43 今日から俺は女性ボーカル(前編)
先日、カラオケに行ったときのこと。
みんなでボイスチェンジ機能を使ってみようという流れになった。男性は女性に、女性は男性にチェンジさせるのである。
しかし使ってみたことのある人なら分かると思うが、カラオケに搭載されている機能では自然な声にならない。
特に男性から女性への変換が酷く、いかにもボイスチェンジしましたと言わんばかりの、テレビのドキュメントなどでよく聞くような「万引きした主婦」みたいな声になるのだ。
しかも余計な倍音を拾って機械的なダミ声になったり、悪くするとノイズ、最悪の場合は音程がズレたりするのである。
そんななか、なぜか筆者だけは、まだしもそれっぽく聞こえる所が多いことが判明した。
たかが余興だが、筆者は喜んだ。
筆者はかなり低音よりのくせに声質が軽く、致命的に薄っぺらいモブ声(筆者命名)である。
今まで何の使い途もなかったその声が、ついに役立つときが来たのだ、と。
何に使うのか?
知れたこと。どうせならもっと完成度を上げて完全に女性に化けてやろうと思ったのだ。
というわけで後日、改めてカラオケ屋へ。
いくつかの発声方法で、低音から高音まで声を出してみて、どう聞こえるか調査する。
目指すは、女性が歌っているとしか思えぬ自然さ、である。
しかしその結果分かったのは、やはりどうやっても機械的な不自然さが残る、ということだった。
発声法と音程によっては、自然といえば自然と言えなくもないところまではいくのだが、やはりどうしたってキンキンしたアニメ声の範疇を越えるものではない。
これではダメだ。
このような中途半端な芸、他の誰が許そうともこのワシが許さぬ!
仕方がないので路線変更することにした。
リアルタイムがダメなら、せめて録音でどうにかならないか。
イコライザー等を駆使して自分専用にチューニングすればどうか?
具体的にはまずオクターブを上げて、そこから波形を出して……などと考えているうちに、ある閃きが降りてきた。
特定の歌手の歌を、早送り又は遅回しすると別の歌手が歌っているように聞こえる、という現象がある(おそらく最も有名なのは平井堅⇔一青窈)。
これ、自分に応用できないだろうか。
先と同じように数種類のパターンで録音し、持ち帰って色々と試してみる。
すると。
「おお……。こ、これはっ……!」
筆者は満天の星空を見上げ、遠く母を想った。
前略母さん。
俺……女性ボーカルになります。
(後編へ続く)




