表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

お昼の事

 教室棟とは別に建てられた専用の食堂棟は、ほぼ毎日と言っていい程生徒で一杯になる。座席も全校生徒分あると(まこと)しやかに噂されるが、誰も確認した事は無い。教室で済ませる者も確実に居るし、季節的にも菓子パンを買って外で、といった生徒は多い。

それでもやはり殆どの机に誰かしらが居る位に今日も食堂の中は賑わっていた。

 その喧騒の中で、警戒されている様に空いた空間が見える。中心で食事と談笑をしている男子生徒二名は、ある種異様なその空間を全く気にも留めていない。

 欠伸をかみ殺しつつ表れた礼士も気にせず、いつもの様に近寄りラーメン定食が乗る盆から梅握りを(さら)う。

「毎度思うんだけどラーメン定食ってやっぱ重すぎるんじゃないか?」

「付け合わせの握り飯攫っていきながら言う台詞じゃねえよな、買って来いよ。つーかお前今まで何処にいたんだっ」

 盆の前に座っていた茶色短髪の大柄な男子――岡野虎太郎(おかのこたろう)が声を張る。突然の無礼な行為に、怒鳴りはしないものの発言はしっかりと(たしな)める。その迫力に離れた場所から小さな悲鳴が上がる。しかし。

「屋上で寝てて、ウッカリ寝過ごしたから出遅れちまったぜ。今から行っても(ろく)な物が無ぇって。代金は払うから勘弁してくれ」

 差し出されたのは十円玉だった。当の礼士はどこ吹く風である。

「足りねえよ!」

 今度はさすがに声を上げた。

「今日は初見だから『おはよう』だねぇ、礼士」

 虎太郎の正面に座る新藤武(しんどうたける)は漫才の様なやりとりに参加せず、なんともマイペースな口調で挨拶を交わす。男子としては長い髪を一本にまとめており、全体の印象は一言で表すなら、細い。身につけている眼鏡のフレームも細い。

「ったく、そんな調子だと卒業出来ねえぞ」

「町内最大級の不良グループリーダーに言われたくはねえなぁ」

 込み合う食堂の中でも悠々と席に座れる、その理由がコレである。中学生とは思えない体格と雰囲気を持つ虎太郎は、長尾市でも指折りの不良派閥『テイルロード』の現リーダーなのだ。彼が現在の位置に収まった経由にも、当然礼士は関わっておりその流れから武を含む彼らの交友関係が出来上がった。

「全くだねぇ。だけど礼士、新学期最初の週からサボリまくっていたら、まず夏休みが無くなるよ」

「……ソイツはヤベぇな」

「まっ、どうせ補習も最低限しか出ねえんだろうけどよ」

 揃って笑い声を上げる悪友達に、武は呆れてため息しか出なかった。


「相変わらず、素行不良な話題で盛り上がってるわね……」

 少し離れた席で、登歌も不良同士の談笑を聞いていた。

「柴門さんって、穂摘君と友達なの?」

 向かい合った席に座り、サンドイッチをつまみつつ白玉(しらたま)すずめは首を傾げる。

「友達と言うより、腐れ縁って感じかしら。まだ小学校に上がる前の頃に、うちの道場に入門したのが礼――穂摘君と新藤君。それから今までずっとの付き合いね」

 要するに一般生徒から遠巻きに回避されている不良集団の内、過半数が良く知っている者という、なんとも居た堪れない状況なのである。すずめと食事中でなければ逃げ出していた所だろう。

 二学年からの編入生であるすずめは、まだ学校に馴染めていない。隣り街から引っ越してきたのも先月末で、地理も覚束無(おぼつかな)いで放課後の街で保護したのが、三日前。転校生は珍しいから、と覚えていた登歌が声をかけたのが切っ掛けで仲良くなった。黒縁に分厚い眼鏡と緩く編みこんだ二本の三つ編。外見通り引っ込み思案で上がり症だった彼女も少しずつだがクラスでも会話が増え、今では誰かと一緒に行動する事が増えてきた。

「柴門さんと穂摘君って組み合わせは意外だなって思ったけど、小さな頃からの付き合いならなんとなく納得。かな」

「意外……? そう見えるかしら」

「うん。だって長中でも筆頭とも言える優等生と、隣り街でも名前が通る不良だもん」

 一介の中学生とは思えない程の悪名高さである。想像以上の規格外に登歌は頭を抱えた。

「私への評価は置いておくとして、穂摘君の方は少し詳しい話を聞きたいわね……」

「ろくでもねぇ話だよ、時間の無駄だから止めろ」

 いつの間にか傍には礼士が居た。虎太郎から更に奪った梅握りを咥えて、すずめの隣に座る。

「ほ、穂摘君っ」

「何よ、聞いてたの?」

「何度も自分の名前が聞こえてくりゃあ、な」

 喧騒もそこそこに、礼士達が集まっていた席まではある程度距離がある。何と言う地獄耳だろう。

「わ、わわ悪口じゃないよぉお」

 すずめは両手を振り、涙目で全面降伏の体だ。

「分かってるって。こういう誰が聞き耳立ててるか分かんねぇ場所で、あんまり俺の事を知ってる様な話をすんなって言いに来ただけだよ」

「で、でもぉ」

「貴方達、知り合いなの?」

 礼士とすずめのやり取りは、出会って直ぐのものではない。すずめの性格を考えると、礼士とはかなり前から知り合って交流がある様子だ。

「ま、学校以外のコミュニティでちょっと。なっ」

「う、うんっ。課外活動の仲間、みたいなっ」

 礼士の言う学校外のコミュニティと聞いても、当然登歌には嫌な予感しかしない。

「ふぅん……、意外な組み合わせね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ