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25 泥団子バッティング

 二十歳そこそこの頃、経緯は省くが龍角散並みに粒子状かつ鉱質の砂が手に入り、友人と二人で泥団子を作ろうという話になった。


 泥団子と侮るなかれ。

 検索してみれば分かると思うが、作りようによっては顔が映るほどピカピカのものができてしまったりする、とても奥深い遊びなのだ。


 さて、このときの我々が目指したのは「硬さ」。

 泥団子どうしをぶつけて割れずに生き残った方が勝ち、という通称「団子相撲」をやろうというのである。


 作り方を大雑把に説明すると、

1、まず水を加えてドロドロにした粘土質の土を適当な大きさに丸め、水と空気を抜くように握り固める。


2、次に表面に残ったわずかな水分を利用して、土を振りかけて真球になるように凸凹を埋め、さらに固めてゆく。


3、休ませる。


4、さらさらの砂をまぶして手のひらで丹念に転がしたり擦ったりして、表面をコーティングしてゆく。


 大体こんな感じであるが、泥団子の硬さとは仕上げに用いる砂と研磨にあると推測した我々は、核となる部分も全て例の砂で製作することにした。


 後の調べによるとこの考えは半分間違えていたのだがそれは置いておくとして、一週間後、いくつかの泥団子が完成した。



 さっそく山に面した自然公園まで出掛け、勝負する。

 ルールは簡単。

 片方が団子を地面に置き、もう片方がそれを狙って上から団子を落とす。

 双方割れなければ攻守交代。

 それだけである。


 ──が、お互い硬すぎて、勝負がつかない。

 かすかなキズはつくものの、ぶつけてもぶつけても割れないのだ。

 大きさが三~四センチと、小ぶりだったのも裏目に出たようだ。


 試しにコンクリート舗装に軽く叩きつけてみたが、それでも割れない。

「こんなに硬かったら目線から落としたくらいで割れるわけないか。引き分けやな」

 筆者は泥団子を山へ投げ入れた。


 友人もそれに倣おうとしたが、

「そういや俺、先週草野球で使ったバットを車に積みっぱなしやったわ」

と、金属バットを取り出した。


 泥団子はキン、と軽やかな音を立てて、木々の合間に吸い込まれていった。

 ちなみに泥団子は割れなかった。

「今のでも割れんかったな。ほとんど石やん」


 友人は満足げに笑い、筆者は悔しがった。

「あー。俺も打ちたかったなー」

「それ打ったらえーやん」


 友人が指したのは、例の砂の残りをかき集めて握りこんだだけで硬化処理をしていない、テニスボールほどの泥団子である。


「でもこれ硬くしてへんし。……まあいーか、打とう。どーせやから思いっきりかっ飛ばしてやる」

 こうして筆者も泥団子バッティングをすることになった。


 友人が横からトス。

 筆者、渾身のフルスイング!

 ジャストミート!


 爆発しました。


 かしゅ、という気の抜けた音。煙幕の如く拡がる砂煙。飛距離ゼロ!


「いま、何か飛んだか?」

「いや。何も飛んでない」

「あれか、水風船を思いきり叩いたら飛ばずにその場で爆発すんのと同じ現象か、これ?」


 それにしても、ボール一個分の質量が綺麗さっぱり消滅するとは(いや空中に拡散してるんだけど)。

 大いに満足した筆者は、顔を洗いに行った。

 爆心地にいたので、粉まみれになっていたのである。



 後日、友人の女の子に嬉々としてこの話をしたら、冷たい目で「アホ」と一蹴された。

 ぬう、浪漫を解さぬ奴め!

 でも反論は出来ません。

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