表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オレに支援魔法をかけてくれ!  作者: デンチュウ
6/8

食後のひととき~オレのスキルは秘密な

 


 食事時間のピークが過ぎたぐらいに、モルモットから任務達成をオレは告げられた。

 野菜を切る量や食べ物を皿に盛り付ける回数が、落ち着いてきたなと思ったところだ。

 肩が重たい。腕が、重労働によって疲れたぞ。

 普通に任される量の二人ぶんを、何回かミスをしたけどもオレはこなした。

 モルモットのやろう、オレをこきつかいやがったぞ。


「裏からさっさと出ていけ」


 モルモットは料理の作業をしているので、オレを見ていない。

 依頼が終わったら用済みだと言わんばかりだな。

 どこから出ていけばいいんだよと思っていたら、隣にいるアルティナが前へ進む。

 オレたちがいるのは調理場の奥、赤い布で仕切った場所をアルティナは通る。

 ついていって、仕切りを越えた先はギルドの受け付けの内側であった。受け付けをしている人たちの横に、オレたちは来てしまった。

 オレよりも調理場に早く着いたダリオは、モルモットにオレをいじめるように話をつけたわけだ。

 なるほどな。


「オレをさっさとここに通せよ、このやろう……」


 愚痴ってしまうのも仕方ない。

 それぐらいに依頼はつらかったのだ。


「あら、アルティナさんにユウさんじゃない?二人とも、もう上がったの」

「他の人はまだ仕事中」

「ユウさんの見るにたえない姿に、おそらくは追い出したかった。アルティナさんは知り合いみたいだからついでね」

「あのなぁ、モルモットの顎に容赦なく使われたんだぞ……」

「はいはい。ざまぁないわね、これ報酬よ」


 微笑しながらダリオは、手を差しだしてきた。

 オレの疲れ具合に優越感に浸っているのかよ。

 オレは手を開いて、ものを受けとる。

 お金かも。固い円形で茶色のもの。これが銅貨か。


「お詫びに銅貨二枚を増やしておいたわ。それで、食べるところを教えてね」

「食堂の右端辺りにいる」

「わかったわ。わたしが持っていくから待っていてよ」

「よろしく」


 アルティナとダリオは行動しだす。アルティナは木の仕切りを越えて、食堂の方向へ。ダリオはオレたちがやってきた布を通っていった。オレはひとまずアルティナに追う。

 ダリオに、仕返ししてやると息巻いた依頼前は思っていた。が、あまりの忙しさで意気消沈、お腹がへってなにも考えが浮かばない。

 まばらな人混みを通ってようやく机について、椅子に座る。オレは机にすぐに突っ伏す。


「顔が悪い」

「オレの顔つきが醜いみたいだな……」

「実際にかんばしくない」

「そうかよ」


 顔色がよくないだけだ。

 オレの顔つきは、けして不細工じゃない。

 天下の美貌をもつエルフの種族にとっては、他の種族の美貌は劣るだろうな。


「飢えたゴブリンみたい」

「その例えはやめろ。いまオレはまさしく飢えてるの」

「まかないがくるの、時間がかかる。もつの? 大丈夫?」

「食べれるって確証があるから、耐えれる」

「そう。わかった」


 オレは横を向く。

 うまそうに食事をとる冒険者たち。

 食べ物が輝いて見えてしまう。

 突撃しそうになる衝動を我慢し、前を見る。

 口をモグモグと動かす裕福者が、オレの近くにいたとはな。


「食べ物を寄越せ」

「わたしの唾液付きでよければ」

「かまわん」

「ダメに決まってんでしょうが!ほら、ユウさん!」


 横から皿をドンと置いた。

 肉が皿に乗っている。荒々しく炙っただけのお肉である。

 受け付けの悪魔、ダリオがご飯を持ってきてくれた。

 目を細め、見下してきた。


「あまりにも見てらんないから、食べれるやつをすぐに持ってきてあげたわ」

「ありがとう」

「アルティナが真っ先に手を伸ばすのな」

「わたしもお腹が空いているの。ついでに、お肉を千切るから許して」


 細かく千切って、皿の端に置いていく。

 アルティナはオレが弱っていることを思ってくれたのか。ありがたい。

 オレは千切れたお肉に手を伸ばす。

 口へ運び、弾力のあるお肉を噛む。


「ウマイ……ウマイぞぉ……」

「泣きながら食べるなんてよっぽどね……」

「良かった……良かった」


 パンと肉を挟んで食べているアルティナ、他のまかないをまた持ってくるとダリオは立ち去る。

 オレの宴はまだ始まったばかりだ。



 ☆



 斜めにいるアルティナはうつらうつらと眠たそうだ。

 食事が終え、椅子に腰かける面々と話かけようと思い、口を動かそうとした。


「アルティナさんとユウさんって、仲かが良く見えますね。前から交流が?」

「それほどでもないよ」

「今日、出会ったただの人」

「他人とは言わないのだな」

「パーティーを組むのだから」


 コップを傾け、飲み物を下すアルティナ。

 アルティナが自らの口で、オレとパーティーを組むと言ってくれて、うれしいな。

 明日、やっぱやめたとか言い出さないだろう。


「えっ? 本当にですか?」


 ダリオが手を口に当てていた。

 オレとアルティナがパーティーを組むことを反対していたダリオであったのだ。

 驚くのも仕方ないかもな。


「ユウが、支援使いの価値を覆すって言った。わたしはそれを信じようと思ったの」

「七日間以内にだけどな」

「可能なの? そんな……いえ。ごめんなさい。失礼なことをいいかけたわ」

「胡散臭いのは同感」

「アルティナさん、あなたが支援使いの張本人でしょうに」


 額を押さえ、ダリオはタメ息をついた。

 否定しないってのは、嘘っぱちだと思っているのか。


「どうやって覆すおつもりなのかしら」

「それはユウのスキーー」


 はい、ストップ。

 アルティナの口元を抑える。


「すまんけど、やり方は秘密なんだ」

「……へぇ。ぜひに教えてもらいたいわね」

「これは譲れない」


 転生したことにより力がオレに備わった。

 バフエヴァケイションはパーティーメンバー以外に教えない。スキルは支援使いにとっての切り札である。

 オレには不可思議な力があると他人に知られたくない。ダリオはギルドという公共機関の職員なのだ。いつ、オレのスキルを話すかわからない。

 一応、用心したほうがいい。

 アルティナが口を滑らしてしまいそうだから、あとで口止めしておこう。


「アルティナの価値観だけを変えるのが目標な。わたしの支援魔法が役に立つってよ」

「気になるのよ。今まで支援使いが役に立たないことは、歴史が証明している。それを覆すだなんて」

「大それたことだと鼻で笑わないんだな」

「ほら話なら、ユウさんが落ちてきたってだけで間に合っているわ」


 昼頃にアルティナがダリオに伝えていたな。

 アルティナを見ると、じっと上目づかいでオレを見ていた。

 もういいだろう。アルティナの口からオレは手をはなす。


「わたしも知っている。有史に支援使いの名は載らない。汚名が記してあるだけ」

「なにも知らないようだから、歴史とか昔話といったもの、時間があるなら教えてあげようか」

「ダリオ、物知りなの?」

「うふふ。わたしの祖母がよく語ってくれたからね。覚えているわ」

「頼む。ダリオ、教えてほしい」

「よしきた。長い時間、話すと思うから軽食を買ってくるわ。わたしのおごりよ」


 ご機嫌にほほえみながら、ダリオは歩いていく。

 これから支援使いの重たいだろう歴史を聞くのか。

 少し緊張してきた。身動きし、椅子の座り心地を確かめる。


「お待たせ。うふふ、一杯買っちゃった」

「ダリオ、最高」

「アルティナってもしかして食べることが好きなのか?」


 皿一杯に盛り付けている軽食の類いに、アルティナは目を輝かす。

 森でも、お昼時だからって街に急いで帰ってきたしな。食べ物ためにってなら、うなづける理由だろうよ。

 ダリオは笑顔のまま、席につく。


「そんなに楽しい話なのか?」

「ドラゴンのおとぎ話よ。聞く人いよっては面白いと思うわ。わたしがうれしいのは、おばあちゃんの話を聞かせれるからね」


 ダリオはおばあちゃん子か。

 咳払いを一つして、ダリオは場を整えた。

 オレは前屈みでしっかりと聞く態勢をとる。


「これはある王国の話です……」


 支援使いの歴史、異世界にオレが転生した理由につながるであろう物語が、始まった。

読了ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ