミノタウルスのランクはBランク。

そのBランクの魔人を生み出せるほどの濃い魔素を放つということは、フィロの言う通りこの湿地帯『ウェトラン』には確実にAランク以上の魔族が潜んでいるということだ。

……速く撤退しないとマズイことになる。

俺はフィロへ視線を向け、夜番の時に決めていた段取りで逃げることを伝える。

フィロも俺のアイコンタクトの意味を汲み取り、コクリと頷く。

良し!題して、『バルディとカルテは囮だよ作戦』決行じゃあッ!!!

フィロが前衛にいるリーマ及びイエーリの回収、そして俺がルラキの回収に向かおうとしたところで、バルディ(あの馬鹿)が突如として動いた。


「……み、皆!相手はミノタウルスという強敵だけど、大丈夫だぁああッ!!!俺が先陣を切るから!その後にリーマ、イエーリ、続けぇえええッ!!!!!!」

「「は、はい……!」

「うぉおおおアァアアアッッツ!!!」


あんのバカァッ!!!

バルディは無謀にも両手剣を上段に構え、ミノタウルスへと突撃していく。

そして、バルディの先導に続く形でリーマ、イエーリもミノタウルスに突っ込んでいく。


「おいおい、待てよ!突っ込んだらマズイだろうがッ!」

「なによッ!アンタ、デリカシーもないのに、バルディみたいな勇気もないのッ!?とんだ腰抜けねッ!!!」

「アホかッ!あんなのは勇気なんて言わない……。蛮勇って言うんだよッ!!!」


さすがに見殺しには出来ないと思い(さっきまで囮にしようとしてたけど……)思わず声を張り上げてしまう。

しかし、そんな俺の姿を見て、ミノタウルスに怖じ気付いた腰抜けだと思ったカルテは、俺に辛辣な言葉を浴びせかける。

しかも、俺の言葉にルラキも少し軽蔑の視線を向けている。

……チッ!ここに来てバルディの風評被害による俺の株価大暴落が響いたかッ!

常識的に考えたら、逃げる一手だろうと思うものの、バルディのアホな先導によりこのパーティーは冷静を欠いてしまっている。

……そうだ!フィロがいたはず!

俺はそう思ってフィロの方を見るも、フィロもフィロで仲間(リーマとイエーリ)が前線に出てしまっているため、フォローせざるを得ない状況になってしまっている。

フィロに頼る手段は無し……となると、俺だけでも逃げ出すか……?

一応、湿地帯まではついて来たんだ。

本来この湿地帯にはミノタウルスなんて魔人は生息していないんだから、そのミノタウルスの生息が確認できただけでも、貴族様からすれば万々歳のはずだ。

依頼失敗なんてことには成らないだろうし、もしかしたらその功績を称えられてCランクにランクアップの報酬が出る可能性も……。

やっぱり、逃げ出すのが吉かな……?

俺がごちゃごちゃとそんな考え事をしているうちに、戦局はドンドン進んでいく。


「『閃風』!オラァああッ!!」

「グエッ!?」


バルディは上段から大きく剣を一閃。

風属性の魔技の攻撃に、ミノタウルスは怯んだような声をあげる。

その隙に、リーマがミノタウルスの懐に入り込み……。


「『紫電三連突き』!!!」

「ボェエエアアッ!!?」


雷属性による魔技で、麻痺を付与したレイピアの三連突きを放つ。

ミノタウルスの体は電気により痙攣し、レイピアで突かれた部分は電撃によって少し焦げてしまっている。

そして、ミノタウルスの動きが沈黙しているうちにイエーリが大槌をミノタウルスに叩き込む。


「ふんっ!!!」

「ギュオッ!?」


ミノタウルスは人体の急所である鳩尾にもろに大槌を喰らい、跪くように地面に倒れこむ。


「よぉーし!このまま、ミノタウルスをタコ殴りだ!!!」


形勢が有利になっているのを感じてか、少し高揚した感じでバルディはミノタウルスに剣撃を重ねる。

しかしながら、バルディの剣術や魔技が拙いこと、さらにはミノタウルスが魔人の中では耐久力が高いことなどの要因が重なり、中々有効打を与えることが出来ていない。

ミノタウルス一体に時間をかけ過ぎるのもマズイと思ったのか、ルラキが手をかざし魔術を行使しようとしてーーー


「……何か!来るッ!?」

「グルウォォォァアアアアアッッツ!!!」


フィロの言葉と共に木々が粉砕され、もう一匹のミノタウルスが現れる。


「「「「「ーーーッ!?」」」」」


突然の出来事に硬直する五人。(硬直していなかったのは、予め察知していたフィロと、離れて見ていた俺だけ)

それにしても……。

このミノタウルスは、何だか様子がおかしい気がする。

「フシュゥウウウッ!」と鼻息を荒くしているそいつは、通常のミノタウルスよりも体長が大きく、体毛もドス黒い……ような?


「な、ナンダアレ……?」

「うぉおおおぁあああッッツ!!!」


俺がそう呟くのと、バルディが雄叫びを上げながらミノタウルス(仮)に突っこんで行ったのは、ほぼ同時だった。

そしてーーー


「グルウォォォッッツ!!!」


ーーーグシャッ!


バルディの体は、ミノタウルス(仮)によって、スーパーボールの如き勢いで木に叩きつけられていた。


「うそ……」


そう呟いたのが誰の声なのか、俺には判別できなかった。







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