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手紙シリーズ(仮)

辺境の森の住人は言いたい。おまえら不法投棄するんじゃねぇ。

作者: あかね


「あー、生きてる?」


 残念ながらじたばたしているイキモノ。

 彼はため息をついた。

 何だって、おまえら、後始末していかない。

 放置とかなんだ。放置。


 勝手に、魔の森なんて言って、捨ててかないで。


「滅ぼしたら、静かになるかね」


 神域だってのに。



□ ■ □ ■


「ねぇ、コレはどういう神様なの?」


 神像を指して、少女は首をかしげた。金髪碧眼の美少女。良いスタイルを修道女の服に押し込んでいるせいか背徳感が半端ない。

 単純に言えば清楚なくせにエロい。無意識の色気がだだ漏れ。


「対外的に見せるもので、誰にも似ていないようにつくってあります」


「平たい顔族って感じ」


 なんだその感想は。確かにのっぺりとした顔にはしてある。特徴がないのが特徴のような神像。

 妙に愛嬌があるのか季節ごとに着せ替えされている。人形ではないのだが、誰よりも衣装持ちになっていた。

 さすがに来客があるときは脱がされるが、妙な気持ちにもなる。


 それは聖堂としている建物の中央に設置されている。

 女装も男装も何でもござれではあるが、基本的に女装が多い。足にぴったりとした服は難しいそうだ。

 別に神でもないので性別もないのでどっちでも良いが。

 仮称マルゲリーテちゃん。

 ななし、よりはマシだと思いたい。


「そうそう、清掃は終わりました」


「はい。ありがとうございます」


 そうは言っても点検は必要で彼女を追い出したあとに行う。目の前で掃除がちゃんと出来たのか確認するのは少々気が引ける。


 慣例的に聖堂の掃除は新入りの仕事になっている。あまり大きくなく、壊れるものも少なく、さすがに乱暴に掃除してはいけないとは思える場所として選ばれる。

 ここに来るのは訳ありの高貴な身分の人が多い。

 当たり前だが、掃除などしたことはない。

 面倒ではあるが教えることになっているのだから。かつての自分に教えてあげたい。全く、楽にならないどころか人を雇えない状況に陥って困ってるからと。


 ここはざ・辺境、ざ・修道院だ。

 意味がわからない?

 俺もわからん。

 色々あって結果、コレに至っただけだ。


 簡単に言えば、俺が生息している森に不法投棄よろしく人を捨てていかれたからだ。

 善良な、というわけではなく穢れが残ると困ると言う理由で甲斐甲斐しくも世話をし、外に叩きだしては別の人間が来るという悪循環にぶち切れそうになったとき、人間が良い提案をしてくれたのだ。


 ……と、そのときは思った。

 後々思ったね。

 箱があったほうが捨てやすい。まとめて捨てるのも楽。辺境の修道院というのは大変便利だった。


 利用されただけだったんだろう。どうせすぐ代替わりすると。

 大層残念なことに人間ではないので、人間より長く居座ることになった。まあ、暇つぶしにはなる。

 遠距離で戦略ゲームをしているようなものだ。チェスよりは楽しい。あれはいつまでたっても上達しなかった。

 しかし、このゲームはそれなりに上達した気がする。

 金を巻き上げるのは上手くなった。その結果、居心地の良い巣は作れるし、どきどきするキラキラは集められる。


 我ながら俗っぽくなったものだと感心する。

 仲間からは白い目と羨望の目で見られるようにもなった。キラキラは良い。すごく良い。


 この娘も大層金を積まれ二度と出すなと言われた。

 その裏で毒殺せよときたものだ。


 かわいそうに。


 死ぬまで幽閉せよ、の方が実は良い。

 死んだら、死んだことにして別人として蘇る。

 そういうシステムだ。

 そうでなければ穢れが生まれる。殺すのは大変問題があるのだ。老衰や病死は仕方がないが、無益な殺生は避けたい。

 動物の死よりも人間のほうが穢れの度合いが強いのは神に近いとされるから、らしいが。


 だから、殺せと言われたといっても殺すわけにも行かない。

 ただ、悪夢が帰ってくる。

 今度はそう簡単にはやられないようになって。


「ヒトは愚かしい」


 それがすごく、楽しい。

 弱いものは弱いもののままではいない。

 強いものがそのままではいないように。


 悪趣味と言われても俺にとってはヒトの国は遠過ぎる出来事だ。

 同じイキモノであれば違うのかも知れないが、残念ながらヒトではない。

 何かと言われれば神にもなれはしないが、その狭間で生きているもの。


 それ故の試金石。

 いつか、神に至るための踏み台。


 ……のはずが、一体いつになったら俺に挑戦しに来るのだと呆れるほどの年月が過ぎ、すろーらいふな生活になった。

 他の仲間はそれなりに挑戦される生活を謳歌しているのに、ゼロ記録を更新したくないのにしている。


 他の仲間も基本的には領地から出れない設定なのはわかる。だが、俺のいるこんな人も寄りつかない辺境の山奥に一体誰が来るのだと言いたい。

 たとえそこに希少生物がいたとしても誰が見つけてくれるのだ。

 こんな場所に来るのは自殺志願者かいらない人を捨てるか、後ろ暗い犯罪者くらいだ。


 そいつらが挑戦? その前に獣に喰われるわ。

 人の気配に喜んで行ったらグロテスクな挽肉だった絶望感。

 そうなる前に捕獲しても脆弱すぎるという。

 聖域のため穢れとなりそうな事は避けるに越したことはなく、見つけ次第捕獲する以外にどうしろと言うのだ。


 という経緯を辿り、今に至る。

 一つ一つは理由があるけれど、まとめると意味がわからなくなる不思議。

 どうしてこうなった。


 それでもこの修道院から見る世界は意味があるのか無いのかわからない暇つぶしにはなる。

 それが楽しくなってきているのだから問題だ。

 腹黒。

 真っ黒でやーねーと仲間に呆れられたのも記憶に新しい。

 その仲間は最近も挑戦されたのよと自慢しに映像を送ってきたのだが。代わりに最近の楽しかった映像を送ってやった。

 なにそれおもしろいと返信が来たので染まる日も近いかもしれない。


 まあ、それはさておき。

 今の目の前の娯楽だ。


 ここ3代くらいだろうか徐々に王権が強くなってきている。その前の腐敗の気配を殺すように。今はかつて無いほどに強固な権力をもっているだろう。

 結果、その思想に添わないものはここに送り込まれている。しかも、さっさと殺せというオーダーが多すぎた。


 中々に国内は荒れているようだ。

 とても楽しい。


「あとは誰を送り返そうかな」


 先ほどの少女は送り込み先が決まっている。

 その存在に気がついても、気がつかなくても良い。少しずつ変容していくほうが望ましかった。

 大きな変化は反動が強すぎる。過去の干渉の経過を思い出せばためらう。

 別にクーデターを起こして欲しいわけではない。

 長く楽しみたいだけだ。


 いつか。

 挑戦してくる。

 強者を待つまでの暇つぶし。


 今度はどんな形で、きらきらが手に入るだろう。

 機嫌良く至らなかった掃除をはじめるところを見られていたことに気がつかなかった。ちょこっと本性が出ていたソレに気がついたのはずいぶん後になってのことだった。


 それは、また、遠い別の話。

【俺】

辺境の修道院長をしている人外。

本性は秘密。

腹黒でやだーと仲間内では言われている。しかし、キラキラとお金を巻き上げる手腕は評価されている。

なんだかんだで世話好きで甲斐甲斐しかったりする。

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