食後のひととき~オレのスキルは秘密な
食事時間のピークが過ぎたぐらいに、モルモットから任務達成をオレは告げられた。
野菜を切る量や食べ物を皿に盛り付ける回数が、落ち着いてきたなと思ったところだ。
肩が重たい。腕が、重労働によって疲れたぞ。
普通に任される量の二人ぶんを、何回かミスをしたけどもオレはこなした。
モルモットのやろう、オレをこきつかいやがったぞ。
「裏からさっさと出ていけ」
モルモットは料理の作業をしているので、オレを見ていない。
依頼が終わったら用済みだと言わんばかりだな。
どこから出ていけばいいんだよと思っていたら、隣にいるアルティナが前へ進む。
オレたちがいるのは調理場の奥、赤い布で仕切った場所をアルティナは通る。
ついていって、仕切りを越えた先はギルドの受け付けの内側であった。受け付けをしている人たちの横に、オレたちは来てしまった。
オレよりも調理場に早く着いたダリオは、モルモットにオレをいじめるように話をつけたわけだ。
なるほどな。
「オレをさっさとここに通せよ、このやろう……」
愚痴ってしまうのも仕方ない。
それぐらいに依頼はつらかったのだ。
「あら、アルティナさんにユウさんじゃない?二人とも、もう上がったの」
「他の人はまだ仕事中」
「ユウさんの見るにたえない姿に、おそらくは追い出したかった。アルティナさんは知り合いみたいだからついでね」
「あのなぁ、モルモットの顎に容赦なく使われたんだぞ……」
「はいはい。ざまぁないわね、これ報酬よ」
微笑しながらダリオは、手を差しだしてきた。
オレの疲れ具合に優越感に浸っているのかよ。
オレは手を開いて、ものを受けとる。
お金かも。固い円形で茶色のもの。これが銅貨か。
「お詫びに銅貨二枚を増やしておいたわ。それで、食べるところを教えてね」
「食堂の右端辺りにいる」
「わかったわ。わたしが持っていくから待っていてよ」
「よろしく」
アルティナとダリオは行動しだす。アルティナは木の仕切りを越えて、食堂の方向へ。ダリオはオレたちがやってきた布を通っていった。オレはひとまずアルティナに追う。
ダリオに、仕返ししてやると息巻いた依頼前は思っていた。が、あまりの忙しさで意気消沈、お腹がへってなにも考えが浮かばない。
まばらな人混みを通ってようやく机について、椅子に座る。オレは机にすぐに突っ伏す。
「顔が悪い」
「オレの顔つきが醜いみたいだな……」
「実際にかんばしくない」
「そうかよ」
顔色がよくないだけだ。
オレの顔つきは、けして不細工じゃない。
天下の美貌をもつエルフの種族にとっては、他の種族の美貌は劣るだろうな。
「飢えたゴブリンみたい」
「その例えはやめろ。いまオレはまさしく飢えてるの」
「まかないがくるの、時間がかかる。もつの? 大丈夫?」
「食べれるって確証があるから、耐えれる」
「そう。わかった」
オレは横を向く。
うまそうに食事をとる冒険者たち。
食べ物が輝いて見えてしまう。
突撃しそうになる衝動を我慢し、前を見る。
口をモグモグと動かす裕福者が、オレの近くにいたとはな。
「食べ物を寄越せ」
「わたしの唾液付きでよければ」
「かまわん」
「ダメに決まってんでしょうが!ほら、ユウさん!」
横から皿をドンと置いた。
肉が皿に乗っている。荒々しく炙っただけのお肉である。
受け付けの悪魔、ダリオがご飯を持ってきてくれた。
目を細め、見下してきた。
「あまりにも見てらんないから、食べれるやつをすぐに持ってきてあげたわ」
「ありがとう」
「アルティナが真っ先に手を伸ばすのな」
「わたしもお腹が空いているの。ついでに、お肉を千切るから許して」
細かく千切って、皿の端に置いていく。
アルティナはオレが弱っていることを思ってくれたのか。ありがたい。
オレは千切れたお肉に手を伸ばす。
口へ運び、弾力のあるお肉を噛む。
「ウマイ……ウマイぞぉ……」
「泣きながら食べるなんてよっぽどね……」
「良かった……良かった」
パンと肉を挟んで食べているアルティナ、他のまかないをまた持ってくるとダリオは立ち去る。
オレの宴はまだ始まったばかりだ。
☆
斜めにいるアルティナはうつらうつらと眠たそうだ。
食事が終え、椅子に腰かける面々と話かけようと思い、口を動かそうとした。
「アルティナさんとユウさんって、仲かが良く見えますね。前から交流が?」
「それほどでもないよ」
「今日、出会ったただの人」
「他人とは言わないのだな」
「パーティーを組むのだから」
コップを傾け、飲み物を下すアルティナ。
アルティナが自らの口で、オレとパーティーを組むと言ってくれて、うれしいな。
明日、やっぱやめたとか言い出さないだろう。
「えっ? 本当にですか?」
ダリオが手を口に当てていた。
オレとアルティナがパーティーを組むことを反対していたダリオであったのだ。
驚くのも仕方ないかもな。
「ユウが、支援使いの価値を覆すって言った。わたしはそれを信じようと思ったの」
「七日間以内にだけどな」
「可能なの? そんな……いえ。ごめんなさい。失礼なことをいいかけたわ」
「胡散臭いのは同感」
「アルティナさん、あなたが支援使いの張本人でしょうに」
額を押さえ、ダリオはタメ息をついた。
否定しないってのは、嘘っぱちだと思っているのか。
「どうやって覆すおつもりなのかしら」
「それはユウのスキーー」
はい、ストップ。
アルティナの口元を抑える。
「すまんけど、やり方は秘密なんだ」
「……へぇ。ぜひに教えてもらいたいわね」
「これは譲れない」
転生したことにより力がオレに備わった。
バフエヴァケイションはパーティーメンバー以外に教えない。スキルは支援使いにとっての切り札である。
オレには不可思議な力があると他人に知られたくない。ダリオはギルドという公共機関の職員なのだ。いつ、オレのスキルを話すかわからない。
一応、用心したほうがいい。
アルティナが口を滑らしてしまいそうだから、あとで口止めしておこう。
「アルティナの価値観だけを変えるのが目標な。わたしの支援魔法が役に立つってよ」
「気になるのよ。今まで支援使いが役に立たないことは、歴史が証明している。それを覆すだなんて」
「大それたことだと鼻で笑わないんだな」
「ほら話なら、ユウさんが落ちてきたってだけで間に合っているわ」
昼頃にアルティナがダリオに伝えていたな。
アルティナを見ると、じっと上目づかいでオレを見ていた。
もういいだろう。アルティナの口からオレは手をはなす。
「わたしも知っている。有史に支援使いの名は載らない。汚名が記してあるだけ」
「なにも知らないようだから、歴史とか昔話といったもの、時間があるなら教えてあげようか」
「ダリオ、物知りなの?」
「うふふ。わたしの祖母がよく語ってくれたからね。覚えているわ」
「頼む。ダリオ、教えてほしい」
「よしきた。長い時間、話すと思うから軽食を買ってくるわ。わたしのおごりよ」
ご機嫌にほほえみながら、ダリオは歩いていく。
これから支援使いの重たいだろう歴史を聞くのか。
少し緊張してきた。身動きし、椅子の座り心地を確かめる。
「お待たせ。うふふ、一杯買っちゃった」
「ダリオ、最高」
「アルティナってもしかして食べることが好きなのか?」
皿一杯に盛り付けている軽食の類いに、アルティナは目を輝かす。
森でも、お昼時だからって街に急いで帰ってきたしな。食べ物ためにってなら、うなづける理由だろうよ。
ダリオは笑顔のまま、席につく。
「そんなに楽しい話なのか?」
「ドラゴンのおとぎ話よ。聞く人いよっては面白いと思うわ。わたしがうれしいのは、おばあちゃんの話を聞かせれるからね」
ダリオはおばあちゃん子か。
咳払いを一つして、ダリオは場を整えた。
オレは前屈みでしっかりと聞く態勢をとる。
「これはある王国の話です……」
支援使いの歴史、異世界にオレが転生した理由につながるであろう物語が、始まった。
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