08話「対空火器施設破壊」
細った月明かりが弱い夜、暗い操縦席内では計器類、文字が赤、青、緑、黄や橙色などの単純な色で発光表示される。バックライトを備えた液晶画面のほうが見易いが、それだと暗い夜空にポッカリとその明かりが浮かび上がってしまう。海軍の話だが、灯火管制をしていても甲板上で煙草を吸っていた船員が一人いたせいで敵に発見されたという事例もある。空で似たような話は聞かないが、かと言ってそうやって教科書に載るのはお断りだ。
ルファーラン共和国に拠点をおく民間軍事企業ベルガント社所属の戦闘航空編隊は、航行途中での三度に渡る空中給油も無事終え、遠路ハンダラット国上空へと到達。マンゼア帝国の人工衛星の機能を拝借できたおかげで、現在位置の逐次確認が出来たので非常に楽な航行になった。計画的な空中給油も人工衛星のおかげ。宇宙技術様々である。
近距離専用の、傍受不可能なレーザー通信で僚機と会話。
「まもなく作戦空域に到達。目的の再確認。マンゼア帝国軍空挺部隊の降下支援並びに同軍海兵隊の上陸支援を行う。上陸、降下地点にある要塞に設置された対空火器の無力化を第一に目指す。ハリネズミのような対空砲火の中へ降下する空挺さん方の苦労を少しでも減らしてあげないといけない。事前にマンゼア帝国空軍の戦略偵察機が入手した各種航空写真を元に攻撃箇所を絞った。肝心のマンゼア帝国空軍様だが、海兵隊の上陸艦艇を守る任務があるためにこの対空火器制圧任務には参加しない。我々が危険を取り払った後に地上部隊の撃滅に乗り出す。そうしてからやっと空挺部隊が降下し、海兵隊が上陸する。分かったか?」
――了解
無線から返事四つ。
「了解」
前部座席から返事一つ。この多用途電子戦機は複座式で、操縦と電子戦担当に分かれる。操縦はマトラ=アラディン、電子戦はサリア=リシャネン。サリアはこの戦闘航空編隊の長でもある。
微弱なレーダー波らしき電波をレーダー画面で確認。一見するとただ雑電波を少し拾ったかもしれないという変化だけ。利得を弄ってその電磁波を仮想上で増幅させ、そして電波解析機に通す。結果、捜索レーダー波であると判明する。
「敵の対空レーダー網に引っかかり始めたぞ。注意しろ」
電波妨害機を使い、探知した敵の捜索レーダー波と同じ周波数帯のレーダー波を複製して乱照射。敵の捜索レーダー波の周波数帯が変化し始めるが、敵よりは高性能の電波妨害機が対応し続ける。
「捕捉される前に潰すぞ。三番機、対レーダーミサイル発射しろ。まず一発」
この対レーダーミサイルは指定したレーダー波発生源に突入する誘導方式を取る。複製したレーダー波を乱照射しているので、このミサイルを探知するのは至難。
――三番機、対レーダーミサイル発射します
「マトラージャ、高度上げろ」
「了解」
高度を取ったほうがやりやすい作業がある。戦略偵察機が撮影した航空写真を見ながら、対地上レーダー装置で地表を三次元に視覚化した映像を見て照合する。そしてその位置、各対空火器に対して射撃レーダー波を照射する。
僚機にも勿論射撃レーダー装置は積んであるが、より高性能な装置を積んだこの多用途電子戦機の方が精確な仕事が出来る。
レーダー画面に映っていた敵捜索レーダー波が消失。少し待って再度照射されないか確認……されない。
射撃レーダー波で指定された全一七三目標を捕捉。各機に搭載された対地ミサイルは八発ずつ。これで最大四〇目標の撃破が可能。
各機別に八目標を、対空火器を優先して割り当てる。対地レーダー画面に移っている目標を触って選択、タッチパネル方式だ。八つ選んだら二番機へ送信、また八つ選んだら三番機へ送信、この作業を繰り返して五番機まで送信する。一番機はこの機体だ。
「各機、地上目標の捕捉データを受信したか確認しろ。確認したら返事しろ」
――二番機、確認です
――三番機、確認
――バッチリだぜ
「おい何だって?」
――四番機、確認しましたです
――五番機、確認しました
「よし各機発射しろ」
「了解」
――了解
機体が小さく揺れ、翼の下から一発ずつ対地ミサイルが発射炎を引いて地上へ向けて射出され、その度に重りを失って加速する。それが四回。
「五番機、高度を上げて待機しろ」
――五番機了解です
敵射撃レーダー波感知。複製して乱照射。敵射撃レーダー波の周波数が変化し始める。電波妨害機もそれに対応。
真っ暗な地上から光の筋が何本も上がる。探照灯だ。原始的だがこれが曲者、一瞬でも機影を視認されたら進行方向へ向けて地上から砲弾が雨のように昇って来る。
対地上レーダー画面に顕著な変化。目標が一三七個までに減少。四発も外れたか。
残存一三七目標へは機関砲とロケット弾による攻撃を行う。機関砲だけでも主力戦車を撃破可能な威力があるから十分。
「二番機、残存目標のデータを送る。受信が確認できたら返事、その後地上攻撃に移れ。お前にしかできない」
地上から曳光弾混じりの砲弾が昇り始めた。盲滅法に撃っているのだが、それが危険なのだ。どこへ避ければ当たらないということがない。
――二番機了解です
敵捜索レーダー波を再び感知。解析機に通して識別、方角と種類が判明。先より低性能の捜索レーダー波と判明。先のがささやき声ならこれは大砲。五月蝿すぎて何処に要るのか直ぐ分かる。敵捜索レーダー波と全く同じレーダー波を複製し、全く違う方向に我々がいると思わせる電子妨害をかける。
「三番機、対レーダーミサイル発射しろ」
――三番機、対レーダーミサイル発射します
――こちら二番機、受信確認。地上攻撃に移ります
「了解。三番機、二番機を援護しろ」
――三番機了解
捜索レーダーが敵編隊を捉える、全部で五機。射撃レーダー範囲内に進入したことも告げる。射撃レーダー波を敵編隊五機全てに照射。敵五機を捕捉。大きく散開し始めたことを確認。
敵編隊が四機に減少。対レーダーミサイルが命中したようだ。
この一撃で敵航空編隊の機能をほぼ完全に失わせることも有り得る。ベルガント社では予備機を除けば満足のいくレーダー機器を搭載している。しかしこの混乱した世界、航空機の頭数を揃えなければいけないような国ではそうもいかず、隊長機にのみ高価なレーダー機器を装備させ、僚機はミサイルを運んで撃つだけで誘導は隊長機任せという部隊もある。無線通信のみでどうにかする部隊もあると聞く。勿論例外はあるので油断はできないが。
四番機には中距離対空ミサイルが四発ある。丁度良い。敵編隊の捕捉データをその四発に送信。
「四番機、中距離対空ミサイル、全弾発射しろ」
――りよう解。まもなく発射しまーす
敵編隊の機影を射撃レーダー装置が失探、捜索レーダー画面には霧がかかったように表示されて敵編隊が見えなくなった。チャフを散布してレーダー波を反射する物体を増やしたらしい。チャフは妨害したいレーダー波の周波数帯に合わせて長さを決めないと効果が薄い。
捜索レーダー波と射撃レーダー波の周波数が自動的に変更され、敵編隊を再度捕捉。発射された四発の中距離対空ミサイルへ新しい敵編隊の捕捉データを送信。
捜索レーダー波で新たに敵編隊を捕捉。更に三機。
「四番機、そちらの捜索レーダー画面での三機の増援は確認出来ているか?」
――バッチリ確認できてますよ
「相手をしてこい」
――あいさー
「二番機、状況報せろ」
対地上レーダー画面でも順調に対空火器を破壊していることを確認できるが、生の声を聞く。
――二番機、順調ですよ! 探照灯がうるさいが奴等盲撃ちだ。ケツにもカスらねぇ
「三番機の援護外しても問題ないか?」
――問題ありません
「三番機、四番機の援護に回れ」
――三番機了解
捜索レーダー画面で確認、中距離対空ミサイルにより最初の敵編隊の残機ニ機。
「マトラージャ、落とし損ねのニ機をやれ」
「了解」
戦略偵察機の航空写真の一つに地表の熱頒布を捉えた物がある。それを航空写真と照らし合わせ、専門家が発電機もしくは変圧器の位置を確認した。要するに熱、電力が集まっている地点だ。そこを地上部隊がレーザー誘導装置で設定し、そこへ五番機に搭載した地表貫通弾を落とすのだ。
翼端に装備した短距離対空ミサイルが発射される。敵ニ機へ向けて一発ずつ、発射炎を引いて飛翔。
わざわざ地上部隊が直接現地に赴いて位置を確認する必要があるのは、地表の熱頒布を捉える写真の現物を見れば理由も分かる。かなりお粗末な代物だからだ。
敵対空ミサイルニ発、接近を確認。猛烈に下降しながら、ミサイルの熱源探知能力を逆手にとった囮のフレアーが射出される。身体全体に慣性重力がかかる。いくら慣れても苦しいものは苦しい。
積載限界まで兵器を搭載してきたが、たったの五機では全ての対空火器は制圧することは叶わない。停電させることにより、電力を必要とする大型の対空火器を沈黙させることができる。そして空挺部隊と我々のためにも探照灯も沈黙させねばならない。また海上へ向けた要塞砲が海兵隊にとって一番の脅威だ。こちらは情報が入っていないが、おそらくこの非常に大型と思われる要塞砲も砲弾の装填装置などに電力が必要なはずだ。まさか人力で運べる程度の砲弾ではあるまい。
一発は見当外れの方向へ向かい運動エネルギーを失って失速。一発はフレアーの高熱に反応して誤爆。
捜索レーダー波でまた新たに敵編隊を捕捉。今度は八機。弾数が足りるかな?
連一とサイは闇夜に紛れて進む。肌は目立つので、着ている砂漠迷彩柄の野戦服に色を合わせて塗ってある。
吐息が白くなるぐらい冷え込んできているが、ここであの全身タイツみたいな化学防護服が役に立つ。寒気で袋も縮んで良い具合。
ここは見渡す限りの草原でもなければ鬱蒼とした森林でもない乾燥地域だが、草木は元気に生い茂っている。土地の乾燥化を防ぐための灌漑が密になされているからだ。戦争中だというのにその灌漑の管理人達が忙しく整備を行っている姿を何度も見てきた。給料のためとはいえ、彼等が代々苦心してきたこの地面の上で戦うのは気が引ける。
行く先を蛇が横断する。頭を思いっきり踏んづけて進む。
背中に背負った、暗視スコープ付きレーザー誘導装置一式とそれに使える足の長さが調節できる三脚は、アルミ合金製の軽くて腐食性にも携帯性にも優れた物らしい、が如何せん重たい。弱音吐くほどでもないが。
「もっとタフな奴選べよ。化物みたいな同族様がいるだろ」
ヴェルンハント連隊の大半はダルクハイド族だ。連一以上の猛者なんて掃いて捨てるほどいる。
「私のこと嫌い?」
「大好き」
「じゃいいでしょ」
「本音は何だよ。素っ裸見た復讐か?」
「何それ?」分かり易いほど首を傾げ、「新人はよく働くとこ見せとけっていう気遣い。勿論、受け売り」
「あうん、ノルグか?」
「女の歩兵なんて実績なきゃ売女呼ばわりが関の山でしょ? 出来るところ見せてみろってね」
「おー、おぉお」
暗い夜空では両軍の戦闘機が空中戦を行っている。時折、流れてきた機関砲弾や対空砲弾が広範囲にバラ撒かれ、地面から土煙が噴きあがる。予測して避けるのは不可能。処理すれば避けようがある地雷原の方がまだマシだ。
「凄ぇ馬鹿なことしてる気にならないか? 砲弾降ってるところ歩いてんだぜ」
「弾は臆病者から当たる。昔の将軍の言葉」
「どこでも似たような言葉吐く奴がいるんだな。死んだら骨は拾ってくれ」
「骨? 肝臓なら喰ってあげてもいいけど」
「その言葉は聞いたことがない」
上空数千メートル以上の戦いだが、ジェットエンジン、機関砲、ミサイルの爆音が常に耳を震わせ続けている。音だけで命が削れそう。
そして上空で閃光が走る。明かりに照らされ、戦闘機が空中で分解する様が一瞬見える。
「止まって」
サイは手の平をこちらに向けて制止の合図、歩きを止める。闇夜に光る銀色の目でサイは空をじっくり見る。
「あなた左」人差し指で左を指し、「私右に動く」、親指で右を指す。「五、六歩で十分」
サイは右へ移動、連一は左に移動。そして、直ぐ脇をカスめて飛んでいく戦闘機の破片。地面には大きく抉れた直線跡。
「分かった。臆病者は身体が動かなくなるから死ぬ」
「お勉強になったね」
目的地へ進む。任務は爆撃地点の指示。目標は地面の下にあると思われる発電所もしくは変電所。航空写真を基にその地点まで行き、ダルクハイド族の優れた五感を活かしてその位置を特定するのだ。
数日前、現地偵察のためにハルハフハンド城に駐留している部隊の中から偵察隊を選抜して派遣することになった。そしてヴェルンハント連隊からも一部隊を編成して派遣、シログ川西部支流域を偵察することになった。
ハルハフハンド城は制圧したものの、それ以外の地域は完全に敵勢力圏内。航空偵察だけでは分からない地域の情報を集めるために出発。集落を略奪する脱走兵を目にしながら順調に警備状況を偵察し、報告書を作成していた。そしてベルガント社情報部の有翼人、レイヴが命令文書とこのレーザー誘導装置一式とその説明書を持ってきて爆撃地点を指示する任務を持ってきた。ノルグは快諾、「よしサイ、一人選んで行け!」と一声。顔面掴まれて引き摺られ、現在に至る。
目標地点近く、草が生えていて地面が大きく盛り上がっている地点に到着。他の偵察部隊からこの位置がいいと教えてもらったのだ。本当によく見渡せる上に身を隠せる良い場所だ。
レーザー誘導装置に足を短く調節した三脚を装着して地面に設置、腹這いになって暗視スコープを覗く。
スコープ越しの緑掛かった視界には、複数の防塁が連なっている要塞の姿が闇夜に映る。そこから空へ向けて探照灯が照らされている。爆撃を受けながらも果敢に空へ向けて当たるか当たらないか分からない機関砲、高射砲をぶっ放している対空火器群がそれに乗っかっている。陸側は鉄柵に囲まれ、その中には小屋やテントに馬小屋、電信柱に監視塔、対空機関砲座に高射砲座、そして破壊された防空レーダー。
警備兵、施設要員の姿も見える。派手な空中戦、爆撃をやらかしてるのでこちらへ注意が払われるような気配はない。
サイは肩の携帯無線機にイヤホンをつけ、耳に装着。それを確認してから連一は肩の携帯無線機のボタンを押して小声で喋る。
「聞こえるか?」
サイは携帯無線機のボタンを押し、指でコツコツ叩く。その音が携帯無線機から聞こえる。
「よし」
手振りでサイへ行けと合図。サイは帽子の顎紐をきつく締めてから、四足獣のような体勢で身を低くし、尚且つ静かに素早く移動を始める。全く別の生き物だということを実感する。ダルクハイド族がいるヴェルンハント連隊へこの任務を持ってきた理由が分かろうというものだ。あの動きはいくら訓練したって真似出来ない
サイは鉄柵の内側と繋がるコンクリート造りの用水路に潜り、敷地内へ入る。携帯無線機は防水仕様だから問題ない。そして目立たない所で土を服に擦りつけて水分を抜く作業を行う。
木箱に腰掛けて不安げに空を見ている敵歩兵を発見。侵入口近くにいる。
「そいつは退く時に邪魔になりそうだ」
サイは忍び寄り、口と首を掴む。そしてそいつは項垂れて動かなくなる。握り潰したか。
「目の前の通り、右から巡回中の兵士二名。懐中電灯を持っている」
サイは草むらに隠れる。敵歩兵二人が近くを通り過ぎる直前、背後について左の短剣で一人の首の後ろを刺し、もう一人の首へ右の山刀を食い込ませる。手から得物を離し、二人が倒れる前に腰を掴んで草むらへ引き倒す。懐中電灯の電源を切る。
サイは地面に耳を向けながら四足獣のような体勢で進む。どうにも気色悪い。
「止まれ、隠れろ。直ぐ先の十字路を集団が通過する」
電信柱の陰にサイは隠れる。荷車に荷物を山のようにのせた敵の集団が十字路を駆け抜ける。腕を伸ばして指差し、何かを指示する少し身形が派手な敵士官。そいつは一人だけ集団から離れてサイ側の通りを走り、躓いて転び、起き上がって走り去る。
コツコツ。
「どういたしまして」
サイは地面に聞き耳を立てながらあの体勢で十字路を左に進む。その先には忙しく機関砲弾を空へ撃ち上げる対空機関砲座。弾薬を運ぶ兵士が忙しく動き回っている。
真後ろからジェットエンジンの爆音が響く。ケツの穴が締まる。機関砲弾が小屋を潰しながらその対空機関砲座を破壊。
「無事か?」
コツコツ。
しかし埃が舞い上がってサイの姿を見失う。位置は破壊された対空機関砲座周辺なのだが。
走ってその場から離れる一人の敵歩兵。そいつの頭に山刀が突き刺さり、それを抜きにくるサイ。もうちょっと心配させてくれてもいいんじゃないか?
そしてまたあの体勢になって進む。馬小屋の前にある、鉄柵を潜るのに使用した用水路と繋がった先、同じくコンクリートで出来た大きな溜池でサイは動きを止める。そしてその溜池の中に入り、水中へ潜る。直ぐに頭を出して外へ出る。次にあの体勢になって馬小屋と溜池を挟んで向かい側にある小屋へ向かう。中間地点で一度歩みを止め、また進んで小屋へ入る。
視界外に消えて不安を覚える。見えていようがいまいが実際のところ関係はないのだが。あ、心配させやがって。
サイが入った小屋を見ながら、上空の空中戦を聞く。相変わらずジェットエンジン、機関砲、ミサイルの爆音だ。ミサイルの方は幾分大人しくなったような気がする。
サイが小屋から出てくる。お、一瞬忘れてた。
――はい久し振り
「その小屋か?」
――ほんのちょっと違う
溜池とその小屋の中間地点へサイは短剣を投げて突き立てる。そしてあの体勢になって来た道を戻り始める。探りながらではないのでかなり速い。傍目には全く人間に見えない。
――小屋は地下室への入り口の一つ。下に発電機があって、水は下へ配管を通して吸われてる。日中の地上は暑いから、涼しい地下で水冷式にしてるみたいよ。わざわざこんな手間をかけないと破壊できないって意味でもね
「なるほどね。それであの短剣は?」
――大体あれが発電機の中心部。地下室見て回って正確に判断すればいんだろうけど、広いし石油臭いし見取り図で見当つけてきた
「ほう、臭いの嫌いか? 俺の……」
続きを言おうとしたらサイは用水路へ潜りこみ、鉄柵を抜ける。サイが戻ってくるのを確認し、暗視スコープを覗いて照準を合わせ、突き立てられた短剣にレーザーを照射する。
「俺の何?」
戻ってきたサイは隣に来て腹這いになる。獣のように光った目が不気味。
「臭いの嗅ぐか?」
「内臓は美味そうだけど、嗅ぐだけ?」
ジェットエンジンの爆音が空から迫り、暗視スコープ越しの視界が土煙で埋まる。スコープから目を離して肉眼で確認すると、派手に爆発するわけでもないのでよく分からない。ただ探照灯が上空を照らすのを突然止めた。大成功。
「嗅ぐついでに内臓の生成物飲ませてやろうか?」
もう一度暗視スコープで確認。地下室へ繋がるという小屋は潰れ、溜池があった場所は穴になり、用水路から流れる水が滝になって注がれている。暴れる馬が一頭その穴へ落ちる。
「精巣は生で食うのが好き」
ケツを痛いくらい鷲づかみにされる。うつ伏せじゃなかったら玉の方か。
「もう少し恥ずかしがるとか分かってないフリするとかしてくれよ」