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27 おっぱいはジャスティス

 仕事上の関わりがある人で、とても腹の立つおっさんがいた。


 自分が偉いのは自分の所属する組織の中だけだ、ということを全く理解しておらず、下っぱとはいえ同組織でもない我々を完全無視し、挨拶されても返さないどころか視線すら寄越さない残念な人であった。

 それは社会人としてどうかと思う。



 さて、ある時、いつものようにガン無視された同僚が筆者の元へやってきて、ボヤいた。

「あのおっさん、仏頂面さげてホンっマ気分悪いわ」


 その気持ちはよく分かるので、こう言って慰めた。

「でもあのおっさん、よー聞いたら低ぅい声でオパーイオパーイ言うてたで」


 ひどい言いがかりに、同僚はふき出した。

「そんなん言うてたんか! あんな顔してたけど意外と機嫌良かったんやな」

「うん、いつもこんな顔してんのは、長年の苦しいオパーイ伝道で刻まれてもーたからや」

「そーか、実はええヤツやったんやなー」


 どうしてオパーイと唱えれば上機嫌でいいヤツなのか、とは突っ込んではいけない。ノリなんてなものはそんなもんである。


 こうしておっさんは極低音でオパーイオパーイと言っていることにされ、我々は彼の物マネと称して極低音でオパーイオパーイと言い続け、ストレスを解消したのであるが。


 数日後、その同僚が慌てたようにやってきた。

「オパーイが来た」

 既におっさん自体がオパーイと呼ばれている。

「おう。それが?」

「おれ、挨拶でけんかった」

「えー、失礼に失礼で返すのもオトナゲないで」

「違う。しようと思ったけど、でけへんかってん」

「なんやそれ」

「お前もすれ違ってきてみ。たぶん分かるから」


 というわけで、筆者もオパーイを迎えうちに行ってみた。

 すぐに敵影発見。筆者、前進。目標顔面、ロックオン。挨拶──

 しようとして、筆者は顔を逸らした。

 横隔膜が痙攣し、声を発することができない。いや、呼吸すらままならない。


 震える体を無理に押さえつけるようにすれ違い、筆者は同僚の元へ戻り──そこで大爆笑した。


「あ、あかん! 聞こえる。オパーイ言うてるのが聞こえる!」

「な、挨拶でけへんかったやろ」


 そう、あまりにも何回も脳内でオパーイにオパーイオパーイ言わせ続けたために、オパーイを見た瞬間にオパーイが自動再生されてしまうのだ。


「挨拶どころか顔も見れんかった」

 だってあいつ、仏頂面の極低音でオパーイオパーイ言うんだもの。


 しかもその頃には他の連中にもオパーイというあだ名が拡がっていたため──

 その日を境に、誰もオパーイに挨拶しなくなった。

 というか姿を見かけたら逃げた。


 それは社会人としてどうかと思う。

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