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45 忌まわしき輪を断ち切れ

 友人のモチ子(仮)から聞いた話。

 あるときモチ子は、つけっぱなしにしていた指輪のせいで、指が鬱血していることに気がついた。


 以前からマズイかなと思ってはいたが、どうしても外れないのでそのままにしていたら、いよいよ抜き差しならない状態になってしまったらしい。


 今よりマシだった頃に抜けなかったものが、その時になって急に抜けるはずもなく、困り果てたモチ子は宝飾店に駆け込んだ。


 そこでありとあらゆる手段を試すもやはり外れず、これはもう切ってしまうしかないということになった。ただしその場合、修理するにしても完全修復できるかどうかは定かでなく、また当然ながら修理費の問題も出てくるという。


「ああ、そんなん。どうせ元カレから貰ったやつやし、外れた瞬間に地面に叩きつけて踏みにじってもいいやつやから」


 軽く錯乱でもしているのか、わざわざ言わんでもいいことまでつけ加えて快諾するモチ子。

 というか何があったんだモチ子?

 いや、聞きたくないから言わんでいいぞモチ子。

 だから言うなっちっとろーがモチ子!


 とにかくそういうわけで、変わった形のニッパーのようなモノで切ろうとしたが、これがうまくいかない。

 店にある道具ではどうにもならないので、店員は病院か消防署に行くことを勧めてきたという。


 ――なんで消防署?


 話を聞いていた筆者は思った。モチ子もそう思ったらしい。

 なんでも、消防署によってはリングカッターという専用の道具をおいてある所があるらしい。

 これ、女性なら知っている人もそれなりにいるようだが、男で知っている人はほとんどいないと思う。

 なるほど、それもレスキューというわけか。


 モチ子はさっそく最寄りの消防署に連絡してみた。

 今すぐいらっしゃいとのこと。


 出向いた消防署で用件を告げると、折り畳み式の机やパイプ椅子が並ぶ会議室のような部屋へ通され、待つこと一分。


「なに? 指輪が外れへんて? 切るのはええけど最後に曲げなあかんから壊してまうで?」


 マッチョな男たちが四人やって来た。

 モチ子は宝飾店でも語った余計な情報を開陳し、「いいからやっておしまい」状態。


 そこで男たちは噂のリングカッターを取り出した。

 形状は、まずハサミを想像してほしい。刃の片方が手動でくるくる回る、小さな丸ノコのような回転刃、もう片方がカギヅメ状の刃受けである。


 この刃受けを指と指輪の間にねじ込み、持ち手の方で圧をかけつつ回転刃を回す。

 これをマッチョな男たち四人がかりで行うと(どういう状態だ?)、ものの三十秒で見事に切断されたという。

 仕事が早い。カッコいいぜ消防隊員!


 しかも費用は、なんと無料。出された用紙に住所と名前を記入しただけ。さすがは人助けのプロ。無事に外れたからよかったものの、悪くすれば指が壊死していたところなのだ。

 素敵だぜ消防署!



 さて。この話を聞いて、思い出したことがあった。

 筆者の結婚指輪は、社名までは覚えていないがドイツ製である。

 一見するとシンプルなただの輪っかだが、よく見ると表面加工により光沢が斜めに入っているという渋いデザインだ。


 だがコイツの一番の特徴は、そこではない。

 コイツは鍛造されている。それはもう、カッチカチである。

 宝飾品というより、もはや工業製品の域にある一品なのだ。


 筆者は思い出す。

 そう言えば、購入時に店員さんが言っていた。

「笑うくらい硬いです」


 そして、よくよく思い出してみると、こうも言っていた。

「かなり特殊な道具を使わなければ、絶対に切れません。気をつけてくださいね」


 筆者がすぐさま、今つけている指輪が外れるかどうか試したのは、言うまでもなかろう。


 その時はなんの問題もなくスルリと抜けたが、ものぐさな筆者は、手入れなどのためにこれを外したことは一度もない。だから何年もつけっぱなしだったし、これからもそうだろう。


 ふゥ。

 絶対に切れません――か。

 将来、太っちゃったらどうしよう……。

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