1.何をするにもお金は大事
新作、始めました。
できるだけ、長く連載する予定なので、読んでいただけると幸いです。
何をするにもお金は大事だと、俺は思う。
十五歳というまだまだ子供の年齢で、生活が困窮していた俺はお金を稼ぐために上京していた。
と言っても、ここ『コロル』という世界では、十五歳というのは立派な成人として扱われるらしいのだが、まだまだ日本人だった頃の感覚が抜けきっていない俺からすれば、十五歳なんてガキも良いとこだった。
俺の日本での名前は、山川一。
三十六歳独身のブラック色の企業勤めのサラリーマン。
トラックに轢かれたわけでも誰かに刺されたわけでもないが、多分過労死かなんかで死んだんだと思う。
俺からすると、ソファで寝てたら異世界という展開についていくので、混乱していたわけだが……。
閑話休題
まぁ、せっかく人生をやり直せるのだ、俺の頭脳の天才っぷりでも発揮して、人生イージーモードでクリアしてやろうと、思っていた矢先、どうも俺は孤児だったらしく……。
二度目の両親の顔は見ることもできずに、幼少期を過ごしましたとさ。
ただ、孤児院の生活はそこまで困窮していた訳ではないので、子供達と楽しく過ごさせて貰っていたのだが……十三歳になったある日のこと。
突然、孤児院の院長さんが俺に怒鳴り散らし、俺だけを孤児院から追い出してしまった。
十三歳なんて、ガキもガキ。
日本でいうところの中一でしかなかった俺は、当然暮らすこともままならず、そこらへんにある村の残飯を漁って耐え凌ぐ毎日だったのだが……。
そこで、とあるおっさんが俺に話しかけてきた。
『君には私の魔術を継ぐ才能がある。……どうだ?私のもとに来ないか?』
服装は黒ローブで全身を覆っていて、いかにも魔法使いですよ、と言わんばかりの格好であり、ちょっと、いやかなりの不審さが滲み出ていたのだが、当時の俺にはそんなことを指摘する余裕もなかったので、二つ返事でついて行った。
だが、まぁ……結果的に言うとそれが功を奏した。
そのおっさんは、結構優しい人で、俺がこの世界で生き抜くための力をすべて教えてくれた。
そして、十五歳……日本でいうところの中学三年生ぐらいに、最終試験的なものを受けさせられ、無事に合格した俺は、晴れて自由の身になった。
しばらくの間は、やっと手に入れた自由の身ということもあり、はしゃいでいた俺だったのだが、そこで不意に気付いた。
『金がねぇ……』
苦節十五歳。
日本も合わせれば五十一歳という大層なおっさんの年齢にはなったものの、相変わらず俺には危機管理というものがなってなかった。
俺は自分のあまりの不甲斐なさに落ち込むも、いやいやそんなことで落ち込んでいる場合ではないとすぐさま金稼ぎに動き始めた。
だが、まぁ俺の生まれ育った場所は相当の田舎らしく、当然することも少ない。
賃金も端た金だし、割に合わないことが多かった。
そんな感じで上京をすることにした俺だったが……。
ーーー二年後。
「はぁ〜〜……」
相変わらず俺の懐は寒いままだった。
当時、上京すれば何とかなるかなぐらいにしか考えていなかった俺だが、その考えは浅はかだったと言わざるを得ない。
確かに、田舎に比べれば給料は高いし、俺も田舎よりは金を持っているが……。
それと同じくらい都会では出費が激しい。
ここ、王都『リノン』では市民税というのを導入している。
これは、この王都に居たいならばそれ相応の税を納めやがれ、と言った感じの税だ。
この結果、俺のお金は毎月で一万アルム吹っ飛んでしまうのだ。
……痛いなんてもんじゃねぇぞ、この野郎!
その分、国の中心地ということもあり、物流も盛んではあるが、物価だって高い。
ホテルというかこの世界では宿屋と言うが、その宿だって一泊の素泊まりで五千アルム程度いくことが多い。
どんなに安くても千アルムを切ることはない……。
それに対して、俺の給料は日給で六千とちょっと、と言ったところ。
生活するだけでもかつかつである。
ただ、運の良いことに今は宿屋の主人のご厚意で店の手伝いを多少する代わりに、宿泊代をタダにしてもらっているので、ギルドの酒屋スペースでこうして安酒を煽る程度の余裕はできた。
「何だい、兄チャン?景気の悪そうな顔してヨォ。そんなだともっと景気悪くなるぞ?」
「おぉ、マスターですか……。いやぁもう景気が悪いとか言ってる場合じゃないですよ。俺の財布の底も尽きかけでさぁ……」
「そうかいそうかい、苦労してんのね兄チャンも……。ほれ、もう一杯どうだい?まけとくよ?」
「サンキュー、マスター!」
こんな感じで酒場のマスターにお恵みを戴く有様だ……。
俺、この職業向いてないんかな……?
俺は、そう言って安酒のグラスの横に置いてある鉄製のカードを小指で叩く。
キン、と鉄特性の耳触りのいい音と共に、カードはひっくり返る。
『冒険者』
いつの時代にか、そう言った職業がこの世界にはできた。
この世界、『コロル』では日本では見たこともないような危険生物が多量に生息している。
一応、人類が大半の大陸を支配しているものの、まだまだ開拓されていない土地は山ほどあるし、危険生物、この世界で言う所の『魔物』と呼ばれる存在も其処彼処にうようよしており、安全に暮らすにはまだはやい世界である。
そこで、一般人が魔物に襲われないようにするために、立ち上げられた所謂傭兵的なものが、冒険者というものだった。
冒険者は体を鍛え、魔物と戦うことで市民の平和を守る代わりに、お金を得るわけだ。
まぁ、当然魔物退治以外にも仕事はたくさんあるわけだが……。
命をかけて魔物を退治するということもあり、当然給料はそこらへんのお仕事とは比べものにならないくらい高い。
だが、それと同じくらい出費もかさむ。
まず、魔物という強力な生物と戦うため、武器や防具を買わなければならない。
他にも、討伐する生物の弱点に合わせて色々な小道具も揃えておかないといけないし、二日以上かかる大掛かりな依頼の場合は、テントや食べ物の準備もしないといけないから更にお金がかかる。
もちろん、そんなことは気にせずガンガン行こうぜ、の姿勢で何も揃えずほぼ素手で戦う方も若干いなくもないが……。
少なくとも、俺はそんな狂人でも強靭でも戦闘狂でもないので、大抵は装備に多量のお金を費やしてしまう。
その結果、残るのはこの六千アルムというちっぽけなお金だけ。
正直に言うと、全然割に合わない。
他の冒険者たちはどうやって利益を上げているのだろうか?
依頼を受ける度に、俺はそのことが疑問に思う。
ちなみに、冒険者の依頼はギルドと呼ばれる、日本でいうところのハローワーク的なところにある。
ギルドという存在は冒険者だけでなく、商人や料理人、運送屋などでも存在しているので、冒険者のギルドは冒険者ギルドと呼ぶようにして、区別されている。
冒険者ギルドは階級制で、冒険者を優秀な人材とそうではない人材に分けている。
……正確に言うと、ランク付け、か。
ランクはA〜Eのアルファベット順になっており、Aが高くて、Eが最低。
Aの上にSという階級も存在しているが、俺からするとそんな天上人はどうでもいい。
ちなみに、ザッパリとしたランクの基準としては、
E:駆け出し
D:素人
C:玄人
B:達人
A:超人
S:人外
といった感じだ。
依頼も階級制で、例えばCランクの依頼があったとして、Aランクの人はその依頼を受注することができるけど、Dランクの人は受けられない……と。
こんな感じで、冒険者の中にはしっかりとした階級がある。
当然、上のランクに行けば行くほど給料は高くなるわけで……。
そして、ほぼ底辺に近いDランク冒険者の俺は、当然ながら給料もみみっちいもんですよ。
というか、ほとんどの冒険者は俺のようなその日暮らしのものが多いんだけどな……。
「っーか、俺にも指名依頼が来れば、こんなとこ……」
マスターから戴いた安酒をちびちび飲みながら静かに呟く。
冒険者の階級は、ある一定の場所に大きな線引きがしてある。
線引きは主に三つ。
DとCの間とBとAの間、そしてAとSの間だ。
この中でも特に、DランクとCランクでは、大分扱いが変わってくる。
そのうちの一つが、先ほど呟いた指名依頼というやつだ。
冒険者ギルドが張り出している依頼は三種類ある。
常駐依頼、緊急依頼、そして指名依頼だ。
常駐依頼と緊急依頼は読んで字の如くとしか言いようのないものだが、指名依頼は少し毛色が違う。
それは、指名依頼とは主に冒険者ギルドが発注するものではなく、個人が発注するものだからだ。
当然、ランクの指定は依頼主がすることが多いが、最低でCランクから受けられるようになっている。
そして、なんといっても違うところと言えば、指名依頼は大抵常駐依頼よりも値段が高い。
一つ一つの依頼の値段が高くなるとなれば、当然生活にも余裕ができる。
なので、Dでくすぶっている冒険者と、そうでないものでは財力に大きな差が出来てしまうのだ。
その証拠に、冒険者ギルドでも金庫の貸し出しがCランクからとなっているのだ。
だが、俺がイライラしている理由はそこではない。
その理由とは、俺のランクがDから上がらないことにある。
通常、冒険者ギルドでは冒険者の階級を決めるため、その冒険者のギルドへの貢献度……より詳しくいうなら、依頼の達成度から判断している。
そして、ギルドへの貢献度がある一定のところまで達したとギルドが判断したら、今度はギルド側がランクアップ試験として、一つの課題を出してくる。
それをクリアすることで、ランクアップすることができるというわけだ。
EからDに上がるのは割と簡単。
ギルドが出してきたちょっとマイナーな薬草を採取するだけ。
だから、俺は特に何の障害もなくクリアしたが、DからCに上がるのが中々に曲者だった。
それが、『自分で指名依頼を一つとってきて、その依頼をクリアする』というものだ。
当初は、依頼主がギルドから個人へと変更しただけだ、と思っていた俺だったが、そんな簡単には事が進まなかった。
指名依頼は、基本的に依頼を発注するとなると、ギルドに手数料を払わなければならない。
そのため、依頼主側も相手の冒険者が失敗しないかどうかを見極めなければならず、そう易々と発注するわけにはいかなかった。
そして、依頼主側が見極めをするときは、大抵相手のギルドカード(俺が持っている鉄製のカードのこと)を見て、判断することになるのだが……。
それがいけなかった。
何せ俺のギルドカードにはーーー
「ーーーちょっといいか?」
俺が憎々しげに鉄製のカードを見つめていると、不意に俺に話しかける若い男性の声が聞こえた。
「……ん?俺、か?」
「ああ、ちょっと頼みがあってさ」
「……」
「お前、俺と同じDランク冒険者だろう?」
「そうだけど?」
「ならよ、ちょっと俺たちと一緒に依頼を受けて欲しいんだがな?」
「依頼は……?」
「貴族様からの指名依頼だぜ?」
「のった!!!」
……もしかしたら、俺のDランク冒険者生活も今日で終わりかもしれない。
古びた皮の鎧を着た剣士風の男を見ながら、俺はそう思った。
1アルム=10円ぐらい