エルフの買うなら銅貨十五枚~重てぇよ。笑えない冗談だ~
ある冒険者一行がいた。
戦士、騎士、僧侶、魔法使い、支援使い。
五人は幼なじみで、仲良しパーティーであった。
彼らは地道に戦績を地元から、地域へ。そして王国へ有名を轟かしていた。
王国は冒険者一行に目をつけ、お抱えの騎士にと王宮に仕官させる。
一行は名誉なことだと大層喜んだ。
これ世に名を残せる、大金が手にはいると。
冒険者一行は仕官したあと、王国に尽くさんと身を粉にして働いた。
市民からは名誉を褒められ、貴族からはお金を寄与された。
冒険者一行は有頂天だ。一人一人の接点が薄れていくのを知らずに。
数年後、事件が起こった。王国の存亡の危機である。
王国南西の森にドラゴンが現れたのだ。
王国は対処に、冒険者一行を中心とした師団をまとめ、ドラゴンを討伐する勅命をだす。
結局、ドラゴンは冒険者一行の活躍で撃退できた。
仕留め損ねた。師団は壊滅。
冒険者一行は、うつむきながら王国へ帰り、国民から歓待を受ける。
英雄だ、我らが英雄だと。
冒険者は帰ってきた日に、王と共に会食した。宴である。
和やかな食事であったという。
一人ずつ武功を自慢するのだ。
ドラゴンの目を斬った。ドラゴンの爪を受け止めた。ドラゴンの翼を爆裂魔法で吹き飛ばした。ドラゴンを回復した。
冗談と誇張を、余興とみな楽しんだ。
しかし、一人。最後の支援使いが言う。わたしはみんなを支援した、と。
王はうなずく。が、他は眉をつり上げた。
おまえは、なにもしていない。
他の冒険者が支援使いをなじりはじめたのだ。
自分の力だ、おまえの力を借りていない。
王は支援使いが役に立たないと理解した。
そう、いままで冒険者一行に費やした大金は、国民を養う金である。
王は支援使いを放逐し、お触れをだす。
支援使いは、我らの金を騙し受けとっていたのだと。
国民は支援使いの武勇伝が、みんなを支援した、ぐらいしか知らないので真に受けた。
支援使いが泣きはらしながら去るのを、国民は見ているだけだった。
☆
「その王国は滅んだ?」
「知らないわよ」
「おとぎ話を聞いて第一声が過激すぎる」
泣いてしまう。
目立たないながらに、パーティーを支える支援使いが評価されない。
他の冒険者一行が、支援のありがたさを忘れやがって。
やるせねぇよ、この物語。とくに最後の支援使いは悪口をいうのでもなく、泣きはらしていたとか。
皿に残っていた最後の菓子を食べる。せんべいみたいな食感だが、味気ない。
斜めに座っているアルティナが手を伸ばしていたが、最後の残りはオレが食べてしまった。
たくさん食べていただろう、おまえ。
「うがぁぁぁぁああ!」
頭をかかえ、身もだえる。
悲しいよな、支援使い。裏方で支え続けてたのにな。
「感情移入してるわね。うふふ、語り手としてうれしい限りよ」
「支援使いの境遇がオレの心をうった」
「どこが?」
邪気のない顔でアルティナは首をかしげる。
「最初からずっお最後まで、支援使いはなにをしていたの? わたし、そこが疑問」
「冒険者一行の英雄譜を称える話なのだけど、確かに支援使いはなにをしてるのかしらね」
「ステータスを強化していたんだろ」
「なにを、どうしたか、明記してないよ?」
アルティナは指で口をなぞり、左上を眺める。
支援使いは物語の踏み台か。
オレの感動の興奮が冷めてしまった。
「ふぁ……眠いわ。今は何時だろう」
ダリオは目をこすり、前をむく。
とたんに目開く。
「なにかあった? 変人なら前にいるよ?」
「オレを見るな」
「最後のマロットを食べた恨みは大きい」
「根に持っていたのかよっ!」
アルティナはオレを見上げ、にらむ。
若干、涙目である。
「夜が明けてしまったわ……」
「本当だな。日が差してきているぞ。結構話が熱中していたからな」
五枚ある片方の窓から太陽光が差している。
ギルド内は、かがり火が照らしていたので、時間の経過があいまいだった。
「朝ごはん、食べよ」
「アルティナって大食いなのな」
「毎日、黒パンと夜のまかないだけが、わたしの人生」
「ノーコメントで」
「なら詳しく教えてあげる」
貧しい展開しか頭に浮かばねぇ。
「アルティナさん、そこまでにしてあげなよ。見ていてむなしいわ」
「どきついコメントだな、おい!」
「わたしの食費、一日銅貨五枚。そして朝ごはんは昨日の黒パンの残り」
「……オレもそうなるよな」
「ちなみにわたしは銅貨十枚以上ね」
「……ユウ、わたしの支援魔法を価値を高くして……っ」
「おう、任せろ」
アルティナをパーティーに誘うとき、食べ物で釣ったらよかったかもな。
悔しそうに手を握りしめている。まじか、血が出てるぞ。
「支援使いなのよ? 無理があるわ」
「もうやめろよ……っ! 悪気がないって罪だっ!」
「実は前から一日、朝の稼ぎが銅貨五枚から六枚になるのが目標なの」
いきなり話題が飛んだな。
「え? いつからだ」
「冒険者登録してから五十年ぐらい」
「パーティー組んだら、報酬が山分けなのがつらいわ」
オレはしゃべりたくない。
だから二人とも、オレの目を見てくるな。
「六枚になるよう、誠心誠意、励みたい」
「ユウさん……」
なんでダリオが困った顔をしている。
そもそもの原因はお前だろ。
ていうか、なにこの空気、誰も口をあけなくなった。
「そろそろわたし、おいとまするわ。あとで出勤だから、寝たいし」
去ろうとする肩をつかむ。
おいおい待てよ。
「大丈夫かよ。徹夜だろ? 無理せずに、ここで寝たら?」
「あらあら、ユウさん。寝顔をここでさらせってことかしら」
「違う。逃げるなコノヤロー、ずるいぞ」
「態度がだんだん遠慮がなくなってきたわね」
「昨日、モルモットにこきつかわせたこと、オレは忘れてないからな」
「でもユウのおかげで夜は五枚から七枚になってわたし、うれしい」
「ダリオ、行け。もう、解散しよう」
「ええ。おやすみ」
すぐにいなくなるダリオ。どんだけ空気に重みを感じていたのやら。
アルティナの発言がさっきから悲痛だったからか。
五枚から七枚になったよって、
ていうか、アルティナ、一日の銅貨の稼ぎはいくらだよ。
朝と夜っていいわけている。聞くのは地雷かも。だが、気になる。
「一日いくら?」
「わたしは安くないの」
「ごめん。言葉が足らなかった」
「買うなら銅貨十五枚、それがわたしの一日の収入」
「オレもその収入になるから、アルティナを買えないよ」
毎日の十枚の貯蓄、いつか大きなことに使うのだ、だろうな。
「ま、五枚しか使わないから、二日で二十枚は貯まる。アルティナを買えるぞ?」
「十枚は宿代、だから残らないよ?」
「今日からオレたち二人だし、少し無理できる程度で、銅貨七枚の任務に行こうぜ」
「わたしを買うためにだなんて、いやらしい……」
体を抱き締め、アルティナは後ずさる。
今までの話の流れで、買収の意味で受けとめたか。
「いやらしいのはアルティナの格好だろう」
露出しまくってるのだものな。男を誘ってるだろ、特にお腹をさらしてるのな。
「薬草の森に行こう。そろそろ、いつもの時間だし」
「自覚してたのか」
「ユウの視線がね、ねちっこいから」
バレてたのか。次からはこっそり見よう。
受け付けに向かうアルティナを、オレは追いかける。
支援使い、アルティナ。絶対とパーティーを組もう。
七日間以内に支援魔法の認識を、良い方向に変えよう。
気にくわない支援使いの歴史、逆転させてやる。
読了ありがとうございます!