23 僕がどれだけ君を愛しているか、君は知らない
あれは何年前だったか、月が変わって七月になった朝のこと。
筆者のスマホのカレンダーにメモ書きがあった。日付は七月四日。
なんか予定でも入れてたっけ、と思いながらそのメモを開いてみると。
独立記念日。そう書いてあった。
──なんじゃこれ?
全く思い当たるモノがない。それどころかメモ書きした覚えすらない。かの国が独立した日だからって、いったいおれに何の関係があるとゆーのだ。
筆者は思った。これは、まさか。
何か、嫁はんにかかわることではないのか。
マズい。全く心当たりがない! ぜんっぜん、ない!
何か約束してたっけ? 覚えていない。
では何かの記念日か? 覚えていない。
妻は世の多くの女性がそうであるように、記念日が好きだ。
筆者は世の多くの男性がそうであるように、記念日が覚えられない。(最近はそうでもないのか?)
結婚記念日ですら、「どーせ忘れるやろうから」と、指環に刻印している、というかされてしまったくらいである。
マズい。必死に考えるが、やはり何も心当たりがない。
では何か約束をしていたのか。
分からない。
読者諸兄は、約束があったのならもっと具体的に書くのではないかと思うかも知れないが、しかし筆者は自分のスマホを妻に自由に触らせているので、具体的にメモしているのを見つかって
「ふーん。私は楽しみにしているのに、あんたはわざわざメモを取って置かないと忘れるんやね。ふーん」
という展開になるのを恐れたのではないかと考えた。
しかし策士、策に溺れる。
どれだけ考えても全く何も思い出せない!
いよいよ行き詰まった筆者は、Xデーまであと三日もあるのだし、そのうち思い出すだろうと無理矢理楽観的に構えることにした。
が。七月三日。翌日に運命の日を迎えようかという段になっても、やっぱり何も思いつかない。
筆者は観念した。
当日に忘れていたことがバレるよりも、今のうちに告白しておいた方が彼女の怒りも治まりやすかろうと、夕食時にさりげなぁく聞いてみた。
「明日って、何の日だっけ」
妻は答えた「ん? 独立記念日」。
あまりにもあっさりと答えるので、筆者はやはり独立記念日にちなんだ何かの約束をしていたのだと確信した。
「いや……ごめん、スマホのカレンダーに独立記念日ってメモがあってんけど、どうしても思い出せへんねん。何か予定してたっけ」
妻は笑った。
「あ、それ書いたん私。何もないけど、なんとなくメモしただけ」
「……………………ほほぉう」
てめぇこの野郎!
また何か忘れてしまったのだと、どんだけビビってたと思うんだ。
おれの三日間の苦悩を返せ!
「そんなに怒らんでも」
彼女は言った。
あのね、君。
ひとこと言わせてもらうよ。
僕がどれだけ君を愛しているか、君は知らない。




