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42 エプロン師匠

 「どうでもいいことを真剣に議論する」という遊びが仲間内で流行ったことがある。


 例えば「亀田のカレーせんべいは、開けたてのパリパリが旨いか、少し湿気た頃が旨いか」というお題で議論するのだ。


 これの面白さは、誰もが自分の意見や好みが常識または一般的だと思っているが、集計をとってみれば実はそうでもなかった、ということが往々にしてあるところである。


 カレーせんべいの例で言えば、筆者などはカレーせんべいに限らず全てのせんべいはパリパリで当たり前だと思っていたのだが、蓋を開けてみれば三割ほどが少し湿気たくらいが好きだと答えたのだ。


 なるほど、道理で濡れせんべいがヒットするわけである。

(とはいえ分母が二十足らずなので統計的にはほぼ無意味なのだが、お遊びなのでご勘弁)



 さてこうした議論の中に、以下のようなお題があった。


『裸エプロンと裸カッターシャツ(男モノ)では、どちらがエロいか』


 我ながらアホもここに極まれりだが、どっこいこーゆーモノは馬鹿なお題ほど面白いのである。


 このお題は、ちょっと意外な結果が出た。

 ほとんどの女性が「よく分からんけど定番の裸エプロンの方が喜ばれるんとちゃうの? こっちの方が非日常っぽいし」

と、エプロンを選んだのに対し、男どもは筆者を含め圧倒的にカッターシャツを支持したのである。


 「定番」は、実は定番ではなかったのだ。


 カッターシャツ派Aは熱く語った。

「非日常の演出も良いが、ともすればそれはあざとさになる。ドヤ顔で見せびらかされても嬉しくはない。それに比べ、日常の延長線上に垣間見える仄かな非日常の情緒感よ!」


 ですよね。ええ、よく分かりますとも。

 しかしこれに対し、(男の中では)少数派たるBが反論。


「何を中途半端な。どうせやるなら突き抜けてこそ至上。それに情緒というならば、エプロンの持つ圧倒的非日常感を支えているのは、女性の大いなるサービス精神だということを忘れてはならない。これに応えずして何が男子か。燃えんでどうする。萌えんでどうする!」


 筆者は衝撃を受けた。

 なんと、サービス精神とな。それは盲点であった。

 エプロンに宿るサービス精神までをも観るとは、この男ただ者ではない。

 素晴らしきかなエプロン!

 エプロン師匠と呼んでもいいですか?



 しかしこの、思いもしなかった視点を与えられて価値観が揺らぐ感覚……なんか楽しいぞ?


 そう言えば、以前どこかで

「縄文式土器には、その造形や模様に女性的な色気があり、そこが私を惹き付けるのだ」

と主張する考古学者の文を読んだことがあるが、これも理解し難い感性だと流さずに、しっかり熟読しておけば良かったかと思う。


 そうすれば「土器といえば縄文式派? 弥生式派?」という質問にも、自信と熱意をもって

「断然、縄文式派! あのフォルムがたまらん!」

と答えられる人間になれたかもしれないのに。


 ……いやまあ、土器にエロティシズムを見出す感性を得たからってどないやねんという話ではあるのだが、こっちのほうが絶対に楽しいではないか。


 そして筆者は気付く。

 待てよ、別に今からでも遅くはないぞ。

 もしかすると他にも、エプロン師匠のような回心を与えてくれる存在がいるやも知れぬ。


 よし。ではちょいと聞き回ってみようか。

 主題はもちろん、生物の基本的欲求たるアレだ。

 こうして筆者は、いつものように意味不明な暴走を始めるのであった。

「まあ、ほんまはエプロンの下は水着の方が燃えるんやけどな」


「一生ついていきます師匠」

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