21 それ絶対やったらあかん――チャレンジ鍼(後編)
筆者は悶えた。
確かに「痛い」とは違う。違うが、これは。
例えるなら、腕の中に砲丸を落とされた感じ。
痛みが認識できないほどの激しい鈍痛。
なるほど、痛くはないが、「重くて」「キツい」。
声にならない呻きを上げる筆者を見て、シンが「ごめん、ちょっとキツすぎたみたいやな」と普通の状態に戻してくれた。
「なにいまの。とんでもないな」
「もう抜くか?」
「いや、もうちょい楽しんどく」
「んじゃ先にHの鍼、抜いてくるわ」
Hの鍼を順番に抜き始めたシンを眺めながら、筆者は密かにほくそ笑んだ。
実はもう一つ、試してみたいことがあったのだ。
鍼を打ち込んでもらう際、シンが脱力しろと言っていたので、ではこの状態で力を入れたらどうなるのか? と疑問に思っていたのである。
シンにバレないようにこっそりと、わずかに小指を動かしてみた。何も感じない。
普通に動かしてみる。何も感じない。
では……と、少しでも痛みを感じたらすぐに止めるつもりで、ちょっとずつ小指に力を入れてゆく。何も感じない。
ならば薬指も、中指も、とやっていると……。
「おい。お前、力入れてるやろ」
そこにシン登場。
めちゃくちゃ怒られました。
ほんまにもうお前は、とプリプリ怒りながら鍼を抜こうとしたシンは、「ほら、めっちゃ抜けにくくなってるやんけ」と言った。
なんでも筋肉が収縮することによって、鍼をがっちりとくわえこんでしまったらしい。
それでも一本、二本と抜いてくれたのだが、三本目がどうしても抜けない。
シンが足を踏みしめ何度か持ちかえて、全身の力を使ってやっと抜けたとき、筆者は戦慄を覚えた。
抜けた鍼が、Z型に曲がっていたのだ。
くの字ではない。鋭角なZの字である。
「あーあ、たぶんこれ、筋繊維に傷ついたで」
シンは呆れて言った。
「どんだけ力入れとってん」
ごめんなさい、実はシンが来た頃には腕全体で全力出してました。
だって痛くなかったんだもん。つい。
「後遺症みたいなん残るかも知れんで」
改めて説教を始めたシンのもとへ、着替えてきたHがやってきて、「ありがとう、嘘みたいに治った!」と、首をぐるんぐるん回した。
筆者は思った。鍼スゲー。
一方、筆者には、たまに左肘が軽く疼くという後遺症が残った。
筆者は思う。鍼怖ぇ。
お医者さんの言いつけはきちんと守りましょう。




