「おくのてさん」
episode16
「おくのてさん」
全体的に黒く、しかしその中にもどこか希望を感じさせる今まで見たことの無い空間。
目の前には見たこともないような暗く、それでいて鬱蒼とした森が広がっている。
薄汚れた雑巾のように淀んだ天からの光が、この空間が非現実的な物だということを主張していた。
「あの裂け目、すぐ閉じちゃうから引っ張っちゃったけども、大丈夫?」
翠先生は優しく僕に語りかける。
いつ聞いても安心する声だ。
僕は周りを見渡してから翠先生に聞く。
「あの、飛躍した物見過ぎて忘れちゃったんですけど、何するんでしたっけ?」
「この先に廃屋があるんだけども、そこに住んでいる霊に力を借りる事が今回の目的。でも奴は刑を待つ地獄行きの囚人……、もとい囚霊さ。もしかしたら喰われるかもしれない。だから上級霊である僕が付いてきたんだよ」
翠先生は僕に向かって何かをパスした。
僕はそれを落とさないように気をつけながらキャッチした。
それは寂れた神社にでも売っていそうなお守りだった。
「これは……?」
僕は翠先生に聞く。
「それは霊を封じ込めて好きな時に呼び出す事ができるお守りで、僕もお世話になっている代物さ。それを使えば霊と契約するか、従属させられる」
「契約か従属……?同じじゃないんですか?」
「んー、契約は霊側がいつでも呼び出しを拒否できるけど、従属は拒否できない。だけど従属の場合代償として妖気を常時喰われるんだよ、人間の場合は生気を喰われる。だから君の場合は契約になるかな」
「契約ってことは……」
「うん、察しがいいね。その通り」
「霊を屈伏させる必要がある」
「屈伏……ですか」
そんな事まで考えていなかった。
「僕に出来ますかね?」
「なぁに、心配無いよ。最悪こちらにも奥の手があるからね」
「奥の手……?」
そう僕が聞き返すと、翠先生はポケットからさっきのお守りと似たような物をいくつか取り出した。
「これらは僕が従属させてる霊の中でも随分下級の物だ、これを貸してあげよう」
と言って翠先生はその中から2つ僕にお守りを選び、僕に差し出した。
「貸すと言っても、それは契約ですか?従属ですか?」
「契約は人に貸せないんだ、だから従属なんだけど大丈夫、少し使うくらいなら喰われたとしても体がだるくなる程度だよ」
「ちなみにこれを使えばどうなるんですか?」
「……確か槍と盾に変幻する霊だったと思うよ。槍の威力は下級程度の霊なら一撃、盾は中級の攻撃でもある程度なら耐えられる代物だ。見た目はちょっと頼りないけどね。使いたい時はお守りの封を切ればいい」
「……わかりました。ありがとうございます」
少し気持ちが暗くなる。
奥の手とはいえ、力で屈伏させるのは気が進むものではないからだ。
そんな僕の暗い表情を案じたのか、
翠先生は優しく僕の右手を握った。
「そんな顔をするなよ。霊界……、特にシュルテントの時間の経ち方は霊の待機所ということもあって人間界より長いのは長いけど僕達は人を待たせてる。それも仲間をね」
「この前の森の中にそいつは住んでいる。さっさと屈伏させてお守りの中に入れてあげよう」
「……はい、わかりました」
僕と翠先生は森へと入っていった。
完結はさせます




