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帯解き祝いにゃ日が早い

 通り魔襲撃の夜から明けて小春日和。

 登歌は普通に学校へやってきた。しかしその隣に礼士の姿は無く、結局その日の授業には全く姿を見せなかった。登歌の話では、日の出と共に起床して和歌と喜一に一礼して、ちゃんと制服を着て出たらしい。自分にだけ声も掛けず出発した事に、登歌はあからさまに態度に出さないにしても、不服な様子が見て取れた。

 通り魔の件については、全衛隊から学校に通知があった様である。午後のホームルームでは担任が真っ直ぐ帰宅する様にと何重にも念を押していた。通り魔との遭遇の証言を信用されない事を懸念していた所にこの反応が帰ってきて、昨晩柴門家に集まっていた面々は少しだけ安堵した。

「とは言っても、昨日の今日は全然いつも通りだったねぇ」

「そうそう日常に変化なんてありゃしないわよ。あったとしてもワタシ達には関係ないだろうしさ」

 授業を終えたすずめと巽は、上履きを履き変えながら今日を思い返した。結局通常通りに行われた授業と、さして変わらない街の光景。通り魔事件の渦中であった時から変わっていないのだ。同級生が巻き込まれた所で変わる訳ではなかった。

「うーん、それはそれで寂しい、かな。友達のピンチなのに見ているだけなのは歯痒いよ」

「そりゃワタシだって……。せめてテイルロードに顔が利けば良いんだけど」

「私じゃダメだし……。岡野君に頼んでみる?」

「うーん、昨日のでかブツ? なんか見かけに寄らず甘そうだったし……泣き落とすか色仕掛けでいけそうねっ」

 巽がおどけた調子でグラビアアイドルの様なポーズをとる。しかしすずめは、何を想像したのか一瞬で顔を真赤にした。

「いいいい色仕掛けえええ!? 無理だよそんなの!!」

「ばっか声が大きい! 変な奴だと思われるでしょうが!」

 放課後で帰宅する生徒が集まる下駄箱の前で、彼女らは周囲の視線を一気に集めた。日常的に凡そ使わない単語を叫べば当然である。とは言っても、周囲もそれ程興味を持ったわけではなかった。程なくして再び玄関口には普段の喧騒が戻る。

 巽は肩を(すく)めながら歩みだす。

「と、とにかく岡野をとっ捕まえて、手駒にするわよっ」

「どっちが悪者なのか分からないよ……?」

 ともあれ方針は固まった。すずめは鞄の中から端末を取り出し、連絡帳を確認する。

 校門をくぐろうとした矢先、不意に大きな声があがった。

「オイ、そこの眼鏡と耳栓!」

「ふぇ?」

「誰が耳栓ですってぇ!? って、アンタ昨日の和装娘じゃない」

 たった一単語が気に触ったのか、巽が声色を変えて怒鳴り返すと、その先には多数の女子生徒とそれに囲まれる彩の姿があった。中には先日巽と一緒に居た女子の顔もある。

「この際『娘』は聞き流してやろう。ワシは貴様らに用事があるのじゃ」

 示指を真っ直ぐに伸ばしてすずめ達を指し示す。殆ど入れ違いでしか顔を合わせていないが、どうやら彩はすずめ達を覚えていたらしい。傲然な態度はやはり彼女の外見とは吊り合っていない様に見える。周囲の女子生徒はその違和感がツボに嵌ったのか、一気に彩に詰め寄った。

「きゃあああああやっぱり可愛いっ! その意地っ張りみたいな喋り方もちょう可愛い!」

「巽と白玉さん、この面白い子と知り合い?」

「今時珍しい装丁の和装ねっ。何処の銘柄?」

 かしましい事この上ない光景だった。学友達が放つ言葉の奔流にすずめは勿論、巽ですら割って入れなかった。耐えかねた彩が弱々しく救援を訴えた。

「……先ずはここから離れさせてはくれんか?」


「えぇい、余計に体力を消耗した……。近頃の娘共は皆ああいった気風なのか」

 せっかく手に入れた可愛いものを取り上げられてむくれる女子生徒達をなんとかなだめて、すずめ達は買い物客で賑わう商店街を歩いていた。すれ違う親子が、彩の姿を珍しそうに見つめる。

 時期こそ合えば和装は珍しい姿ではないが、面立ちと相まって彼女の姿はとても目を引く。

「目立つ格好して、目立つ場所に立って、目立つ言動してるアンタが悪いのよ」

 巽の歯に衣着せぬ意見を受けて、彩は言い返しはしなかったものの、極めつけのしかめっ面になる。間に挟まれているすずめは空笑いするしかなかった。

「ははは……。それで、私達に用事があるんですよね。えっと」

「あぁ、お主らには名乗ってはおらんかったな。彩と呼ぶがよい。敬称は不要じゃ」

「ん、彩やんね。了解」

「だぁれが愛称を付けろと言った!?」

 さすがの彩も今度は噛みつかんばかりの勢いで抗議した。すずめが必死になだめる。

 周囲の目も手伝って一息、表情を消して彩は改めて本題を始めた。

「とはいえ、貴様らに直接用がある訳ではない。本命は昨晩の銀髪じゃ」

「銀髪って、柴門の?」

「だね。でも柴門さん、今日は学校まで迎えが来てもうお家じゃない……かな」

 登下校共に、登歌は祖父である喜一が付き添っていた。彼は長尾で少しでも武芸に携わっていれば知らぬ者は居ないと言われる程の練達である。その姿を見た格闘技系部活動の生徒達は、それこそ俳優やアイドルに会ったかの様な反応をしていた。

 とはいえ姿を表せたのは一瞬で、下校時も登歌と合流後すぐさま帰宅してしまっている。

「なんじゃ、保護はしておるのか。それならば良いわい。では次の用件じゃのぅ」

「忙しいわねぇ。そっちもワタシ達関係あんの?」

「勿論。金髪の、礼士という小僧の所在は何処じゃ」

「今日は穂摘君、学校休んじゃってて何処に居るか分からないんだ」

 最初の話題が登歌だった段階で、すずめは次の用件も予想がついていた。

「どうせサボリでしょうけどね。何よ、彩やん結局アイツらに絡むんだ」

 巽は彩の呼称を改める気は無い様である。彩も再び顔をしかめたが、いちいち反応していては話が終わらないと思い至ったのか無視して話を進める。

「フン、昨晩の悪党共が狙うならこのどちらかと見ただけじゃ。娘の方は警戒が強い様子で問題は無さそうじゃが、小僧はどうも油断しておるようじゃのう。下手を打てば死ぬぞ」

「そ、それはダメだよぅ!!」

 日常では凡そ耳にしない言葉に、すずめは大声を上げて反応した。

 巽も昨晩の様子を思い出して考え込む。

「普段なら笑い飛ばす様な苦言だけど……用心に越した事は無いわよね」

「どうにかして捕まえてくれ。あの――端末とやらで探せぬか?」

「んー、私から直接連絡しても多分無視されちゃうだろうからなぁ。でも、丁度良いかな。ちょっと待ってね」

 すずめは端末を取り出し、操作する。

「取りあえず一番接触出来そうな伝手を確保できたよー。さっそく行こうかっ」

「おう、案内せいっ」


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