22 ところで、文殊ってなんだ?
京都でお好み焼きを食べていたときのこと。
一緒に食べていた友人の一人が、手にしたお好み焼き専用の平べったい食器を持ち上げて、
「あれ、これってなんていうんやったっけ。コテ? テコ?」
我々は答えた。
「コテ」「テコ」
「――え?」
見事に意見が分かれ、論争勃発。
「コテやろ。テコ言うたら梃子の原理のテコやろ」
「それ言うたらコテは籠手やん」
「コテやって。うちはそう言うてる」
「うちはテコって言うてる……けど、だんだん自信なくなってきた。コテかな」
「いや待って。おれも分からんなってきた」
それぞれがそれぞれの主張をするものの、コテテココテテコ言っているうちに、次第に何を言っているのか、分からなくなってくる。
こういうのもゲシュタルト崩壊って言うんだろうか。
「おれは両方聞いたことある気がする」
と、これは問題提起した奴の言。
「両方ってお前。んなアホな」
いよいよ行き詰まった我々は、ならば店の人に聞いてみれば良いではないかという思いつきを得て、そこの店主に訊ねた。
「すみません、これって何て言うんでしたっけ。コテ? テコ?」
店主のおじさんは柔らかに微笑んで、こう答えた。
「わたしらはヘラ言うてます」
教訓。「三人寄れば文殊の知恵」というのは、嘘である。
追記:
後に調べたところによると、コテ、テコ、ヘラ、全部正解。
関西において最も一般的なのはコテだが、地方によって呼び名が変わるらしい。




