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オレに支援魔法をかけてくれ!  作者: デンチュウ
1/8

百年の思い。異世界へのお願い

初めまして。閲覧ありがとうございます。

数多くある作品から閲覧していただき嬉しいです。


 



「見つけました」


 はじめは流れ星だと思った。にぎやかな街中。見上げれば夜空。

 オレは手を合わせる。無事に学生生活が終えたことを感謝し、これからの人生の無事をお願いした。

 その願いを裏切るように、危機がオレに近寄ってくるのだ。流れ星だと思ったものが輝くただの球体に見えたとき。

 気づいたときにはこちらに迫っていた。見つけた、とか聞こえたぞ。

 オレは道路を走り回った。道行く人はオレを見て、驚く。おかしいぞ! オレじゃなく、後ろの球体に驚ろけよ。

 道に落ちているごみを蹴飛ばし、行き着いた先は壁。袋小路の行き止まり。オレは球体に追い詰められた。

 ただの丸。見つけたとか幻聴に決まっている。


「なんだってんだよ!」

「危害は加えません。少し、異世界へ案内させていただきます」

「嘘だろ!?」


 球体はオレにゆるゆる迫る。

 動けないオレ。なにもすることも、家族に遺言を残すことさえできなかった。



 ☆



「お願い!  あなたじゃないとダメなんです!」


 知らない場所だ。黒の世界。どこからか声が聞こえる。が、周りを見ても誰もいない。

 辺りは黒、黒、黒だ。

 怖い。体が冷たくなっていく。


「わたしを見てください!  落ちついてください!」


 がしりと顔がつかまれ、女が景色に割り込む。光だ。さらに女。女だけが色合いをもつ。金髪。顔の造形が整い、藍色あいいろがオレを見つめる。

 現実で見かけたら美しい女性だなと、男なら足を止めるだろう。

 その美しさが今のオレにとっては関係ない。逆におぞましい、空間の異様を際立たせるからだ。さっきはいなかったぞ。どこから出てきたんだ。


 女の手を、反射で払いのける。逃げたい一心で身を退いたオレは、しりもちをついてしまう。

 くそ。足がいうことをきかず、勝手に震えやがる。


「どうか、どうか……」


 女は頭を床につける。下は、暗闇だ。女だけが光を、存在をもつ。

 異空間の主。

 光をもつ女に近寄る。


「ここはどこだ。オレは部屋に戻れるのか?  それだけ、それだけでも教えてくれ。頼む」

「……戻れます」


 さきの声よりも小さい。彼女は頭を下げたままだが、声がくぐもることはないだろう。

 言葉で、オレは一先ず息をつく。

 彼女はオレを傷つける目的だろうか。いや、あるなら土下座をしない。

 自分の尊厳を捨てる覚悟で頼む姿であるからだ。それも初対面の人にだなんてありえない。

 彼女は切羽つまっていて、オレを傷つけることはないのかもしれない。


「よかった。はは、ははは」


 オレを立たせようと彼女は体を起こし、手をだす。オレは手を握り立とうとしたが、膝がガクッとなってしまう。

 彼女はしりもちをつかせまいとオレを引き寄せる。

 腕、胸が柔らかい体だな。いやらしい考えが頭をよぎった。


「ごめん。ありがとう」

「い、いえ! こちらこそどういたしまして」


 オレがやんわりと身を引く。彼女は頬を赤らめ腕を抱きしめて、顔を背けた。

 恥ずかしいのかもな。

 甘い雰囲気が頭をつつむ。いかんだろ。雑念を叩きだし、オレは聞きたいことをまず優先する。


「君の目的は?」

「あなたにお願いがあるのです。わたしの独りがりな頼みごとなのですが、あなたにとっては人生を左右するものですから」

「なるほど。オレは君のお願いが理由でここにいるわけか。あってる?」

「ちがいありません」


 彼女はゆったりうなずく。

 彼女の願い。おかしな現状に結びつく。その原因がオレにあるというのか。いやない。オレはごく一般人だ。優れた能力など持ち合わせていない。地球を救えなど、スケールがでかいことは不可能。


「異世界に転生していただきたいのですが」


 オレは口をバシンとふさぐ。

 痛い。勢いよく叩きすぎた。

 でしゃばりやがったな本能。理性が動いていなかったら、危ないぞ。

 とっさにいいよ任せてって言いかけた。


「ど、どうしたのですか!?」

「オロオロしなくても大丈夫。なにもないから、話をどうぞ」

「はぁ。よろしいのですか? あの、目から涙が」

「異世界に転生するのは君の話を聞いてからにしたい、なんて」

「えぇと。はい。その、話を進めますね」

「おけーばっちこい」

「あなたがお断りなされたら、もとの現実に戻れます」

「えっ! いいのか? 本当に」

「そうなってしまった場合はわたしの説得力不足ですから……それにわたしはあなたを説得するのに退けない理由と、あなたを命懸けで補佐する覚悟があります」


 そこまでにオレを必要なのか。しかも無理やりでなく、誠意でオレを異世界へ転生させる。

 彼女の思いの丈。優しさがオレに伝わる。

 異世界か。オレはゲームとかするし、ラノベも多少は読む。世間的にはオタクだ。


 で、転生だ。

 聞きたいことはいくらでもある。


「オレが異世界に転生するにあたり危険はない?  なにをさせる?」

「危険はあります。それもあなた次第で、命を犠牲ぎせいにすることがあるのは揺るぎません」

「……だよな。異世界だもんな。現実でもいつ命がなくなるかわからない。命の保証とか無理だよな」


 彼女はいえいえと頭を振り、にこりと笑う。


「命の保証の代わりに、あなたが転生するにあたり、わたしからは力を呼び起こします。申し訳ないです。力が及ばず。わたしはあなたに頼むぐらいしかできません」

「暗い顔をしなくても、君の願いは世界を思ってなんだろ?オレはその愛情がまぶしいな」

「あ、ありがとうございます。そう言っていただいて、光栄です」

「ははは! よし、力ってなんだ」

「わたしのお願いと関係しているのですが。力、いわゆるチートと呼ぶものを」

「くわしく」


 もう、どうにでもなーれ。


「説明するよりも、わかりやすく」


 彼女は指を軽快にはじく。

 指パッチンか。オレはできないから憧れる。

 黒の世界が白の空間へ、そして森に。


「なっ、えぇっ!?」


 新鮮な空気。そして、木々の合間からもれる太陽光。

 自然だ。見るものに安心感を与える、母性の象徴。

 息をのむ。ふわりと甘い匂い。

 信じられない。現実なのか!


「な、なぁ。ここは異世界か?」

「いいえ。ここは偶像。わたしたち二人に都合のいい世界。ですが、もしあなたが望めば現実にもなるでしょう。異世界の疑似空間なのですから」

「望む?  オレが……」

「すみません。この空間を維持するのに少し、時間がないようですので。試していただきます」


 彼女は体をずらす。背後には異形がいた。

 緑色の怪物。ファンタジーといえばゴブリン。小さいながらも、凶悪なやつだ。個々は雑魚でも、群れれば人は殺意に呑み込まれるだろう。


 オレだけを見つめ、狂喜に目を細める。

 手に握るショートソードを振り回す、ゴブリン。


「戦ってもらいます」


 彼女はオレになにを、言ったんだ。

 誰が?決まっている、オレだ。

 ジリッと足を退く。

 逃げよう、さぁ。


「すみません」


 彼女は頭をさげる。そしてオレの前、地面から突起物が伸びてくる。

 両刃の片手剣。ゲームでも出たヴァイキンソードってやつか。

 ゴブリンはギヒっと笑い、彼女を無視してオレに、迫る。


「くそったれ!」


 柄をつかみ、正眼にかまえる。

 武器を扱ったなんて、学校の剣道だけだ。


「ぐひひ、あぁ?」

「ぐ、ぅうぁああああああああ!」


 剣と剣のつばぜり合い。振って、振って、雑音を撒き散らす。空振り。生存本能に任せた稚拙ちせつな剣。

 ゴブリンはオレに合わせるように、剣をはじく。

 くそったれめ。おまえの本能は個々は殺すためにあることは。


「ちくしょぉぉお!」


 大振りの袈裟斬けさぎり。

 オレはゴブリンの頭を狙い、振るう。

 が、オレの体を動かなかった。


「げひゃ、ひゃ」


 づぶりとオレの腹に、こいつは殺意をねじ込んでいた。

 ショートソードをオレの腹に突き刺しやがったんだ。


「あ、あぁ。あぁぁぁぁあああぁぁ!」


 うしろにバッと飛び退く。

 無理だ。カランとオレの手から剣が落ちた。


「はぁ、はぁ。すり抜けた。生きているんだ。オレは」

「大丈夫ですか? 気を確かでありますか?」

「どうしてオレは死んでいない。オレは大丈夫、大丈夫だ」

「想像です。夢であり、現実。体験に都合がいいのです」

「さっきの都合がいいって、この死を体験させるのにいいってことか」

「異世界の戦う危険性。ゴブリンが最低であり、初めの一歩なのです。倒したさきにあなたの価値が証明されるでしょう。進むも退くも、今が正念場です。ご覚悟を」


 ゴブリンはオレを見ながら腹を抱えて笑っている。

 そうだな。現実ならオレは死んでいる。


「倒したい……あいつを超えたい! オレは負けない!」

「力を、この力があればあなたは、ゴブリンに負けません」

「……力」


 心臓がズキンズキンと痛む。

 ゴブリンは強い。人を倒すことに関しては、ゴブリンが有利だ。オレは、ゴブリンの在り方には負けを。

 けど、曲げれない。オレは信念を守るんだ。


「体験してみませんか?  異世界を」

「できるなら、やってやる!」


 剣を握る。

 さっきよりも体が熱く、目がゴブリンの体を視界にさだめる。

 ゴブリンをぶったおす!


「ミクロパワーアップ」


 ドクン。オレの内からほとばしる力が。

 彼女は魔法を使ったのだろうか。ありがたい。

 ゴブリンはもう準備は万端かとオレに飛びかかる。

 だが遅い。


 やつが飛んだ瞬間。ゴブリンの体と地面が離れる躍動やくどうが、オレにとって鈍足で動いているように見えた。

 俊敏な動きでない。ゴブリンはまなじりをつり上げ、警戒していた。己の動きを目で追われていることに気がついたのだろう。ゴブリンとオレは同じ戦場に立ったのだ。

 迷いはない、突き進んでやる。

 剣を水平に振りなぐ。


「おおおおおおおおおぉおおおぉぉぉお!」

「ギヒヤアッァァァァァアア!」


 剣と剣が交じる手応え。嫌な音が手首から聞こえた。しかし押しとおる!

 重いものを押し退ける感覚。無我夢中で腕に力を込めて、脚を前にだす。気づいたとき、オレは前の位置からゴブリンの後方にいた。

 振り返ればゴブリンがいない。

 オレはキョロキョロするがゴブリンの姿がない。いるのは彼女、拍手しながら手を叩く。

 やったぞ。オレはプライドを守れたのだ。


「おめでとうございます! おめでとうございます!」

「君こそ、ありがとう。オレの背中というか、発破をかけてくれて。あのままだったら、うじうじしていた」

「こちらこそ。あなたの勇姿。見ていてかっこよかったです」

「そのことなんだ。あのように戦えたのは、君。君の力があったからでは? オレはなにもしていない」

「『バフエヴォケイション』あなたがもつ力。わたしが名付けて、チートは通名『バフエヴォケイション』弱小、最高の支援魔法をその身に受けたとき、効果は何倍も膨れあがるのです」

「……聞くからに支援魔法バフを受けないと意味がなさそうだ」

「はい。これがわたしのお願いにつながります」

「どの部分だよ。支援魔法を受けない、意味がない?」

「支援魔法に旨味がない。わたしの世界。テレシアでは冷遇れいぐうされているのです。わたしが他の世界を見守っているあいだ。気づかぬうちに支援魔法の評判が落ちていたのです」


 世界が暗転。

 右手をガシリと両手に掴まれ、彼女の眼前がんぜんに。


「穏やかな話じゃないな」

「回復系の魔法は重宝しているのですが、身体強化系バフは、パーティーにわざわざ入れて報酬の頭分けするのが気にくわない。そんな風聞ふうぶんが常識なのです」

「改革か?  オレにそんなだいそれたことを」

「はい。あなたに期待しております」


 凡人ぼんじんのオレが期待されている。

 現実では大きな事態を任されたことなどない。魔王を倒せじゃなく、人の役に立つことか。


「なんでオレなんだ?  もっと他にいるのでは?」

「あなたのチートは、そもそもあなたが持っている力なのです。わたしはバフエヴォケイションを喚起かんきし、力を使える場所へ送るだけ」

「元から持っていた、だと」


素養そようがあったのです。あなたを探すのに百年ほど掛かりました。あなただけなのです。お願いします、どうか。わたしの世界に暮らす我が子を導いてくださいませ」


 異世界と日本の天秤てんびんが、異世界へ行くに傾きつつある。

 彼女は涙をため、オレの心に訴える。

 数少ない支援魔法を使う人物を救うがために、百年も彼女はオレを探していたのだ。

 男として、これに勝る栄誉はあるのだろうか?百年もオレに費やした彼女の思いに勝るものが。

 最後だ。これで決め手になる。


「……もとの世界のオレはいなくなるのか? 死ぬ、のだろうか」

「はい」

「お願いがある」

「どうぞ。聞きましょう」

「日本にいるオレを、存在の記憶を消してくれ。周りの家族を悲しませたくない」


 彼女は驚いたと、目と口をあける。

 オレの家族を、救ってくれ。いなくなったオレを悲しまないように。


「わかりました。あなたの家族、友人は幸せになるように図らいます。約束です」

「すまん。ありがとう」


 記憶を消せ、自分よがりなお願い。親不幸もんだなオレ。

 でも、後悔はしない。するのは死ぬときだ。最期に良い人生だったって、オレをバカ笑いしてやる。


「決めた。オレは異世界へ転生する」

「ありがとうございます」


 足元に魔方陣が広がる。

 あわく輝く虹色。オレの心が美しさにふるえる。

 彼女は頭を深々と下げていた。


「君。あ、名前を聞いてなかった」


 いまさらだな。決意するまで夢心地だったから、名前に意識が向かなかった。


「アリア、アリアです」

「不思議で、素敵な名前だ」

「い、いえっ。そんな褒められる名前ではないですよっ!?」

「オレのなま……えは……」

「いってらっしゃい。あなたがつむぐ旅を見守っています」


 ぶつりと意識がかたむく。ここに来たときと同様。それは唐突とうとつだった。

読了ありがとうございました!


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