2.高咲 守の日常①
俺の名前は高咲 守。
俺には小学五年生の妹がいる。
名前は吉乃という。
長い黒髪が綺麗で顔も整っている。おまけに成績優秀、言うなれば完璧美少女だ。
年も離れてるせいかそんな妹が可愛くて可愛くて仕方がない。
吉乃はまだ小学生で世の中には疎いみたいだが、世の中には危険なことが沢山ある。可愛いさゆえに悪い虫共に狙われる確率もかなり高いことだろう。
だから悪い虫が付かないように俺が守らなくてはいけない。
危ないことがあったらそれとなく守ってあげて、困ってたらそれとなく助けてあげる。
これが俺の生きがいだ。
さて、それでは今回の本題に入ろう。
どうやら最近、外を出歩く度にあちこちで耳にするのだが、何でも小さい子をを狙ってストーカーや痴漢行為を行っている輩がいるらしい。
これは酷い、酷すぎる。
そんなことをされたら女の子だってさぞ怖いだろうに。ましてや妹がそんなことをされると思うと気が気でなくなる。
そこでそんなことが起きないように俺が妹の登下校を見送ってあげることにした。
というか今まで陰ながら見送り自体はしていたからあまり変わらないのだが、今回は犯人に気をつけつつ、隠れながら登下校を見届けなければいけないのだ。
もし吉乃を襲おうものならお縄も辞さない覚悟で犯人をボコボコにするだろう。
──翌日、午前六時半。
「ジリリリリリリ」
「ガチッ」
寝惚け眼で目覚まし時計を止めベッドから立ち上がる。
カーテンを開けるとジリジリと焦がすような陽射しが差し込み、子鳥のさえずりが朝だ朝だと告げてくる。
「快晴! いい朝だ!」
階段を降り、洗面台で顔を洗らうと朝食の準備を始める。
普段から家でネット関連の仕事をする俺が一番暇なのと両親が仕事で普段から家を空けているため、基本的に俺が家の事を中心に回している。
朝食の準備を終え、エプロンを外すと吉乃を呼びに部屋までいく。
「起きろー」
「・・・・・・」
ドア越しに声をかけても反応はない。
いつもの事だ。
吉乃は朝が苦手でこれぐらいじゃ全く起きない。
「全く、しょうがねぇな」
そう言ってドアノブに手をかけ、部屋の中へと入る。
中では毛布を蹴飛ばしたのか床へと落ち、吉乃の白く柔らかそうな肌やおへそが顕になっている。
その艶かしい姿に思わずドキッとしてしまう。
「吉乃、吉乃」
「んぅぅぅ」
「朝だぞ! 起きろー!」
「うーん、ねむいぃ」
ぷいっと背中を向けるように寝返りを打つ。
朝に弱いせいか、いつも起きるのをぐずる。
でもこれはこれで可愛い。
「学校に遅刻するぞ! いいのか〜?」
「おにぃおんぶ」
(キターーーーー)
「しょおがないなぁ」
鼻の下を伸ばしながらルンルン気分で吉乃を二階から一階へと連れていく。
(朝は素直で可愛いのぉ、ずっとこのままでいいのに)
「吉乃、下についたぞ」
「ん・・・」
「とりあえず顔洗ってこい」
「ん・・・」
顔を洗い終わると椅子に座り、朝食を食べ始める。食べる姿も愛らしく、小さなハムスターのようにもぐもぐと小さな口を一生懸命に動かし、具材を平らげていく。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさま」
朝食を食べ終わると学校へ行く支度をして、玄関へと向かう。
「じゃ、いってくる」
「行ってらっしゃい」
手を振りながら吉乃を見送る。
(さて、吉乃が家を出たわけだが俺もあと五分で家を出無ければならない。さっさと支度をせねば)
支度を終え、吉乃の登校ルートをそのまま辿っていく。
吉乃の後ろ姿が目に入る。
どうやら追いつくことが出来たらしい。
(それにしても友達と歩いているようだが? な、なにぃぃぃぃぃ!?)
今日の吉乃は友達と登校している。
それはいい。
だがお前はだめだ、クソガキィ。
なんで吉乃の隣を男が歩いてんだァ!?
しかも「今日もその長い黒髪綺麗だね」とか抜かしやがる。
ちょっとイケメンだからって調子乗ってんじゃねぇよ?
あいつ今から出ていってタコ殴りにしてやろうか。
落ち着け理性。
たかが小学生ではないか、大の大人がムキになってはいけない。
ここはしばらく様子を伺ってあいつとの関係性を探るとしよう。
遠くからではよく聞こえないが見たところ二人は楽しそうに話している。
「ねぇねぇ高咲さんは──がすき?」
ここからじゃ遠すぎてうまく聞き取れないな。
すき?は聞こえたんだが
「君かな」
「ほんとに!?」
「じゃあ楢崎くんは?」
「僕も君かな」
俺「・・・・・・」
(何いってんのぉぉぉ!! 吉乃はそいつのことが好きなの? てか両思いなの!?)
なんだか視界がぼやけてきたよ。
おかしいな、目から汗なんて出るわけないのに・・・・・・
許すまじ、楢崎許すまじ。
今度あったらしばいてやろう。
そう心に誓ったのであった。
その日の朝の見送りは徒労と心労だけを持ち帰る結果に終わった。