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フェイズ・ジョーカー  作者: ナイトレイド
つきのうさぎと魔法使い。
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五月二日


五月二日 AM7:00 国際ホテル 個室


 カーテンの隙間から差し込んでくる朝日によって目を覚ます。


朝日はまるであけろあけろと急かす様に絶えず差し込んでくる。目を覚ました相馬はうっすらと目をあけて部屋の中を確認する。


 染み一つない灰色の壁にシングルベッドが二つ、小さな家具が数個あるのみであぁ自分の部屋じゃないんだなと実感して、昨日の出来事が蘇ってきた。


 芳養麻が伝えたのは家に帰れないという衝撃の話だった。一瞬なんだったのかわからなかった相馬だが次に伝えられた情報に愕然としてしまった。


 家の近くで不発弾が多数見つかったということらしい。不発弾は第二次世界大戦期などに空軍が投下した爆弾が爆発せずに地面に埋まっていることを指す。


 だが、横坂市は内戦終了後に再開発して誕生した街で相馬の住んでいる地域も含め念入りに調べられているので不発弾はない筈。


 では何故ということになってテロリストが隠し持っていたらしい。


 内戦の時、相馬は田舎へ避難していて知らなかったのだが住んでいる場所の近くでテロリストが爆弾をセットしていた。


 セットして、いざ行動を起こそうという時になって警官隊によって全員逮捕、さらに設置した当人がその時の騒動で意識不明の重態。結果、爆弾の存在が有耶無耶になっていたそうだ。住んでいる人間としては何も知らずに生活していたのだからたまったものじゃない。


 どうやら犯人の一人が爆弾の隠し場所を話したらしくて自衛隊が緊急出動。周辺地域に住んでいる人達は安全の為に近くの学校の体育館に避難した。


 朱柚が警察からの指示を聞いて慌てて家族に連絡をしていたところ、相馬の携帯を預かっていた黒服の人が応対して芳養麻に伝え、やってきたということ。


 撤去処理がゴールデンウィークぎりぎりまでかかってしまうということになり本来なら自分も避難所に向かわないといけない。


 しかし、ユーリンが話を聞いてここにいればいいよと言って、その場で相馬の携帯で母親と連絡をして何回か会話をした結果、ゴールデンウィークの間、ユーリンと過ごす事が決定した。


 知らない人に預ける事になんら抵抗を感じない母親に思うところはある。


 ホテルの代金とか色々と心配したのだがアルバイトという形で、と芳養麻がいい、相馬は抵抗する間もないままここでお世話になることが決定した。


 現在、相馬はホテルの一室を借りている。


 服などは芳養麻の部下が朱柚から渡されて持ってきているので困らない。学校からの課題も既に終わらせているので問題ない。


 何もなさすぎて暇といえるほど、でも、これは目の前の大きな問題から必死にそらそうとしている為であって。


「・・・くー」


 真横から聞こえた寝息に体がビクゥ!と反応するのを必死に堪える。


 ちらりと目を向けるとネグリジェを着ている金髪の女性が気持ちよさそうに寝ているのが目に映った。


 朝から妙に刺激の強いものを見て頭は覚醒しているけれど打開策はない。


「どうしてこうなったんだ・・・」


 隣のベッドで寝ているのは世界的有名な歌手であるユーリン・ノーラン。どうして彼女が横に寝ているのかわからない。夜中に目が覚めて隣を見たら気持ちよさそうにしていて悲鳴を上げそうになった。


 裸だと錯覚してしまったからといのは既に過去に追いやろう。


 ネグリジェが少しめくれていたからというのもあるしなにより。


「隣で女が寝ているなんてそうそうあるわけないから・・・なんてアホなこといってないで着替えよう」


 音を立てないようにベッドから抜け出して置いておいた着替えを手に取りそのまま風呂場へ。


 国際ホテルのバスルームはトイレと一体化している。鍵をかちゃりと書けてさっさと用意されたスーツに着替えた。


 どうしてスーツか?


 理由はいたって簡単でこれからゴールデンウィークが終わるまでの間、表向きユーリン・ノーランの護衛として一緒にいることになったからである、まる。


 それともう一つ。


 ドンドンドンドン!


『おーい、相馬ナイトォ! 起きているか? 起きていなくてもすぐに目を覚ませェ! 今日から仕事だっぞぉ!』


 大変不本意なんだが。相馬は安倍彦馬の協力を求める事を芳養麻に頼んだ。


 最初、彼は信用できないと言い張ったが、裏切るようなら自分がぶっ飛ばすと念を押したので渋々という形で一度断った安倍彦馬を護衛として招集した。


 彼女を狙っている魔術師と戦うことになった時にベテラン(本人談)の安倍がいるだけで少しマシになるだろうと気休め。


 小さく息を吐きながらドアの向こうにいるであろう守銭奴兼バカに一言。


「美人が寝ているから声のトーン落とせ」


『は? なにいってやがるさっさと あ、なんだてめぇら? おい!なに俺の両腕を掴んでいやがる? は、離せ~~~~~~~~!』


 扉の向こうで悲鳴を上げて安倍の声が遠ざかっていくのを確認して相馬はポケットの中で押していた小型スィッチを指から離す。


 スィッチは芳養麻から渡されたものでもし安倍が鬱陶しかったら押すようにといわれていたので早速試してみた。効果は抜群。


 どうやら連行されるようになっているらしい。


「ふにゃ~~」


 さて、うるさい安倍が離れてくれたのはいいがこっちはどうしょうかと聞こえてきた声によって目を背けたかった事実に戻される。


 自分が間違えて彼女の部屋に侵入してしまったのかと慌てていたけれど、自分の所持品が置いてあったのでそれはない。だったら彼女がここにいることがわからん。


「あれぇ・・ナイト君」


「ユーさんどうしてぇえええええええええええええええええ!」


「朝から元気だね~」


「げ、元気とかそういうのではなくてですね! ゆ、ユーさんとりあえず何か羽織って欲しいんだけどぉ!」


「・・・どうして?」


 首をかしげるユーリンに振り返った相馬は必死に目を逸らす。


「だ、だって! 半裸じゃないっすか!」


 ユーリンは体の上にバスタオルを巻いているという状態でこちらに姿を見せた。どうやら思考の海と安倍で気晴らししたことで彼女が起きていたという事に気づかなかったようだ。


「だって・・シャワー浴びたから」


 そういって彼女は体にまとわりついている髪を手で撫でる。


 髪についた水滴がつつーと彼女の白い肌を流れていく。


「じ、じゃあ自分はすぐにここから離脱します」


 相馬は顔を隠してベッドの方に向かう。
























「あら。いないと思ったら貴方の部屋にいたのね」


「おかげで俺の心臓は爆発するかと思いました」


 ホテル一階にあるカフェテリアで相馬はリナイアス・ケイオスに今朝の出来事について尋ねていた。


 彼女が部屋から抜け出しているというのが騒ぎになっていないことに少し気になって秘書であるリナイアスに事情をしたのである。タオルを巻いて現れたことについては隠したけれど。


「あの子、朝は低血圧なのよ」


「・・・そういう理由じゃないと思うんですけど」


 くすくす笑うリナイアスに相馬はため息を吐いた。


「でも、貴方の事を信頼しているということだけはわかったわ。ベットにいないと思ったらまさかねぇ」


「信頼とは・・なんか違う気がするんですけど」


「それは貴方がまだ経験がないからよ」


 そんなものだろうかと首をかしげている横でコーヒーを一口飲んでからリナイアスは壁を指差す。


「一つ聞きたいんだけど、あそこで筋肉マン達にプレスされている人は放って置いていいのかしら?」


「いいんですよ。日本での風習であぁやって性格が捻じ曲がっているヤツは鍛えなおしてもらうものなんですよ。アイツは超性格が捻じ曲がっているのでしっかり修正してもらっているところなんです」


「なるほど」


 ウソだー!とかいう声が聞こえているがスルー。


「そうそうこの後の予定だけど教えておくわね」


「お願いします」


 リナイアスは手帳をスーツのポケットから取り出すと本日の予定を教えてくれる。相馬も生徒手帳のメモ用紙に記入する。


 五月四日に行なわれるコンサートに向けて二日は衣装合わせを行い、三日は会場下見とリハーサル。


 それ以外は自由時間という名目だがほとんど警察やSP達の手でガチガチの護衛のために外出とかは無しらしい。


 息が詰まりそうな予定だと思う。


「一応、衣装合わせとかの間は女性警官や私達が護衛をしておくから貴方とあそこで性格を矯正されている哀れな子は大人しくしていてもらえる」


「わかりました」


 うぉおおい。俺を、俺を助けてはくれないのかぁ!という声は二人して無視する。


 基本的にユーリンの周りはプロの人達が護衛をするので自分ら一般人は仕事の邪魔にならないところでのんびりしていろということだ。


 素人がうろつかれたらプロの人にも迷惑になるという事は相馬もわかっているつもりなので大人しくしていようと思っている。


 問題は。


「あそこで性格を矯正されているヤツは好き勝手に動き回る可能性があるんで今のうちに徹底的にやっておく必要がありますね」


「それほどまでに歪んでいるの?」


「えぇ、金さえ積まれたらあっさり裏切ってしまうネズミマンほどに」


「ネズミ?」


「日本で昔からやっているアニメに登場するキャラのことです。お金に目がくらむと友情があろうとなかろうと容赦なく裏切るんすよ」


「それは最低ね」


「ですからここで徹底的に治しておかないと」


 話している二人の横でぎゃーーーーーーーーーーーという悲鳴が大きくなったが最後まで無視した。

























 騒がしい朝食を終えた相馬達はホテルから少し離れた所にある小さな市民会館へとやってきていた。


 ユーリンは最終日に行なわれるコンサートに着る衣装の試着を行なうのである。着て貰う衣装はどれも有名なデザイナーが考案、作成したものらしくてネットオークションで信じられない価格で買取がなされている。


 入口をはじめとする外部の出入りがありえそうな場所を警察の人たちが固めている。


 そこで安倍彦馬と相馬ないとはというと。


「てめェ、相馬ナイト。お前はやっぱり敵だ」


「いきなり何を言い出すのかと思えばそんなことかよ。俺とお前は既に敵対関係だろーが」


 試着室とは別のフロアにあるホールで服がボロボロになっている安倍ががしりと肩を掴んで睨んでくる。


 頭にサングラスをのせて黒いスーツをきている姿はマフィアかやくざさんを連想するがはっきりいって怖くない。それどころか三下風の雰囲気があった。


「はっ。ほざきやがって」


「もう一回、スィッチ押してもいいよ?」


「やぁめぇてぇええええええ!」


 これ面白いかも。


 表情をださないようにしながら相馬はポケットの中にあるスィッチを手の中で遊ばせる。


「そういえば 爆散魔の魔術師について何かわかったことはあるのか?」


「少し伝手を使ってみたがこれといった情報はえられていない・・わかったのはコネフォの一族の関係者を探し殺しまわっているという事だ」


「コネフォ?」


「魔術師の中で存在がてめぇらの次に怪しまれている一族だ。詳しい事はわからねぇが強大な力を持つ魔術師の力を弱体化できるらしい」


「弱体化って・・・呪いの類か?」


「さぁな。一説じゃ神格的なものらしいといわれているが情報が足らねぇから根も葉もない噂かもしれねぇ。 まぁ、俺ら魔術師っていうのは悪の塊みたいな存在だからなぁ何か理由をつけたい奴らが勝手にいいふらしているだけかもしれない」


 大方、その魔術師は誰かに依頼されて殺しまわっているんだろうと安倍は推測していた。


「そんなもんか」


「お前もいい加減学習しろ。魔術師というのはどうしょうもねぇ嘘つきで卑怯で自分勝手な連中だってな」


「ほとんどがだろ」


 エイレーネは魔術師ではあるが嘘つきで卑怯じゃない。他人の為に体をはれるヤツだ。


 そんな相馬の言葉を安倍は鼻で笑う。


「だからお前は甘ちゃんだっていわれるんだ。一度助け合いしたからってあっさりと信用しちまうんじゃこの先生きていくのは無理だ。俺はお前を倒す事を諦めたわけじゃねぇ。隙されあれば俺が最強だということを証明してみせる」


 野獣のような獰猛な瞳を相馬に向ける。


 安倍は隙あらば敵対視する。それは魔術師が魔法使いに嫉妬するのとは違う。けれど、敵意はそれと同等のもの。


「俺は―」


 ドゴォオオオオオオン


 相馬が口を開こうとした途端、彼らのいた場所を爆発の光りが包み込んだ。


















「主任・・・陸自から連絡が」


「忙しくて出る暇がないと伝えておけ。大方今回の護衛に増援として参加させろという内容なのはわかっている。断れ」


 芳養麻は部下が持ってきた電話をとらずにきれと伝える。


 部下は少し悩みながらも上司の命令、電話の向こうの相手に応対するためにその場から離れた。


 テロが終わってからも陸自の公共への介入は度々起こっている。いくつかの問題でこれからの自衛隊の存続が話題になっている現在、少しでも陸自は点数を稼ぎたいのだろう。


 芳養麻は机の上でテトリスを行なっているであろう陸自の高官の事を思い出しながら舌打ちをしそうになる。


 警察は市民を守る要であり自衛隊は国家を守るものである。と芳養麻は考えていて今回の事件は国家を揺るがすものになりかねないが自衛隊の介入を許すほどのものではない。


 故に芳養麻は自衛隊の介入を拒む。それに自衛隊の参加を許してしまえば警察の威信にかかわるという考えもあった。


「これは我々の」





















 ドゴォオオオオオオン


















 何かが壊れるような音がしたと思ったら室内が小さく揺れる。


 ブッ!と室内の電気が消えた。


 停電して少し待つと予備電源が作動して暗くなっていた室内が明るくなる。


 明るくなったと同時に芳養麻は指示を出す。


「A班。原因を確認しろ! B班は護衛対象の安全ルートを確保!C班は私と一緒にこい!各自、武器を確認」


 指示に少し動揺していた護衛のメンバーが即座に動き出す。


 芳養麻は残りの部下たちと一緒に自分達の武器を確認する。


 ニューナンブM60とスタン式の警棒。


「相手はテロリストの可能性がある。武器を持っていれば迷わず発砲しろ」


 全員が頷いたのを確認して芳養麻は先行しているA班と連絡を取る為に耳元のインカムを起動させる。


「A班、状況を報告しろ」


『こ、こちらA班!襲撃者と思える存在と遭遇!で、ですが!』


 ノイズが混じりながら悲鳴に近い声が聞こえてくる。


 状況を報告しろと叫ぶ前にインカムの向こうから声にならない悲鳴をあげたSPと通信機が壊れた音が響く。


「くっ!」


 激しいノイズに耳を押さえながら顔をしかめた芳養麻は状況を整理する。


 インカムの向こうからは銃声のような類は聞こえてこなかった。敵は複数ではなく単独という事だろうか?あそこまで怯えた声ということは相手は人間ではない。


 一瞬、芳養麻の脳裏にあの時の出来事がフラッシュバックするが首を乱暴に横に振って否定する。


「C班の半分はB班と合流して護衛対象を安全な所へつれていけ!残りは私について来い!」


 全員が頷いたのを確認して芳養麻はA班の連絡が途絶えた場所に向かう。


 階段を駆け下りていくとこちらに向かって駆け上がってくるA班の一人の姿を見つけた。


 恐ろしいものを見たのだろうかその顔は恐怖で歪み、黒服はボロボロ、シャツは血に染まってぶよぶよになっている。


「おい、無事か!」


 芳養麻と一緒にいた部下が血まみれの仲間にかけよろうとした途端、壁を壊して巨大な口が二人の部下を飲み込んだ。


 声をだす事もなく二人は現れた異形の中に消えてしまう。


「なっ・・」


「あれは、まさか」


「そんななんで!」


 言葉を失う部下たちの前で壊れた壁からのそりのそりと緑色のトカゲみたいな怪物が姿を見せた。怪物の口からは部下の腕が伸びている。


 ぽたぽたと血と一緒に赤く細長いものが覗いているのをみた芳養麻は顔をしかめながらも部下に命令を飛ばす。


「撃て!」


「しかし・・!」


「あれに食われた奴らは生き残っているかどうか怪しい!二次被害が起きるとも限らない!撃つんだ」


 芳養麻が叫ぶと同時に部下も拳銃をトカゲの怪物に向かって発砲する。銃声がいくつも響いて怪物の皮膚を貫くことがなかった。ぽろぽろと凹んだ弾丸が地面に乾いた音を立てて落ちていく。


 トカゲの怪物の皮膚はかなりの強度を誇っているようで彼らの持っている拳銃では傷一つつかずぽろぽろと皮膚にあたって形状を変えた弾丸が地面にいくつも散らばっているのをみて顔をしかめる。


 この怪物には自分達の装備が通用しない。


 叩きつけられた事実に苛立ちを隠さずに芳養麻は後ろに下がる。


 怪物の黄色い瞳が芳養麻を捉えた。


 確証のない嫌な予感がして通路にあった柱に隠れる。隠れたと同時に柱を砕いてピンク色の紐のようなものが芳養麻の体に巻きつく。


 それが怪物の舌だと気づいた時はぐぃっと強い衝撃と同時に引き寄せられる。


 引き寄せられていく先は怪物の口の中。


 芳養麻の脳裏に怪物の口先から伸びていた人間の体の一部がフラッシュバックする。




「くっ――――ぁあああああああああああああああああああああ!」



 咄嗟に警棒を抜いて怪物の口、歯茎のところに突き立てる。警棒は最新式のもので相手を鈍らせる事ができる。警棒の針が肉に当たった途端、バチリ!と大きな音を立てて怪物は悲鳴をあげた。


 その拍子に絡みついていた舌が離れて芳養麻は床に尻から倒れこむ。


 苦痛に顔を歪めながらその場から走る。


 痛みでのたうちまわっている怪物の手や尻尾が壁や柱を壊しまわっている。もし尻尾か暴れている足に触れてしまえば芳養麻の小さな体なんかあっという間にバラバラになってしまうだろう。


 安全な場所を探しながら上空から音が聞こえている事に気づく。


「この音は・・・」


 少し遠いが芳養麻は一度聞いた覚えがある。


「芳養麻さん!」


「近藤か・・・この音は」


「――さっき無線から連絡が入ったんですけど・・・対自がきたそうです」


 告げると同時に無事だった窓ガラスを突き破って白い集団が一斉に姿を見せる。


 集団は腰の部分にワイヤーを装着していて怪物から距離を置いた場所から次々と降りてきて怪物に向かって攻撃を仕掛ける。


 芳養麻達が使っている拳銃で傷一つつかなかった怪物の皮膚が彼らの使っている武器によって至る所に穴が空いて緑色のドロドロした液体が地面に流れていく。


「どうしてここに対自がきているんだ?」


 対自。正式名称を対特殊生物殲滅自衛隊たいとくしゅせいぶつせんめつじえいたいといい。“壊れた夏”以降に行なわれたバイオテロによって生み出された怪物などを殲滅する為に組織された自衛隊。


 芳養麻達と同じ11係と同じ、世間に内密に組織された部隊。


「それが俺もわかんないんですけど、ノーランさんを安全な所に避難させていたメンバーが対自のヘリをみたとかで連絡よこしてきて・・・」


「だが、彼らが行動をしているなんて連絡はきていないぞ」


「どうしますか?」


 部下のどうするというのは怪物の事を対自に任せてこの場から離れるのか。彼らが活動を終えてから事情を問うのかという意味だろう。


 戦っている生物のほとんどは通常ではありえない特性を持つ生物を相手している。中には倒された瞬間に周囲四キロを滅ぼしたという話も少なくはない。


「あの生物がユーリン・ノーランを狙ったものなのか偶然なのかはわからないがここにいるのは危険だ。仲間を連れてこのホテルから離れ」


 離れるといおうとした芳養麻の声を掻き消すような奇声が聞こえてくる。隠れていた場所から顔だけを動かして二人は何が起こっているのか確認する。


 そこでは一方的な虐殺が繰り広げられていた。


 トカゲのような怪物は白い集団の持つ武器によって次々と体に穴を開けられて虫の息になりつつある。


 確実に殺そうとする白い集団の姿はまるで餌に群がるアリを連想させられた。その中で芳養麻はある事に気づいた。


「――少女だと」


 彼の視線の先には弱々しさがありながらも目の前の敵を追い払うのか本能的に食するためなのか舌を伸ばしてくる怪物の攻撃を避けながら発砲を続ける少女の姿を見つける。


 他のメンバーと同じように白い服を身に纏い、飛んでくる舌を右へ左へステップするようにしながら回避運動を取っていた。少女は体より大きな武器をぶら下げながら懐から細長いナイフを抜いて振るう。少女を狙っていた舌が先端から斬りおとされて地面に落ちる。


 少女がナイフをしまうのと怪物が地面に崩れ落ちるのとほぼ同時だった。


 怪物が動かなくなったのを白い集団が確認している所に芳養麻はゆっくりと隠れていた場所から姿を見せる。


「私は警視庁公安部公安総務課の芳養麻というものだ。キミ達に聞きたい事がある」


 少し警戒しながら芳養麻が自分の身分を明かすと集団の中にいた一人がかぶっていたバイザーを脱いで敬礼する。


「自分は対特殊生物殲滅自衛隊の第04部隊の部隊長を務める桐山です」


 芳養麻は敬礼を返す。


「早速だが、何故ここに対自がいるのか教えてもらえないだろうか」


「先刻、A級指名手配されていた科学者の製作した合成獣がこの付近で保管されているという情報を入手し我々が駆けつけたところ何者かによって保管カプセルが破壊されており追跡したところ合成獣の反応を確認、殲滅するべく我々が駆けつけた所存です」


「なるほど・・・そのことは理解した。だがこの地域に関しては我々警察も念入りに調べていたが?」


「地下何百メートルという場所に埋められておりカプセルも探知機ににひっかからないもので作られていたそうです」


「・・・・」


「自分は死体処理の作業がありますのでこれで、失礼」


 ズガァ!と横になっていた怪物の腹から音が響いた。


「下がって!」


 何事か確認しようとした芳養麻を桐山が追いやって武器を構える。


 他の隊員達も武器を構えて警戒している中、ぶくぶくと怪物の腹部が風船のように膨れ上がりだした。


「・・・退避!」


 生物では起こりえないほどに膨らんでいる腹を見て危険だと判断した桐山が指示をだすと全員が武器をおさめて怪物から距離を置く。



「羽鳥!危険だ、下がれ!!」


 その中で一人だけホルダーからナイフを抜いて合成獣に駆け寄る少女の姿を見つけて桐山は叫ぶ。


 芳養麻は合成獣に近づいているのが先ほど舌を斬りおとした少女だと気づいた。


 少女は桐山の制止を聞かずナイフを構えて合成獣の腹を斬ろうとする。

















 刃が腹に迫ろうととする直前に赤い粒子が噴き出した。

























「・・・・」


 少女だけではない、桐山も芳養麻も合成獣の腹から噴き出した赤い粒子に目を奪われる。その横で腹からどろどろと血が溢れているが誰も目に留めない。


 噴き出した腹からゆっくりと二つの影が姿を見せた。遠くで待機している白い集団が武器を構える。


「ったく・・・力を使ったと思ったらあっさりと意識飛ばしやがって!運ぶこっちの身になって欲しいぜ、ってあら?」


 合成獣の腹部から姿を見せたのは二人の人間。安倍彦馬と相馬ナイト。


 相馬乃斗は意識を失っているのか安倍に担がれていた。表情は髪に隠れていてみえない。


 二人とも新品同然だったスーツはボロボロになり当然のことながら合成獣の体内にいたので血液やら粘液やわけのわからない液体でべとべとになっている。


 ぶつぶつと文句のようなグチを言ったところで安倍は周囲から突き刺さる視線に気づいた。


「あ?」










「―――確保ォ!」


 いち早く状況を理解した桐山は叫んだ。数秒後、安倍と相馬は対自のメンバーに取り押さえられてしまった。





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