40 ウォーター・イン・ザ・イヤー
筆者は大木こだま・ひびきの漫才が好きだ。
あの独特のもったりした口調としゃがれ声が良い。「そんな奴おれへんやろ」とか「嘘やがな」とか、真似したくなるところが良い。
先日も、
「膝が笑ってるんや」
「膝は笑わへんやろ。膝が笑うたら夜中やかましいて寝られへんがな」
(略)
「目が泳いでたんや」
「目ぇは泳がへん」
などの「ことわざや慣用句を言葉面そのまま受け取る系」の定番ネタを見ていたのだが……。
ふと、思った。
そう言えば「寝耳に水」って、なんだこれ?
寝耳に水。正しくは「寝耳に水の入るごとし」といい、予想外の出来事や知らせに驚くという意味である。
しかしこれ、一体どういう状況だ?
寝ている間に床上浸水でもしているのか?
いや、もし浸水しているなら耳に水が入ってくるより先に身体が濡れているはずである。常人ならそれだけで起きる。
では雨漏りか?
いやいや、漏り水がたまたまピンポイントで耳に入るなんて、偶然に過ぎる。
ならば――こうか。
想像してみてほしい。
あなたはぐっすりと眠っている。
そこに何者かが、あなたの耳の奥の方を狙って、水を、一滴だけ……。
――ぴとん。
ぬおおおおお!!
こんなことをされたらビックリどころの騒ぎではない。
大パニックである。
そして人間不信に陥り、微かな人の気配にも飛び起きるようになるに違いない。この世から「安眠」という言葉が永遠に失われるのだ。
本当にもう、なんちゅうことをしやがるか。
実際にやったわけではないかも知れないが、少なくとも「驚くことの喩えとして、こういうことを考えたヤツ」はいるわけで。
一体どんだけイジワルなんだ、と言いたい。
と、ここまで考えて、気付いた。
よく考えたら「寝耳」というのは「寝ている人の耳」ではない。
この場合の耳とは「耳にする」や「小耳に挟む」、「耳に入る」の例もあるように「聞く」の意で、つまり寝耳とは「寝ながらにして夢うつつに聞く」という意味なのである。
なので、「寝耳に水」を最も正確に言うならば「寝耳に水(の音や洪水の知らせ)の入るごとし」であって、言葉面そのままに他人の耳に水を入れたヤツがいたわけではない。
こだま師匠も「そんなヤツおらへんやろ」と突っ込むことうけ合いである。
そう、そんな猟奇的な行いを為す人間など、いるわけがない。
人はみな、友愛で結ばれるべきである。
ゆえに、隣で寝ているヤツが、真夜中にこっそり自分の耳に水を入れるかも知れないなどと疑ってはいけないのだ。
……ところで話は変わりますが、筆者は最近、とても良い寝具を購入しました。
あまりに良い品なので、どなたか客人を迎えて使っていただき、この素晴らしさを分け合いたいと思っています。
これぞ隣人と手を繋ぐ友愛の精神というものです。




