41 カマキリ師匠
カマキリ師匠(仮)というシャレのきつい友人がいる。
このカマキリ師匠は、一時期、Mという男の家庭に、週の半分くらいは入り浸っていたのだが。
ある時、Mが「カマキリ師匠なー、最近ウチの娘を泣かしよんねん」とこぼした。
事情を聞くに、いつからかカマキリ師匠はMの家に来る度に、Mの三才になる娘に向かい、
「カマキリ師匠! ま゛~~~~!!」
と、両手を振り上げ奇声を発しながら追いかけ回しているらしい。ちなみに手加減など一切なし。本気のカマキリ師匠である。
当然、三才の娘ちゃんは大泣き。
「相変わらずムチャクチャしよんなー、あいつ。嫁は怒らんの?」
「そらめっちゃ怒るわ。ウチに来るのはええけど娘は泣かすなっつって」
「《ウチに来るのはええ》んや。嫁ちゃんも中々の人物やな」
「そこはまあ、ウチの嫁やからな」
……などというやりとりをして数ヶ月。
ふとその話を思い出し、その後どうなったかを聞いてみた。
するとMは「最近あいつ、仕事が忙しくてあんまり来なくなったんやけど」と、何故か微妙な表情。
それはそれで、娘は泣かされないし嫁は怒らないしで良いではないかと訝ると、Mはこう続けた。
「こないだ家に帰ったらな、娘が寂しそうに『ししょー、今日も来ないの?』って。……ウチの娘、ヤバいかも知れん」
年端もいかぬ幼子の可能性まで拡げてしまうとは、さすがはカマキリ師匠。
カマキリ師匠よ永遠に。




