雪に笑えば
冬を題材にしたとても短い短編です。私の妄想が多分に含まれていますので、甘すぎご都合主義かもしれませんのでご注意を。
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空から零れる雪に、曇る窓ガラスをじっと見る。
暖かな部屋との気温差、張り付いた淡い氷の粒たちが瞬く間に溶け落ちて、ただの水へと成り下がる。
雪として生まれ、雪として消えることのなかったことへの悲しみか。
泣いているように、涙を零すみたいにみたいにして。
いくつも、いくつも。
消えては流れ、また凍る。窓の淵、見えない場所で凍りゆく。
それは泣くほどに冷たく、誰かさんの頬と同じように。
ただ、濡れては消えて。
「……馬鹿」
そんな呟きもまた、雪の夜の静寂に掻き消えてゆき。
「帰ってこれないなら、最初から約束なんかするなし……」
――いまはただ遠く離れた君、想う。
破れた約束、消えた逢瀬をただ想う。
世界は輝く、クリスマス。踊るように誰もが浮かれるそんな夜に。
カタカナ五文字の、特別な日に。
「……寂しくなった、だけじゃんか」
たった独り、孤独を味わう。
凍えるように、凍えたままで。
私は独り、夜を過ごす。
――せめて今日は一緒にいると、約束した。
普段が遠く、当たり前になりつつあるから。
手を伸ばしても届くこともなく、喉が裂けるほど叫ぼうが聞こえない場所の君だから。
せめて、と君が言ったから。
せめてを君に、期待したから。
二十四時間の長くも短い、たった一日を。
世界のどんな記念日よりも期待した。
けれど。
「……あと、五分」
残り時間は、あとわずか。
雪が染めたこの日が終わる、五分前。
儚く終わる、五分前。
どんな記念日だって、『仕事』と言われて過ぎて終わればただの日常でしかなく――間に合うわけも、あるはずもなく。
「あと、四分」
カウントダウンは、誰にでもなく。
「あと、三分だよ」
過ぎる時の無情さは、容赦もなく。
「……二分」
早鐘のように迫る鼓動は、知られるはずもなく。
「……」
そして、口にすることもできなくなった言葉も。止まることのない針の歩みも。
なにもかも、すべてが。
「――もしかして、泣いてるのかい」
「っ!?」
窓に現れた、手のひらサイズの小さな君が。
まん丸な頭と体に拾った小石と枯れ木で作られた、崩れたような顔をした不出来な君が。
「……寂しかった?」
「……誰のせいよ」
君の声が。
なにもかも、悲しさも孤独も冷たさも、積もる寂しさすらもあっけなく吹き飛ばしてしまって。
「……でもギリギリ、間に合った?」
「ギリギリ、すぎ」
「うん、ほんと、」
ごめんな、なんて言うから。
弾んだ息で、肩を揺らして。
頭にいっぱいの雪を乗せて。
小さな君に隠れるみたいに、ひょっこり顔を覗かせて。
「でも、間に合った」
安心したみたいに笑って、釣られて私も笑って。そして。
「メリークリスマス、プレゼントはいかがかな?」
「……なに、くれるの?」
問いかけた私に、君はもっと、もっと笑いかけて。
窓から身を乗り出した、吐いた息の白さも、凍えた体の冷たさも。
すべて忘れる、暖かさで。抱きしめて。
「俺の一生を、君にプレゼントしにきたんだ」
愛してる。
たったそれだけで、残り五秒も笑顔で埋まる――そんなクリスマス。