34 飛ばねぇ紙はただの紙だ
友人と二人で本屋に行ったら、とても懐かしいものを発見した。
「よく飛ぶ紙飛行機集」
紙飛行機といっても折り紙を折って作るものではなく、切り抜いて張り合わせていくという、工作用の本である。
一冊につき十数機分が収められており、競技(あるのだ、これが)用ともなれば軽く一分を越える飛行時間記録を持っているという優れモノで、子供の頃、筆者の住んでいる地域で局地的な大ブームになったことがあるのだ。
「うわー、懐かしい! こんなんまだ売ってるんや」
というわけで早速購入、合わせてセメダインCも買い求め、すぐさま製作にかかった。
作るからには完璧に仕上げて長時間飛行させたいので、慎重に切り抜き、充分な強度と軽量化、重量バランスを実現すべく、セメダインで張り合わせていく。
おお、見よ、大人の計画性と技術力!
精密作業用カッターにアイロン、紙ヤスリまで導入して、しかも揚力を発生させるために凸型にたわませる主翼部の曲がりまで計算に入れて作ってやったぜ!
わははは、早く飛ばしたくて雑に作っていたあの頃とは違うのだよ!
いい気になって工程を進め、仕上げにサングラスを掛けた口ひげの豚を機首に描いて、完成。
そしてついに飛行実験である。
この飛行機には、機首部にクリップを加工したフックが取り付けてある。強力なゴムを引っかけてカタパルトにするためのものだ。
しかしいきなりコレを使ってはいけない。
まずは腕の力だけで飛ばし、おもりの加減、主翼のたわみ、尾翼や各補助翼の角度を調整しなくてはならない。
何も考えずにゴムカタパルトを使うと、物凄い勢いで地面に特攻して、処女飛行にして壊れてしまう、などという悲劇が起こりかねないのだ。
調整を重ねてセッティングを詰めていき、ある程度安定して飛ぶようになって、いよいよゴムカタパルトの登場である。
理想としては射出した勢いを全て上昇に使い、インメルマン・ターン(大雑把に言うと宙返りしながらの旋回)で最高高度に到達、あとは大きく旋回しながらゆっくりと降りてくる、という飛び方を目指したい。
――で、飛ばしてみたら、宙返りして急降下特攻されました、とか、動力降下状態で硬着陸のあげく大破しました、というのが本エッセイのいつものパターンなのだが、今回は違う。
めっっっさ飛びました。
さすがに大会記録に迫るような大飛行はしないものの、上手く風に乗った時などは一分近く飛んでいた。
これがまた嬉しいのだ。
さらに記録を伸ばすべく、時間を忘れて各部の手直しや射出角度などの調整を繰り返していると、いつの間にか小学生くらいの三人組の男の子たちが我々を遠巻きに眺めていた。
筆者と友人は少しだけ相談して、男の子たちに一機ずつ進呈することにした。
惜しい?
いやいや、渾身の最高傑作を譲り渡し、後進の目標となってこそ、初めてこの遊びは完結するのだ。
育てよ、追いついてこい子供たち!
なんてな事を思った訳ではない。ただの気まぐれである。
何より家には、まだ十機近くの機体が製作される時を待っているのだ。
うおお、飛行性能は落ちるらしいが、複葉機とか水上機とか、早く作りてええ!(これが本音)
そんなこともあって、キリが良いのでその日は解散して、後日、他の機体を作っていると、件の友人から連絡が。
「昔、骨組みが竹ひごでゴム動力のプロペラ機ってあったやろ。それ見つけてしもたんやけど、いる?」
筆者の答えはもちろん……。
というわけで、竹ひご飛行機編へふんわり続く。




