エルフの戸惑い〜支援使いの認識を変えようぜ!
「突然なんだけどアルティナ、オレとパーティー組もうぜ。支援魔法がオレに必要なんだ」
アルティナはガタンと席から立つ。
騒ぐ人たちのせいで、アルティナのたてた音は、周りに人に聞こえていないようだ。飲み食いを好き勝手に続けている。
「支援使いと知っていてなおわたしと組みたいの? 信じがたい……」
「本当だ! 理由だって、ある」
アルティナに、オレは近づいて肩を力強くつかむ。
身動ぎしたアルティナは上目づかいで、オレを見る。
「り、りゅうって、なに?」
噛んだ。
アルティナはなんでおびえているのだろう? オレの気のせいなのかもだけどな。
「オレが流星みたいに落ちてきた。そしてオレは異なる世界から転生したって言ったことは、覚えているよな?」
「うん」
こくりとうなづく。
「アリアっていう人に頼まれたんだ。支援使いを導いてくれってさ。オレはそのために、この世界に転生したんだ」
「導くなんてだいそれたことをしようとしてまで、わたしと組むというの?」
「支援使いの役に立ちたいんだっ!」
オレの気迫に、アルティナは後退りをする。
「転生した理由でスキルが関係していた。バフエヴァケイションっていうスキルで、支援魔法を受けると効果が数倍に上がる」
「自分のスキルを他人にむやみやたらに教えることじゃない」
距離を取っていたアルティナが、足を前へ踏み出す。
他人って言うのは距離を取りたいってことか。
森から街まで、アルティナがオレを連れてきてくれた。もしかしたら森にいたままだったならばオレは迷い、飢えて死んだだろう。命の恩人っていえるし、親切にしてもらった恩をかえすんだ。
パーティーを組まないことを、オレは断る。
遠慮するんじゃない。頑張るんだ、オレ。
「スキルを教えるぐらい、アルティナを必要としているんだ!」
「………………ごめんなさい」
「どう、してだよ」
謝られたショックで目が涙でにじむ。
でも諦められるかってんだ。
「しつこいようだけど、オレはアルティナが必要なんだ」
「わたしとユウが組むのは、近い未来にパーティーが解散する可能性がある」
顔を伏せる。
オレが見えない表情は悲しみか、悔しさなのだろうか。
「支援使いは戦えない、力がない。できるのはせいぜい荷物を持つか夜営の見張り役。見張り役だって戦闘できもしないのに、いても意味がないに等しい。支援使いの役割に報酬の分け前を与えるのは、なんてもったいない」
「その自分が役に立たねぇって思うのが、オレはもう我慢ならない……っ」
「……ッ! ユ、ユウ? わ、わたしはいいの。ずっと当たり前で過ごしてきたから、気にならないから」
唇を切ってしまった。思わず力が入りすぎみたいだ。
心配そうにアルティナが手を伸ばすさきは、オレの口元だろう。
アルティナの手のひらをオレは握る。
冷たい手だ。
「考えを塗り替えてやる。アルティナの支援魔法が使えるって新しくしようぜ!」
「そ、そんなことできるはずが……っ」
「一週間。オレとパーティーをおためしで組んでくれよ」
押し黙るアルティナ。彼女の手のひらが少しばかり暖かくなってきたと思う。
「……かっ……た」
「え、なんて? もしかして、いいの?」
「……わかったって言った」
マジで。
よっしゃぁぁあああ!
アルティナは顔を伏せたままだが、オレは気にせず、彼女の手を縦にブンブン動かす。
「誘いに興味がわいた。わたしが冒険者に本当の意味でなれる可能性を、ユウが示してくれる」
「おう! ドンとオレに任せてくれ!」
「森で変なのに絡まれた続きと思えば気が楽」
「それはひどい言い方だな!? はははは!」
「言ったわたしも、少しいけないなと思った」
「これからよろしくアルティナ」
「短い期間だけどもよろしく」
アルティナは顔をあげる。
満面の笑み。
キレイで愛らしい。初めて見たな。俄然やるきがわいてくる。
絶対に一週間以内にアルティナが思う支援魔法の価値観を高めるぞ。
「まずどうするの? 冒険者初心者のユウに討伐なんて出来るはずがない」
「オススメある? まずは冒険者に必要なこと。たとえば武器の扱いかただとかさ」
「そう。ならまずは薬草採取に行くべき」
ゲームとかでチュートリアルのよくある薬草採取か。
アルティナとダリオがやりとりしていたのをふと思いだした。アルティナが受け付け嬢のダリオに渡していた草があった。それが薬草なのかも。
ならばオレが落ちてきた森には薬草が生えていて、アルティナは依頼で採取していたわけだ。
「よし行こう」
「どこに? 今から?」
オレを呆然と見上げるアルティナ。
「薬草採取に行くべきだ!」
「無理」
「なぜに!? 森が危険だとか?」
「今から他のお仕事に行く。一人で受けているからユウは来れない」
「オウマイゴット!」
思わず頭を抱え叫んでしまった。
「オウマエゴー? わたしはもう行くけど」
アルティナは立ち上がり、ギルドの入り口に進む。
次にあう約束とかしたいんだけども! あ、ならアルティナについていけばいい。
「せめて見学だけでもっ!」
アルティナは止まる。横顔だけでオレを見てくる。
「来てもいい。でも、わたしはいや、かな。恥ずかしから……」
口をすぼめながら、早口でまくしたてる。
なんて可愛い生き物なのだ。
「くおぉおおおお……」
気になる。いけない副業を監察してみたい。
土下座をして、床で目をかくす。
行きたい。けど、アルティナが顔を赤らめるほどに恥ずかしいのだ。オレは我慢しよう。
オレの肩に、誰かがさわった感触がした。
「ぶわはっ!?」
足を屈して、女の子座り。下着っぽい股に食い込むズボンが目前にある。
「来ないの?」
アルティナであった。
あらためて見ると扇情的な服装だよな。
黒のズボンに保護色のように下着っぽいのも色が一緒である。下着っぽい上に覆う生地も透けている。
目には毒だよ。
「逝かない……」
オレは再び突っ伏す。
死にたくない。
ただでさえエロチックな妄想が頭にわいてくるのだ。いま、女性といるだけで精神的につらい。
「行かない……そう。またあとで」
遠ざかる足音が聞こえなくなったとき、オレは鼻血を吹き出してしまう。
女の子座りを童貞の前でしないでくれよ。
刺激が強すぎる。
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