1. 兄と妹
あの事件のあと目が覚めると交番にある休憩室のベッドの上に俺はいた。
妹がある程度は事情を話してくれたおかげか俺からの話もスムーズに通り、自身の身の潔白も証明出来た。
そして無事釈放されたわけだが、目の前にいるお姫様はなんだか機嫌が悪いみたいだ。
頬をプクッと膨らませ、眉を吊り上げながらキッと睨んでくる。
慣れてないせいか表情が少しぎこちない。
しかしこの場合兄としてとりあえず謝っておけばいいのだろうか。それとも知らぬ存ぜぬで通すべきか。
それにしても可愛いな。
おっといけない。
俺としたことが、ついつい妹の怒ってる表情が可愛くて少し頬が緩んでしまった。やはりここは下手に出るのではなく兄としての威厳をしっかりと見せつけねば。
「吉乃、何をしてるんだ? さっさと帰るぞ」
そう言ってさりげなく手を差し出し一緒に帰ろうとする。
しかし俯いたまま言う事を聞こうとしない。
「なにしてるんだ?ほらさっさとかーえるぞー」
「謝ることは?」
「謝ること??」
「謝ることは!?」
あれれ?これはいわゆるマジ切れというやつだろうか。
そろそろ素直に謝った方がいいだろうか。おそらく交番まで連れたこられて無駄に時間を過ごしたことで怒っているのだろう。
しかし俺に怒るのはお門違いだ。
あくまで俺は吉乃の為を思って公園まで迎えに来ただけなんだ。それをおまわりさんが間違えただけだろう?
ならそれは俺のせいではない。
うむ、俺のせいではないはずだ。
それなら答えは決まっている。
知らぬ存ぜぬを通しましょう。
「何がだい?」
冷や汗を垂らしながら俺は問い返す。
「おにいのせいでここまで連れてこられて、時間を無駄にしたことだよー!」
「ごべんなざぁぁぁぁい、ブホッ」
そう言いながら吉乃は俺のみぞおちを的確に右拳で撃ち抜いていた。
妹は容姿端麗、頭脳明晰と完璧で可愛らしいのだがすぐに手が出るのが玉に瑕。それとちょっと俺に対して厳しい態度をとる時があるようなないような。
でもそんな所もグッジョブなのさ!
そんなことを思いながらしばらくの間、冷たいアスファルトと戯れていた。
──後日談
あの後、なんとか土下座をして、アイスを買ってあげたら手を繋いで一緒に帰ってくれました。
(全くツンデレ屋さんなんだからぁ)