20 それ絶対やったらあかん――チャレンジ鍼(前編)
元鍼灸師の友人がいる。仮にシン(仮)としよう。
あるときシンは、中華料理店を経営する共通の友人Hから、首をひどく寝違えてしまったので、いっちょブスッとやってくれぬか、と頼まれた。
その話を聞いた筆者は、面白そうなのでついて行くことにしたのだが。
シンと二人、晩飯時に到着。自動的に出される食い物とビールをやりながら、Hの体が空くのを待つ。
Hは一流の料理人である。
首が面白い角度になっているのに、その仕事に遜色など微塵もない。
てきとーに呑みながら待ってるからツマミとか作ったりして仕事を増やさなくていーよと言っているのに、絶妙なタイミングで途切れることなく食い物が出てくる。
プロだ。
まあ、それをほいほい食いまくってガバガバ呑みまくる我々もどうかと思うが。
あ、ちなみに施術者のシンも呑んでました。これだから酒呑みは……(お前が言うな)。
さて、やがて忙しさが落ち着いた21時頃、なんとか体が空いたHと共に、座敷の一角で施術開始。
上半身裸でうつ伏せになってもらい、次々と鍼を打っていくシン。
首まわりに始まって、肩、背中、腰と、Hの体はあっという間に針ネズミのようになってしまった。
え、鍼ってこんなに打ちまくるもんなの?
シン曰く鍼灸には様々な流派(?)があり、自分が学んだ流派ではたくさん打つのだ、とのこと。
なるほど……。面白い。見物しにきてよかった。
これはよい肴だ。ビールが旨い。
「へー、いーなー。面白い。いーなー」
興味津々で眺めていると、シンが「あとでお前にもやったろか?」と言ってきた。
「へ、別にどこも悪くないけど、いーの?」
「薬とちゃうねんから大丈夫」
「マジか! やってくれやってくれ」
というわけで、Hに続いて筆者も打ってもらえることになった。
打つ場所は左肘。「その方がじっくり観察できるやろ」と、さすがはシン、わかっていらっしゃる。
で。体験してみて分かったことだが、想像していたような痛みは全くなかった。鍼の先端が皮膚を突き破るときに「ん?」という程度の感触があっただけである。
我が眼前で、ずぶずぶと刺さっていく鍼。少なくとも軽く三センチは刺さっているのに、なーんにも感じない。
ちょっと場所を変えて三本打ってもらったのだが、全部そんな感じだった。
スゲー。鍼スゲー。
我が肘にぶっ刺さった鍼を肴に、上機嫌でビールを呑む。
ついでなのでちょっと質問をしてみた。
実はHへの施術中、彼らが「どう、キツくない?」「ちょっと重いかな」などというやりとりをしていて、それがとても気になっていたのだ。
刺さっているのは鍼である。針である。
なのになぜ、「痛い」ではなく「キツい」「重い」なのか?
「じゃあちょっとキツめにやってみよか」
質問を受けたシンが、おもむろに三本のうちの一つを掴んで、くりくりっとさらに深く刺した瞬間――
ドゴンッ、ときた。
(後編へ続く)