四月二十九日
四月二十九日 PM16:50 国友高校 一年四組教室。
今日から国友高校をはじめとした世間はゴールデンウィークに入る。
普通なら一日か二日ほど学校が続くものなのだが理事長の計らいにより一日二日学校を入れるくらいなら長期休暇を与えてやったらどうだ?ということで二十九日から学校は休みとなる。
少しばかりの課題を与えて。
HRの担任の説明が終わってすぐに帰る生徒とのんびり話している生徒の中で友達であり前の席に座っている鎖音原流星は悪態をついた。
「あ~~。なんでこんな課題だすんだよぉ学校はー」
「休暇中のんびりせずに勉強しろってことなんじゃないか」
鎖音原のグチに相馬は苦笑しながら答える。
「ナイトさー この後暇か?暇だったら久しぶりに二人でゲーセンとかにいかね」
「いいかもな――すまん。無理みたいだ」
「へ?」
「相馬ナイトォいるかァ!」
乱暴にドアを開けて(てか蹴り飛ばしているように見えた)入ってきたのは特進クラスの証であるブレザータイプの制服を着崩した安倍彦馬。
特進クラスの制服と相馬のいるクラスは制服が異なる。
ブレザータイプが特進、普通クラスは詰襟。
同じなのはズボンだけだろう。
特進クラスというのはここ国友高校が設定している制度で成績優秀者だけが集っているクラスであり、特進クラスに席を置いている者は学費、食費といった様々な費用が全て免除されて勉強に集中できるようになっている。
エリート意識を持ってもらえるように他の生徒達とは違うという意味も兼ねて制服も違うのである。
場の空気が固まっている中で相馬ナイトだけが普通にしていて不良みたいな態度の安倍を指差して。
「アイツに呼ばれているからだ」
「おいおい、あの特進クラスに目をつけられるって大丈夫か?」
成績優秀者ではあるが人格に問題ありそれが特進クラスに対する印象であり一般クラスの理解。
鎖音原は特進クラスは良くないという印象が染み付いているので安倍と関わっている相馬のことを心配している。
「大丈夫だ(平穏からはめっちゃ遠ざかっているけどな)」
「何か問題が起こったら相談しろよ」
「すまん。ゲーセンはまた今度な」
おう!と手を振ってくれる鎖音原に振りかえして安倍のいる入り口に向かう。
「おっせぇんだよ。てめぇは!」
「偉そうに命令される筋合いねぇよ。てか何のようだ」
「予定が早まってユーリン・ノーランが空港に来る時間がかわった」
近くに人がいないことを確認してからあまり口を動かさずにポツリと告げた。周囲に聞き耳を立てているヤツがいないか警戒しているのだろう。相馬も出来る限り声を低くして尋ねる。
「いつだよ?」
「もう到着したそうだ」
「・・・・what?」
つい、大きな声をだしてしまったのは悪くないはず。さらにいうなら英語なのものだ。
「もう既にきてる・・って二回もいわせるんじゃねぇ!」
お互い隠し事があまり得意というわけではないようだ。小さな声だった安倍も怒りながら叫んだ。
「なんでそうなったんだよ。予定じゃ明後日だって」
「向こうの都合だそうだ・・・既に泊まるホテルに向かっているそうだからホテルで合流するからてめぇも付き合え」
「いや、俺、このままいけ・・と?」
「ぐだぐだうるせぇ」
断る!といおうとした相馬を予想していたのか首部分をむんずと掴んで歩き出す。
ちなみに相馬の身長は175センチで安倍は180センチはあるのでどうしても身長に差があるため抵抗することができない。
「おい!また首根っこ掴むな!足!足が痛いからぁ!」
安倍彦馬に首根っこを抑えられて相馬ナイトはずるずると廊下を引きずられていく。
「――相馬ナイト」
そんな彼の姿を廊下から一人、特進クラスの制服を着た女の子が鋭い瞳で見ていた。
四月二十九日 PM14:00 国際ホテル入口。
国際ホテルは駅の近くにあり旅行でやってきた外国人や家族などが利用する事が多い、ほかに外食用の施設も豊富な為、宿泊以外に利用する客もいる。
その入口で相馬は安倍彦馬に尋ねる。
「安倍よ」
「なんだ?」
「ホテルに来たのはわかったんだけど、なにするんだよ。話だとSPとががっちがっちに固めてんだろ?」
最近、国際ホテルはリニューアルオープンしたらしくて床の大理石は汚れておらず相馬の顔を映せるほどの綺麗さだ。白い大理石をみながらこれからの事を尋ねる。
「バカか。お前は俺達が相手にするのは強盗やスナイパーとかじゃねぇ。そんなのはSPとかに任せればいいんだよ。俺達が相手にしないといけないのは魔術師だ。しかも爆弾を使う・・もしかしたらここに爆弾を設置している可能性がある。俺とお前で爆弾を探す」
「見つけたら?」
「俺達で処理するに決まってんだろーが!」
バカなことを聞いてんじゃねぇ!と安倍は叫ぶ。それに対して困った声を相馬はあげる。さきほどの言葉どおりだというなら自分は爆弾を解体しないといけない。
そんなこと。
「はぁ! 爆弾の処理なんてしたことがないからわかるわけがないだろ」
「うるせぇ!処理したくなけりゃとっとと見つけろ」
「無茶苦茶いいだしたよこの人!」
「行くぞ」
有無をいわさぬ口調でホテルの中に入ろうとした安倍だが自動ドアを潜る。相馬は不安な表情を浮かべながら中に入る。
そして二人はホテルから追い出された。
「なんでだよ!?」
「だーかーら、俺達はユーリン・ノーランの護衛で」
投げ飛ばされた相馬は叫び安倍は目の前にいる警備員に中に入れるように詰め寄っている。
まさか入ろうとしてすぐに追い出されるとは予想していなかったのか少しイラついている。
「申し訳ありませんがお客様方の名前はリストにのっておられませんので館内へ入室させることはできません」
「さっきからいっているけれど」
このままでは埒があかないと判断した警備員は証明書を提示するように促した。口先だけの言葉を信じるほど彼らの仕事は甘いものではない。形式的な手順をふみさえすれば問題ないのだ。
「護衛の方だというのでしたら証明書を提示していただけますか?」
「し、証明書?」
はい、とホテルの人は頷いた。
「お客様がユーリン・ノーラン様の護衛の方だと仰るのならその証である身分証明書をお持ちであると聞いているのですが」
「そ、そんなの聞いてねぇぞ」
「でしたらお客様をこの館内へ入れさせるわけにはいきません。これが私の仕事ですので」
これ以上何かするなら警察を呼びますよという脅しに屈して俺達はホテルの入口から離れる。
「くそっ、どういうこったぁ」
ホテルを睨みながら安倍は毒づく。
「何か書類の手違いとかあったんじゃないのか?どうするんだ」
「ここで待っていても仕方ねぇ。今日は帰るぞったくガソリンの無駄遣いだぜ」
「まぁ、助かったかな・・ってうぉおおおおい!?」
相馬が少し考え事をしている間に安倍はぶつぶつと悪態をつきながらヘルメットをかぶりバイクを走らせた。
一人置き去りにして。
「・・・・マジかい」
国際ホテルから相馬の家に帰るまでは近くにある電車に乗って六駅ほど。
ここから駅までの距離は十分程度なので歩いていくかぁと相馬が踏み出したところで――。
「あーーーどいて~~~~!」
女の人が体当たりした。
不意打ちで避けられることができず、当然、受け身も取る暇もなく。地面に大の字に倒れて同じようにバランスを崩した女の人が彼の背中にのしかかる。
「ぐぇっ!」
潰れたカエルみたいな声をだして相馬は苦痛に顔をゆがめる。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃない・・」
苦しそうな声を漏らして相馬は彼女が退いてくれるのを待つ。
しかし、いつまで経っても女性が動く様子がないので。
「あの~・・女性にこんなことをいうのは大変申し訳ないのですが」
「はい?」
「重たいので退いてください」
あー、ごめんなさいといって女性は相馬から退いてくれた。本当に失礼な事をいっちゃったなーと心の中でぺこぺこ謝罪した。
でも苦しかったのも本当だから仕方ない。
腰が痛いと手をあてながらゆっくりと立ち上がる。
「ごめんなさい。大丈夫?」
「はい・・・えっと」
誰だ。この人?
相馬は目の前で頭を下げている女性の姿を見る。
帽子を深くかぶって髪を隠しサングラスで素顔を隠している。さらに黒いスーツを着て帽子で髪の毛を隠してしまっていたから女性なのか判断できなかったが、スーツの上からでもわかる胸の膨らみで女性だと判断できた。
少し大きいと思ったのは思春期なら誰でもあるだろう。
「さて、失礼します」
「待って!」
嫌な予感がするからこの場から離れようと考えたがサングラスをかけた女性は相馬の腕を掴んで尋ねる。
「お願いがあるの」
「お、お願い?」
警戒せよ。こういう時は決まってろくでもないことが次に発言される。今までの経験上相馬は予想した。
そして彼の予想は最悪な形で実現となる。彼の最も嫌いな言葉によって。
「――私を助けて!」
四月二十九日 PM14:50 駅前カフェテリア
「どーしてこうも俺は愚かな選択しかできないんだろうか」
はぁーとため息を吐いて相馬は隣を見る。
隣には「おいしいうどんランキングBEST5!」と書かれている雑誌を見てうきうきしている女の人の姿があった。
あれから詳しい話を聞くために相馬と女性の二人は駅の近くにある小さな喫茶店に来ていた。
ホテルの前で話していたら目立つ気がして相馬は駅の近くに喫茶店があることを思い出して移動する事を提案したのだ。
彼女は頷いてついてきてくれた。
ついてきた彼女は目の前のメニューではなく近くに置かれていたパンフレットを手にとって読んでいる。
困惑している店員に相馬は苦笑しながらコーヒーとオレンジジュースを注文した。
「どれもおいしそうー!」
「楽しそうに見てるね」
「そのためにこれがあるんでしょ」
「え?」
「このパンフレットはおいしいものをみて楽しむものなんでしょ?これはどんな味がするんだろう、おいしいんだろうかーって」
成る程と相馬は納得してしまった。
パンフレットというものをあまり読まないためにそういう考えをもたなかったから関心してしまった。
「そういう考え・・しなくなっていたな」
「きっと忘れているだけだよ」
「お待たせしました。コーヒーとオレンジジュースです」
「どうも」
店員さんが置いていった二つを見て女性は自分が何も頼んでいない事に気づいて困った顔をする。
「えっと・・」
「どれでもどーぞ。それとも水?」
「オレンジジュースをもらうわね」
「じゃ、俺はコーヒーで」
オレンジジュースを彼女に渡して相馬はコーヒーの入ったカップを引き寄せて置いてあるミルクを何個も手にとってコーヒーの中に注ぎこむ。
「キミ・・甘党なの?」
「まぁ、そんなところです。んー もう少し」
さらにシュガーを付け足して飲む相馬を見て女性はくすくすと笑う。
「変・・ですか?」
「少し変わっているかな。そんなに入れるのならカフェオレとか頼めばいいじゃない」
「・・・・・こいつはうっかりだ」
昔の時代劇にでていた人みたいにぱちんと頭を叩く。
盲点だった。
相馬が本気で言っているのだとわかって女性はくすくすと笑う。
「ところで助けてっていっていたけど、何から?」
女性がひとしきり笑ってから相馬は本題に入ることにする。
ホテル前でであって彼女は助けてといった。
一体、何から。
真剣な顔をして尋ねる相馬に女性は微笑んで。
「道案内をしてほしいの」
ちーんと相馬の頭の中で何かが響く。
「・・・・・・・・・・・・・道案内?」
「うん、しばらくこの国にいることになったんだけど、道がわからなくて助けがほしかったの」
「助けって・・案内の助けでしたか」
「そうだよ」
俺のバカぁああああああああああああと相馬は内心叫んだ。
羞恥心で一杯になる。
頭の中でアクション映画みたいな展開を思い浮かべていた愚か者。
ここのところ連続して巻き込まれた事件のせいで助けて=敵がいるみたいな考えが脳に染み付いてしまったのかもしれない。
「ダメかな?」
「助けてあげたいところだけど・・俺も予定あるし」
「ダメ・・・かな」
「今日ぐらいなら助けてあげられる・・それでいいなら協力できるけど」
「ほんとう!?」
ぐぃっと身を乗り出して女性は俺に尋ねる。
サングラスの向こうの瞳がきらきらと輝いているのは見間違いだと信じたい。
「あぁ・・・そういえば名前いってなかったっけ。俺の名前は相馬、相馬ナイトだ。よろしく」
「よろしく。ナイト君って呼んでいいかしら?」
「おう」
「私の事はユーって呼んで」
サングラスを外して彼女は微笑んで手を指し伸ばす。
差し出された手を相馬はみてから握り締める。
「ユーさんな。よろしく」
「よろしくね。ナイト君」
おまけ
バイクで道路を走りながらふと安倍彦馬は気づいた。
後ろがやけに静かだ。
さっきまでクソムカツク魔法使い相馬ナイトが騒いでいた筈。
なのに今はおそろしいほどに静かだ。
「おい、さっきから何を黙ってやがる。おそろしいつぅの・・・」
信号が赤になったからバイクを止めて後ろを振り返り固まった。
乗っていない。
後ろに乗せたはずの相馬がいなくなっている。
どういうことだ?
安倍彦馬は脳みそをフル回転させる。
ホテルまでは一緒だった。
一緒に入口に入って職員に追い出されて。
「・・・・・・・・・・・・・あ」
安倍はそこで気づく。
怒りのあまり自分はアイツをほったらかしにしたのではないだろうか。
勝手に後ろに乗っていると思いこんでここまで来てしまった。
「ま、大丈夫だろ」
アイツに関してそこまで義理立てする必要もないし。
どうせなら何か事件に巻き込まれないだろうか。
「俺にとってアイツの不幸ほど面白いものはねぇからなぁ」
悪人の笑みを安倍は浮かべてバイクを走らせる。