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送り音(おくりね)

作者: 加上鈴子

今朝は風が涼しかった。そのためか返って身体に触ったようで、だるくて、起き続けていられなかった。

いつもの時間に起きて旦那を見送り、洗濯機を回したまでは良かったが、着替えようと思って上がったはずの2階で寝室に入った途端、引き寄せられるようにしてベッドに倒れ込んでしまったのだ。二度寝なんて何年ぶりだろうか。罪悪感が伴うものの、睡魔に抗えない。

日が高い。眠っている場合ではない。こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎ去る。私の貴重な時間がすり減ってゆく。私は何も成し得ていない。ただ生きて、それだけで生を終えてしまうだろう。その平凡さを是と決めたはずなのに、どこかで自分が、もがいている。焦っている。嘆いている。

焦燥感が、その音を呼んだのか。

どこか遠くで、空き缶がガラガラ鳴っているような音がしていた。

「……?」

近所の子供か。もう公園に出ていても、おかしくない時間になっているのだろう。一個や2個じゃなく、ドラム缶も混じっているような音色である。カンカン、ガラガラ。聴いているうちに音色が調子を帯びてきて、いつしか音楽と化している。あまり楽しそうではない、物悲しく、シャープとフラットの効いた曲だ。

どこかで聴いたことがあったかなと思いつつ耳を凝らしていたら、つむっているはずの目に、何かがぼわりと姿を成した。いや姿とは言えないものである。私の目は効いていない。ただ、そこに在る感じがしているだけだ。感情も見えない。ただ、在る。

近くはない。音がする近所の辺りに、漂っているものだ。私が感じていることには気づいていないし、もし気づいているとしても、だからどうこうして来るような、そうした輩ではないようだ。存在はしばし逡巡する気配を漂わせていたが、やがて、ふいと消えた。

気がつくと音楽も止んでいた。

そして更に気づいたのは、私が目覚めていたことだった。

意識が浮上して、自分の存在を認識し、そこが自宅のベッドであることを確認し、それから、やっと目を開けたのだ。多少おののいたが、部屋の天井に何かが見えるといった怪奇現象は起こらなかった。そもそも私は霊感を持ち合わせていない。

だが何となく、この日だけは夢が夢であった心もちがしなかった。

霊感はないが、私は時々、音だけの夢を見る。亡くなった父が「ただいま」と怒鳴った夢もあったものだ。おかえりと怒鳴って応えたものだったが、それが本当に父が帰ってきたものだったのかは不明である。何しろ見えないし。

さて、これから音のした方向で、お葬式があるのかどうか。確かめてみたい気持ちもあるが、下手に見えても怖いので、今回のも「ただの、音だけの夢だった」というオチで済ませておこう。

今朝、二度寝して本当に感じた夢を記しました。

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