02 《おかふぐ》って知ってますか
筆者はちょっとだけ、中国武術をかじっている。
今回はウチの師父から聞いた話です。
数年前、まだ筆者が入門する前だが顔見知りではあった頃、師父が中国へ武者修行へ行くと言いだした。
どこぞの漫画キャラよろしく幾つかの流派を修めた師父が、いまさら何をしに行くのか疑問に思ったので、軽い気持ちで聞いてみた。
「中国で、具体的には何をしますのん?」
「今までは現代武術っていうのをやってたんですけど、今回は伝統武術という、早い話が人を殺す技術を教わりに行くんです」
さらーっと、ヘビーな答えが返ってきました。
いったいドコに行きたいんだアンタは。いや中国へって意味じゃなくて。で、もう帰ってこれなくなるのね。いや中国からって意味やなくて。
なんてなことを思った筆者だが、まだ死ぬのは困るので黙っておいた。我ながら賢明な判断である。
とまあ、そんな師父なので、
日本に青龍刀を持ち込もうとして捕まったとか、
NYでのストリートファイト、
小学校にもあがっていないよーなガキに銃で脅されてカツアゲられた話など、
面白い話をたくさんしてくれるのだが、その時の中国行の土産話で、筆者が最も興味を持ったのは以下のエピソードである。
――ある日、武術兄弟(同門の兄弟弟子の事)の飼い猫が遊びに出たきり帰ってこなくなってしまった。
猫は己の死を飼い主に見せない(こともある)が、たぶん今回のは違うらしい。
必死の捜索も虚しく猫は見つからず、最後にその武術兄弟はこう呟いたとさ。
「誰かに食べられちゃったのかなあ……」
ちょっと待て。――誰かに?
スゲーな中国。
いや、かの国の食文化をどーこー言う訳ではない。悪食にかけては日本人もかなりのものだからだ。
驚くべきは、
ウチのネコが、
ご近所さんに、
喰われたかもしれない
とゆー発想がごく自然に出てくるという点である。
否、あるいは冗談だったのだろうか。
小粋なチャイニーズ・ジョークなのか?
そこんトコどーなんだ中国?
すっっっごく気になるぞ。
とゆーわけで、タイトルの《おかふぐ》とは猫のことなのである。
ネコなのだ。四本脚でニャアと鳴く。
もちろん歴とした日本語である。つまり、かつてはあったのだ。そーゆー文化が。本邦にも。
ちなみに漢字で書くと「陸河豚」であり、その哺乳類という属性すら彼岸の彼方へ葬り去ったネーミングの由来は、漫画「ドラえもん」の「ネコが会社をつくったよ」(うろ覚え)とゆー回に出てくる、まるっきりネコ顔のあるキャラクターが雄弁に教えてくれている。
曰く、
「あんなにウマいものはない!」
……マ、マジッスか。
うちの子だけは勘弁して下さい……。