1話✡約束
「ストップ!」
演出の大きな声が体育館に響いて、キャストは一度動きを止めた。
「加藤ちゃん、もうちょっと声だして!もっかい最初っからいきまーす!」
その指示で佐藤孝幸、加藤薫、近藤清彦の三人は一度ステージからはけ、演出の山田亜実が合図をだして、再び劇を再開した。
「おい!」
中央ドアから勢いよく佐藤が入ってくる。
「お前どうゆうつもりだよ!」
「な、なにが…」
佐藤が近藤清彦の胸ぐらを掴んだ。
「小百合のことだよ!」
劇は、佐藤演じる男の妹、小百合の死を巡った人間らしい嫉妬や裏切りという内容。
一見鬱劇に思われがちだが、内容は濃く、今年こそ優勝できると期待の脚本だ。
「オッケー!」
山田の声に、加藤は安堵のため息を零す。
「うーん、どうしよう。このまま次のシーンにいってもいいんだけど…」
「なんか気になるシーンでもあるんですか?」
山田が台本を見ながら悩んでいると、後ろから桐山淳が声をかけた。
「うん。14ページの野熊ちゃんと国本くんのとこをやりたいんだけど…」
山田は言葉を濁して、時計に目をやった。
夜8時。
夜ご飯も食べず、ぶっ通しで練習していた彼らは…いや、特に言うならば野熊と国本は空腹で一言も喋らず、俯いていた。
「…よし!やっぱりもうご飯にしちゃお!」
山田がそう言うと、国本と野熊は勢いよく顔を上げて、笑顔になった。
「それじゃあ、家庭科室に行くぞー!」