18 目と目で通じ合う、おっさんども
友人たちと三人で、久しぶりに地元で有名なラーメン屋に行ってみた。
三人とも特にハラがへっていたわけでなく、また数年ぶりの入店でどんな味だったのかほとんど覚えていなかったので、そこのウリであるラーメンとカレーライスをそれぞれ大盛で一つずつ注文し、皆で回し食いすることにした。
ちなみに何故ラーメン屋のウリにカレーが? という疑問はスルーである。
まずはカレーライス到着。具に鶏肉を使っている。そーいやこの店はトリも隠れたウリにしていた。
喰らう。
なるほど、確かに旨い。とても濃厚な味だ。いやかなり濃厚だ。いやいやちょっと待て、めちゃめちゃ脂っこくないか?
となれば鶏肉本体は……やはり尋常でない脂だ。鶏肉ってこんなに脂っこかったっけ?
我々は辺りをはばかりながら小声で感想を述べあった。
「どう思う?」
「あるSF作家がアメリカに取材に行ったときの旅行記で、アジア人の味覚は五つか六つだというが、アメリカ人の味覚は甘い、辛い、油っこいの三つだ!! って言ってたのを思い出した」
「……まあ、そーゆーことやな」
「この店ってこんなに脂っこかったっけ」
「強力な進化をとげとるな」
「いやそれ間違ってるから」
「強敵やな」
そしてなんとか三人がかりで残り四分の一ぐらいまでやっつけた頃。
「あかん、そろそろ限界が近付いてるねんけど」
「おれも。きっついなこれ」
「あえて言うけど、まだこの後ラーメンが大盛で来るねんで」
「意外とラーメンの方はあっさりしてるとか」
「ないな」
「ないな」
「ないやろなぁ」
などと言うとるところへ、ラーメン到着。
祈りを込めてソレを注視する。
祈りはやっぱり虚しかった。
我々の希望を嘲笑い踏みにじり凌辱するかのよーなその姿。
見る者全てにアイアム・アブラ! ザ・アブラ! と主張するその居ずまい。
バックにゴゴゴゴゴという書き文字が見えた。
はたして憐れな男達は、ただ黙して互いを見つめ合うばかりであった。(まだ店員さんが真横にいたので)
というわけで以下、帰りの車中の会話。
「いやー参った。きっつかったあー」
「ちょっと異常やろアレは」
「でもウマそーにがっついてる奴もいっぱいおったで。特に若いの」
「わしらもトシやっちゅーコトか? なんか負けた気分やな」
「フツーに大惨敗やろ」
「いやもう負けでえーわ」
「ところでラーメンが来たとき、おれら心が通じ合ったと思わへん?」
「通じた通じた。何が言いたいか解ったもんな」
「目で会話ってほんまに出来るねんな」
「あの瞬間のおれらが(サッカー)代表のフォワードやったら、三人だけでカテナチオ時代のイタリア突破できたで」
「よし今から売り込みに行こか」
「でももうあんな極限状態になるんイヤや」
「ですよね」
この内容から、何があったのか察していただきたい。
知ってやすか旦那。あんまり口の中が脂っこいと、ただの水がドえれぇ甘く感じるんですぜ。
何杯飲んでも。




